香りの鳥籠 Ωの香水

天埜鳩愛

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ぼく病気になっちゃった4

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 ミリヤ婆さんのパン屋の孫娘ウィンは気風がいい姉御肌で知られているファサの娘で、本人も母と同じくここら辺の女の子たちみんなの姉さんのような、とても頼もしい娘だ。
 小さい頃はそれこそ真っ黒に日焼けして髪も短く男の子みたいだった。
 年はメテオより2つ下だが体格が良かったウィンと、メテオと同年代のもう一人の幼馴染である漁師の息子のケレス。よく三人でつるんで木登りしたり、冒険するため小船で隣の島まで行こうとして途中でケレスの親父さんに海の上で捕獲されて大目玉を食らったり。ウィンは両親が番同士だったこともあり、『あいつ、きっとアルファだろう』と周りから一目置かれるほど、大きくて喧嘩も強かった。(そのあたりはウィンの弟でやたらランをかまってくる気に食わないガキ大将、リアムにも似ている)
 父親似で目鼻立ちがはっきりしたグラマラスな迫力美人に成長してきたのち、実はオメガであることが判明して、それ以降はアルファであるメテオにとにかく押せ押せで迫り倒してきていた。
しかしメテオが一向に自分を女性としても、オメガとしても見てくれなくてあのような啖呵を切られたのだ。

「お兄ちゃん?」

 不安げな声で腕の中からランに呼ばれてしまって、はっと我に返る。

「ラン、やっぱり病気なの?」

 弱弱しい声を出してまたぽろぽろ泣き出した。そうしている間にランの股間のものはくたりと静まってきたようで、それに気が付いたランは泣きながら自分のズボンの紐を緩めて上から中を覗いてみていた。

「腫れたの、終わったあ。でもどうして? ううっ、父様と母様のとこいってくる」
「ちょ、ちょっとまったラン!」

 何故だか焦って止めてしまったメテオだが、自分で自分の行動にびっくりしてしまった。これは両親から教えてもらった方がいい話だろう。成長の上でとても大切なことだ。
 しかし……。こんな時でもランの全てを独占していたい気持ちがむくむくと沸き起こってしまうのだ。これはもう自動反応としか言いようがない。

 ランがびっくりして大きな目を零れそうなほど見開いてパチクリさせている。
 綺麗な涙の雫がぽろっと落ちてそれを反射的に拭いながらも内心焦り倒していた。

(ちょっとまて、といった手前話をしないとまずい)

 これは成長において誰にでも起こりうる普通のこと、大事な話。
 なにもやましいことなどない。大事に慈しんできた弟なのだから、兄として話せることがあるはず。

 自分で自分に言い聞かせる程言い訳じみて、ものすごい顔で睨みつけてきたウィンの顔を思い出してはこれでいいのかと自問自答する。

「ラン、綺麗にするぞ」

 取り合えずべたべたとしてしまって気持ちが悪いだろうとズボンに手をかけ、下着と引き抜いてやった。そして背中から抱き込んだ状態で、枕元にあるランプを置いた小さな台の引き出しから折りたたまれて置いてある花紙とタオルとを取り出して足の間をぬぐってやる。少し固まりかけていたが取れなくはなく、細く白い内ももには鳥肌が立っていた。陰茎も縮こまり、いつも通りの幼さだ。

「うう、まだぺたぺたしてる」
「そう、このぺたぺたは、おしっこじゃない。大人になるとここな、おしっこでるところから別のものもでてくるようになる。ランがもしアルファとベータだったら、ここを」

 陰茎に触れぬように指さしながらメテオは努めて平静な声を出して教える。

「ベータの女性かオメガの子供を育むお部屋に通じる穴にさす。そうするとさっきのぺたぺたがお腹に入って子供ができる」

(我ながらざっくり…… 苦し紛れすぎる)

 細かい説明はバース検査が済んだのちに家族総出で少しずつ教えていこうと思っていたのでまさか精通の方が先だという発想が若いメテオには思い浮かばなかったのだ。どこまでもランは子どもで、女神の御使いの様に清らかで、こういうことに縁遠い存在となんとなく思っていた節があった。

「ふーん?」

 ランの柔らかな長めの髪が、小首をかしげてさらっとゆれる。そのてっぺんにキスをしてやって抱き込むが、ランはまだまだ疑問が多いらしくて(当たり前だが)納得していないようだ。

「僕はアルファかベータってこと? なんでお嫁さんがいないのにここからぺたぺたがでたの? なんでさっき腫れたの?」
「ああ、それは……」

 勿論いつも通り冷静沈着カッコいい兄を演じているが内心は自分がやらかした失敗に頭が真っ白になりそうなメテオだ。

(失敗した、やってしまった…… 中途半端に話をしたから真面目なランを逆に煽ってしまった……)

「いつか子供が欲しいと思った時のために身体が練習するため、寝ているときになにかいい夢を見た時とかにたまに勝手にでるんだよ」

「お兄ちゃんも?」

 振りむいて兄をピュアな瞳で見上げるランの愛くるしい顔に、ひくりっとメテオの頬が引きつる。

(ぐぐっ、清純な言葉と顔とで責め立てられてる心地だ)

「も、もちろんお兄ちゃんもなる。正常だ。病気じゃない」

 ここで引き下がるかと思ったが、ランは細く形の良い眉を寄せて思案気な顔をした。こういう顔は血がつながらないのに父の影響を存分に垣間見える。

「わかった。でも変。さっきは起きてたのにここ硬くなって痛くなってた。どうして硬くなったの? あとなんで今は硬くならないの?
あと、寝てる時だけでたら、お嫁さんとは寝ているときに赤ちゃんの穴にいれるの? 眠っててできるの? あと、ベータとアルファの男の人だけなるなら、僕はオメガじゃないよね? もしかして商店街とか市場の女の子とか……、ウィンお姉ちゃんとかと結婚できるの?」

 メテオは頭をトンカチで殴られたぐらいの衝撃を覚えた。それこそガーンと頭の中でなったほどだ。

「ラ、ラン? お前ウィンのことが好きなのか? 百歩譲ってリアムじゃなく??」

 焦りすぎてランの肩をきつく掴んでい待ったせいで痛そうに吐息を漏らされた。

「やー。痛い。だってお兄ちゃんがいったんでしょ? アルファとベータのって。オメガじゃないなら、僕、お嫁さんのこと考えないといけないでしょ? ウィンお姉ちゃんは大好きなミリヤお祖母ちゃんの孫だし、いっつも美味しいパンくれるし、カッコ良くて綺麗だもん。お姉ちゃんがオメガだから、僕がアルファだったらウィンお姉ちゃんと結婚できるよね? ベータだったら、商店街か市場の女の子たちの誰かと結婚するね。みんな優しいし、いろんなゲーム教えてくれるよ」

 ぬかった……。メテオは頭っからランがオメガと思い込んで接していた悪い癖がある。だから女の人や女の子と遊ぶことはあまり問題視せず、同年代の男の悪ガキたちを追っ払ってきたが意外な伏兵が……

『ランがオメガじゃなかったらどうするの?』

 小憎らしいウィンの言葉が現実となったらどうしよう。しょうもない嫉妬心や不安が渦巻いて、メテオはランに思わず禁断の一言を言ってしまった。

「ラン、オメガでも沢山は出ないけどここから、ぺたぺた薄い奴でるらしいよ。起きてる時にもぺたぺた出るようにしていくのが、大人になる証拠。ラン? ぺたぺただしてみる?」
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