香りの鳥籠 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
28 / 34

ぼく病気になっちゃった1

しおりを挟む
 本篇のイメージ壊れる方は回れ右を……
 ショタランとメテオの迷走劇。お楽しみください。



  その日はいつも通りの朝だった。ぽかぽかとした日差しが母のお手製のパッチワークの黄色い花を模した布団カバーの上に陽だまりを作っている。

  ここは調香師メルト・アスターの自宅の2階ある、息子二人の部屋。

  朝になって兄のメテオが開けてくれた窓からはカーテンを揺らしてそよそよと温い風が入ってくる。窓辺に吊るされたラベンダーのサシェも揺れて、枕元のそれと共に穏やかなまた眠りに誘われそうな甘い香りを届けてくれる。
 いつも通りの穏やかな朝。
 しかし温もり溢れる寝台の中、幼いランは途方に暮れていた。

(どうしよう…… どうしたらいいの?)

  その日の朝、ランは内容もうなにか覚えていないけれど少しふわふわとした夢を見て、いつも通り自室の寝台で目を覚ました。

  もしかしたら兄が足の間にランを抱えて抱っこしてくれて、商店街の坂の上にある港を見下ろせる公園で二人で星をみていたとか、兄と市場に好物のトマトに砂糖が掛かった串を買いに行くとか、そんな甘い夢だったのかもしれない。

  ランにとって起きてる時も、もしかしたら眠っている時も、一番幸せを感じる瞬間と言っえば、8つ年の離れた兄のメテオと一緒にいるひと時をあげるだろう。
  血のつながらぬ兄だが、いつでもランのことを気遣い、それはもう本当に大切にしてくれる。商店街のパン屋のお姉さんに言わせれば過保護過干渉しつこすぎなのだそうだが、ランは別にいつだって兄が一緒なのは嬉しい。
 ハンサムで優しくて賢くて。大好きなランだけのお兄ちゃんだ。

  これはもうランが幼いころからの習慣で、共に同じ寝台を使って寝起きしている兄のメテオは、今日は父の手伝いで朝から工房に行くらしく早起きしていた。すでに身支度を済ませて部屋を出ていったようだ。
  現在育ち盛りのランの睡眠をしっかり確保するために、夜遅くまで父と工房で作業した時や朝早く出ていくときなど、いつでもランを起こさぬように細心の注意を払ってくれている。兄のぬくもり残る心地よい寝台の中、おかげで今朝もランは少し御寝坊をしてしまった。

  いつもだったらたっぷり眠ったあとのとても爽やかな目覚め。すぐに飛び起きて子猫が背を伸ばすようにぐいーんと腕や背中を伸ばして、そのあとすぐにまずは一階の洗面台まで元気に駆け下りていく。

  しかし今朝は様子が違っていた。ランは何故か寝巻の下、自分の下着が濡れていることに気が付いて心底泣きそうになっていたのだ。

 おねしょなんて最後にしたのは記憶にないほどずっと昔。ごくごく幼い頃も夜中にトイレに行きたくなるのを見計らって、兄が抱き上げて連れて行ってくれていた。トイレに向かうまで暗い思いも怖い思いもせずに伸び伸びと用を足して。おねしょに至ることなんてなかった。

  ところが…… もうじき12歳、少しずつ兄から店のことを教えてもらい始めて『何年かしたらお店に一緒に立とうな』とメテオと約束したところだというのに、急に粗相をしてしまったなんて。恥ずかしくてとても兄や父母に言えそうもない。

  ランは恥ずかしくてたまらず、真っ赤の顔のまま、布団にくるまって、もじもじ、もぞもぞを繰り返していた。

(一階の洗面台までいって、こっそり下着洗いたいけど、階段を降りてすぐにお兄ちゃんに会っちゃったらどうしよう)

  メテオは兎に角ランの言動に目ざといから、すぐに普段との様子の違いに感づかれてしまうかもしれない。日頃から着替えて一階に降りてから朝食をとっていればよかったのだが、まずは洗面台にいき、家族に挨拶してそのまま朝食をとって着替えて…… そんな流れに最近はなっていたから着替えて降りたらすぐに異変に感づかれてばれてしまうだろう。

(お兄ちゃん、今日だって朝までずっと抱っこしてくれて眠っていたのに。朝になってお兄ちゃんが起きてからこんなことになっちゃってたら変だって思われちゃう)

  しかも何故か股の間のあらぬ部分が起き抜けからじんじんしたままで、何故だか硬くはれ上がっている。恐る恐る手を伸ばして指先でつんっと触れると、さらに硬くなった。しかもなにかその場所からぞわぞわと変な感じがじわりと伝わってきて、ランはいよいよ泣き出しそうになってしまった。

「ふぇっ?!  なんでぇ???」

  おねしょはするし、こんなところが腫れてくるし、こんなのおかしい。

「どうしよう。僕病気になっちゃったかも」

  そんな時突然部屋の扉がかちゃりといったので、ランは身を竦ませた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...