香りの鳥籠 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
34 / 34

ぼく病気になっちゃった 終

しおりを挟む
 月日は流れ。冬の夜、ぬくぬくと温められた部屋のソファーの上。
 夏に番になった仲良し夫婦のメテオとランは思い思いのことをして楽しんでいた。

 寝間着姿のメテオが大きく足を開いて座った足の間にお揃いの寝巻を着たランが座り、眠る前のひとときを楽しん着姿のメテオが大きく足を開いて座った足の間にお揃いの寝巻を着たランが座り、眠る前のひとときを楽しんる。
 ランはラジオの音楽を兄にもたれて聞きながら暖かなハーブティーを嗜み、メテオはそんなランを腕で囲いながら本 を読んでいた。
 なにもそんなにくっついていなくても良かろうとも思うが、ランが甘えて腕の中にすり寄ってくるのが可愛すぎて多少本が読みにくくても許してしまうメテオなのだ。

 ハーブティーの入った兄と色違いのカップをテーブルにことんと置くと、ランは身体を半分よじって兄の懐に抱かれるようにして横顔を胸に摺り寄せた。

「うふふ。思い出しちゃった」
「なにがだ?」

 いやにご機嫌な声を出して思い出し笑いをするランに、メテオも専門書を閉じてテーブルに置くと、ランの髪を撫ぜてやる。

「この体勢になると思い出すんだよね~ ほら『白いぺたぺた事件』赤いのもでたけど」
「ブッー!!!!」
「きゃあ、兄さん汚いよ」

 本の代わりに持ち上げて少量だが口に含んだハーブティーを吹き出す兄に、ランはぺちぺちと兄の頬をはたいた。

 白いぺたぺた事件……

 挫折知らずに来たメテオの人生に小さな汚点を残した(?) 迷事件としてその後メルトにさんざん揶揄われることになったあの事件。
 メルトがあまりにも息子をこき下ろすものだから、最後にはアスターの逆鱗にふれ、二人そろって夕飯を作ってもらえなかったあの事件。

 結局母であるアスターがランに身体の仕組みの色々を口頭とそれ用の教育絵本(メテオの時も使っていたが、メテオはそんなことは覚えていなかった)を使って教えていった。

 メテオがこれまで中途半端に第2の性について徒然適当にランに説明をしていたことも母からあらためて注意された。まだ性別が確定していない子に、誰が好きとか誰を好きになれとか誘導するようなことを、あれこれをいってくれるなと。

 改めてランには性別は男女の他に第2性があり、アルファ、ベータ、オメガがあり、父と兄はアルファ、母はオメガである旨を伝えられたのだ。
 その際番関係の話は少し難しいため、細かな説明は先送りされることになった。ランのバース性が決まるまでは色々と混乱しやすいので、性別の自己認識の揺らぎを防ぐためだった。

 母とランとが食堂のテーブルで真面目に話しているのを、少し離れたソファーから父とメテオは聞いていた。

「ラン。もしも好きな人が将来できてね。その人とバース性が違っても同じでも。人を慈しみ愛する気持ちには変わらない。ベータだからどうとか、アルファだからどうとか。オメガだからこうしなきゃとかはないのよ。相手に真心を伝えて誠実に愛を注ぎ続けていくことが一番大切なのよ」

 アルファとベータであるのに父とは番になれなかったが誠実に父を支え続けた、母の深い愛情や人生観がランとの語らいを通じて、メテオとメルトにも伝わってきた。メテオはまだまだ未熟で自己中心的な自分の愛情の持ち方に猛省することとなったのだ。


「ねぇ、兄さん?」

 番になったランは色っぽいほどの深みのある声色でメテオの耳元に伸びあがって囁いてくる。

「あの時、もしも母様がこなかったら。僕になにしたの?」

 そんなことを悪戯っぽく婀娜っぽく囁くのだから、半年前までそれこそ清らか極まりなかった弟の成長度合いは果てしない。

 メテオはカップをランのそれの隣に置くと、耳元に囁き返した。

「じゃあ、ランも下脱いで。あの時みたいになって」
「ええっ」

 煽ったくせに恥ずかし気にするからやはりランはいつまでも可憐なのだ。兄の琥珀色の瞳が明かりに照らされ金色にきらっと光る。その瞳に灯った欲を見つけてランは兄の唇に軽く口づけをしてから、わざと煽るようなゆったりと艶めかしい手つきで、寝巻のズボンと下履きを脱ぎ去り、ソファーの下に落としていった。

「それで? どうするの?」

 ぐいっとメテオはランのあの頃より瑞々しい筋肉が満ち、弾力ある足を開かせると自分の立てた右ひざの上にランの右足をかけて開かせた。大胆に大きく開かれた恥ずかしい姿勢に、流石にランは少しもがいて身をよじる。

「やあ、恥ずかしいよ」
「ランが誘ったんだろ?」
「そうだけど…… あっ」

 すべすべしたランの陰茎は薄く柔らかなダークブロンドの中からゆるゆると期待に震えるように少しだけ立ち上がってきた。それを覆うように掌で掴むとするりと摺り上げた。

「ああっ きもちいぃ」

 甘い声で啼くランに、充実感を覚えて意地悪もせずにランの男としてのいいところを次々に刺激していく。

 流石にあの時手を出したら色々とのちに自己嫌悪で死にそうになる事件だったから未遂で済んでよかった。おかげでランは捻じ曲がることもなく、ちゃんと大人になってこうしていまはメテオの手の内にいる。

 器用に左手でボタンを開けていき、ぷくっと柔らかく立ち上がった胸先のふくらみを指先で触れたらランが小刻みにふるりと震えた。

「兄さん、あぁっ。手が冷たいよ」

 カップを手にしていなかった方の手が冷たかったらしく、やや不満げに細い眉を吊り上げるが、手の動きを再開させると、すぐにとろとろと綻んだように笑った。

「じゃあ、ランが温めてよ」
「ふふっ。いいよ。沢山あっためてあげるね」

 もうぺたぺた事件ごっこはおしまい、とばかりにランはメテオの腕から軽やかに抜け出して立ち上がり、兄の腕を引っ張意上げた。

「じゃあ、もう二階にいこうね。あったかくしようね」

 寝室へ誘われるだけでこんなにも胸が熱くなる。メテオはランを逞しい腕で軽々と抱き上げる。

「兄さんのぺたぺたは、全部ランに注いでもらわなきゃ、ね?」
「そんなこといって、お前。朝までかかるかもしれないぞ」

 そんな軽口を唇でやわやわと塞ぎあって。仲睦まじい二人は笑いあいながら二階へ上がっていった。




 終





















しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

一ノ瀬麻紀
2023.10.29 一ノ瀬麻紀
ネタバレ含む
2023.10.29 天埜鳩愛

ご覧いただき有難うございます!
こちらのシリーズのモチーフと「仔犬のキス~」はついになっておりまして
兄と弟 アルファとオメガ 現代とファンタジー
という感じです
もしもメテオが弟だったらこんな感じの行動取るかな?という妄想が和哉(笑)
どちらもご覧いただいて嬉しいです✨

解除
一ノ瀬麻紀
2023.10.25 一ノ瀬麻紀

新作がシリーズとお聞きしたので、はじめから読もうとやってきました。

オメガフェロモンを調香して香水として販売されてるのですね。
科学的な香りではなく、自然な香りなんだろうなぁ。

執着攻めと溺愛タグが付いてるので、楽しみに読み進めようと思います💕

2023.10.25 天埜鳩愛

ご感想ありがとうございます。
オメガバースと言えば、フェロモンの香り
どんな風に互いの香りを感じているのだろうと思いを馳せながら書きました✨
各キャラごとにイメージする実在の香水もあります~
シリーズそれぞれよろしくお願いします。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。