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第三章 瑞穂国の神々

56.瑞穂国創世記 第一章 第二章 ※読み飛ばし可※

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『瑞穂国創世記 ―第一章―
 人と妖怪と神が、今より遥かに近しい時代。
 昼も夜も曖昧で、天と地も今よりずっと近くにあった神代の頃。

 人間と妖怪がより良い関係で互いに生きるため、惟神クイナは幽世・瑞穂国を作った。水が潤い喰うに困らぬ国であるようにと、この名を付けた。
 幽世が歪まぬために「色彩の宝石」を臍に置き、国を維持した。
 良き国を作るため、信を置く六柱の神に国を任せた。

 神々には「色彩の宝石」を守るよう告げた。この宝石こそが幽世の理そのものであり、最も守るべき存在であると伝えた。

 水ノ神・淤加美は現世では竜神であり、罔象の分身である。この幽世の神々の長となり、皆を纏める。水は命の源、癒しの力である。

 日ノ神・日美子は現世では日向神の巫女であり、その神力を授かった神である。暗ノ神・月詠見は夜を守り月を読む神である。幽世の暗部を守る。
 二柱が力をあわせると、強い結界が生まれる。その結界が幽世を守り、瘴気を浄化する。

 風ノ神・志那津は若いが淤加美の信頼厚い神であり、強い神力と類稀な知恵を持つ。

 火ノ神・火産霊は一度は現世に残り、代わりに弟神の佐久夜が幽世に入った。妖力が強い火の妖狐を側仕として伴い、やがて番となったが、神力弱く妖狐に飲まれた。その後、火産霊が幽世に入った。罪を焼き罰を与える火を使う。

 土ノ神・大気津は現世では保食うけもちの神であり、土壌を豊かにし豊富な作物を実らせる種を持つ神である。クイナと一層仲が良かった。人を愛し、人喰の妖怪を嫌った。それ故に、幽世の有様に憂いた。

 クイナが作った幽世・瑞穂国は妖怪が住む国であり、人喰の妖怪も多くあった。
 人を愛し、妖怪を愛し、神に愛されたクイナは「喰わねば仲良くなれるかと言えば、そうでもない。喰わねば飢えるは人も妖怪も同じ。抗うのも当然の摂理なら、喰らうも摂理。それでも共に生きる法を探したい」という。

 大気津はクイナの言葉を汲み、自ら幽世の土となった。
「私が自ら土となり、多くの食料を実らせよう。人を喰わずとも済む食料を宿そう。いつか人を喰らう妖怪がなくなるように」と願った。
 しかし、大気津の願いは叶わず、人の代わりとなる実は成らなかった。
 大気津が消えた後、側仕としてきていた須勢理が土ノ神となった。須勢理は現世の根の国の神の子であり、亡者と同じ匂いをさせていた。

 こうして、瑞穂国の六柱の神々が定まった。
 大気津は幽世の土となり、他の神々と同様にこの国を守っている』


『瑞穂国創世記 ―第二章―
 幽世・瑞穂国の結界が緩み、人間が多く攻め込んできた。
 人喰の妖怪に怯えた人間は、妖怪を根絶やしにしようと瑞穂国に戦を仕掛けた。

 瑞穂国の民(妖怪)の八割は人を喰わない。何度も説明を重ねたが、恐怖で盲目になった人間には届かず。その姿は妖怪以上に醜く恐ろしい化け物のようだった。
 創世の惟神クイナは既にこの世に亡く、幽世の創世の理由を知る者もない。

 豊かで平和な瑞穂国を、人間は欲しがった。
 種族を守るための戦は、いつしか略奪のための戦となった。
 人間は瑞穂国を妖怪から奪い取ろうとした。妖怪に豊かな国など贅沢だと罵った。
 その強欲で身勝手な振舞が神の怒りに触れ、人間は一掃された。
 この時、色彩の宝石が人により盗まれ、現世に持ち去られた。

 この戦以降、瑞穂国は奴隷・餌以外の人間の侵入・繁殖を禁止した。

 奴隷や餌の人間の中に、時々、神に似た力を有する者の存在を見かけるようになった。
 それらの人間を「宝石」と呼んだ。
 宝石は力の種類により六つに分類され、それぞれに神の加護が与えられた。宝石の人間は妖怪の番か神の側仕として生き残った。

 六種類の宝石が揃った時、六人が力を合わせて「色彩の宝石」を作り上げた。
 数百年ぶりに瑞穂国に現れた色彩の宝石は国の結界をより強くし、幽世を盤石な国にした。
 しかし三百年程度で盗まれた。

 それ以降、宝石の人間は六人揃わず、色彩の宝石は失われたままである。
 宝石の人間は、滅多に現れない。希少で数も少ない。

 宝石の中には時々、一人で色彩の宝石の質を有する人間が現れるという。どこから湧いた噂かは知れない。実際に、そういう人間を見た者はない。
 色彩の宝石たる人間は、霊力が豊富で美味であり、六種の属性の力を使いこなす。宝石の代わりに臍を守る人柱として使うのが良いとされる』
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