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番外編 ヒート休暇のお店番 6
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一週間に渡った祭り期間の最終日、実際の祭礼日もメテオは朝からキドゥにいた。
かれこれ2日もまともにランに会えていない。 忙しいだけで全く癒やしがない。早くもラン不足で死にそうだ……
昨日の朝に二人の寝台に温みを感じながら微睡むランに添い寝し、やわらかな口元に口付けを落としてから、名残惜しく家を出てきた。それ以来会えていない。
結局客人はこちらに来ることが遅れ、昨晩夜になって宿につき、メテオも翌朝からのスケジュールを考えて、キドゥに留まらざるを得なくなったのだ。
現在中央で百貨店を経営している商家の方々が保養と新作香水の進捗やその他祭りの市に出ているハレへキドゥの人気店の主力品を見に訪れたらしい。
一人はメルトの古い友人で、今回は家族も連れてやってきていた。
婦人も娘も中央の人間らしくこちらから見ると堅苦しく見えるほどの厚手のドレスを纏って田舎にしてはマシな宿のラウンジね、という視線を周囲に送りながらパタパタと扇子をはたいている。
二人からうっすら香る香水はソフィアリの紫の小瓶だ。
「私も娘もメルトさんの香水の熱心なファンですのよ。特に紫の小瓶は限定品まですべて持っていますの。いつかモデルとなったご本人にお会いしたいと思っておりましたから、嬉しいわ」
この一家をソフィアリが夜に開く会食会に連れて行くこともメテオの大きな仕事の一つだ。
ソフィアリはこの街の顔として中央でも人気が高い。
軍にも顔の効く貴族院議員の名家出身で、中央の名門校では学年の首席をとっていた天才児の片割れ。その頃からの信奉者たちが今では中央の経済を回しているらしく、この街は彼らにとっても宝物のように大切に扱われているらしい。年に一度この場所にソフィアリに会いに集ってくる。
「本当はハレへの白亜館を取りたかったが予約が殺到していてねえ。去年から中央で人気の花火職人が海で打ち上げ花火をしているから人気に拍車がかかったのかもねえ」
残念げに呟く品の良い老紳士にメテオも丁寧に応える。
「海の女神の恋人は天の火の神といわれています。海と天の火。互いに惹かれ合うがずっと交わることができぬ二柱が、花火を海で上げることによって海の中で交わり、さらなる繁栄を見るものにもたらせてくれるともっぱらの噂です。国内の神秘を好む人からもこの祭りに興味が集まったらしいです。まあそのためなのか…… 今年はハレへは結婚ラッシュでしたよ」
昔は漁火を焚いて花を燃やして海に奉納し、海の女神と火の神の踊りを奉納するだけの祭りだったのをソフィアリがみなと知恵を出し合い磨き上げながら、一大エンターテイメントに仕立て上げたわけだ。戦後浪漫に餓えていた人々の心に刺さったのかもしれない。
今や国の中では戦後の経済復興の忙しさから心の拠り所を探す人々に端を発し、神秘的な場所を旅することがブームの一つになっているらしい。宝玉よりも美しい青い海と香る花畑の大地を持つこの街もその候補に上がっているのだそうだ。
「メテオさん、見れば見るとほどメルトおじ様にそっくりで……」
母親そっくりの肉感的な唇を持つブルネットの娘が頬を紅潮させ目を輝かせてメルトに向かい微笑みを浮かべる。
「いやあ、娘は小さな頃メルトにであってから理想の男性だと公言してはばからんでねえ。
息子さんがメルトの若い頃に瓜二つと聞いてからは君に会うことを楽しみにしていたのだよ」
何故か娘からやたら秋波というよりむしろ興味津々に見つめられてくるとは思っていたがそういうわけか。
未だにこんな若い娘からも慕われているとは。流石大陸一の色事師という伝説の異名は馬鹿にできない。
やれ小国の姫を袖にして命を狙われただの、やれオメガの香水のモデルは皆愛人だっただの……
父にまつわる噂や伝説は一緒に商談についていくようになってやたらと聞かされ、お前はメルトの息子にしては面白みにかけるなあと父の各地に散らばる悪友たちにはよく言われたものだ。
その父に瓜二つと言われるのはメテオとしては大変不本意なことなのだ。
メテオにしてみたら母を苦しめ続けた極悪人としての要素と、超えるに超えられない偉大な業界の巨人としての側面をもつ本当に複雑な思いをいだきやすい父親である。
「では後ほど父がおります店舗の方へご案内させていただきます。祭り期間の最終日だけ通常とは違う商品も扱っておりますのでご覧いただけるかと。父が海の女神をイメージして領主ソフィアリのフェロモン香水から派生させて作り上げました「青藍の小瓶」もお試しいただけます」
「ソフィアリ殿は私の母校である中央高等教育学校の元学生。才気を買われてこの地を大叔父上から引き継いでいで領主になられたという。あの魅惑の香水と海の女神の如き美貌は中央でも有名だな」
「はい。ソフィアリ様の青みがかった黒髪や海原の如き神秘的な青い瞳は、この街のものから見ると海の女神が人に化身しこの地に遣わされたのかと…… そう思うものもいたようですよ」
実際のソフィアリは女神というよりも非常に人間味あふれる精力的でかつ熱く、真面目な人物だ。
メテオとしてみると血縁者としてランと繋がる非常に厄介で厳しいランの実の叔父だ。
メテオは子供の頃からなにか好きなものを問われても答えることなく、すべてがそれなりに上手くこなせ、ゆえに自分を取り巻く全ては無味乾燥であった。
その人生に歓びと彩りを与えてくれた存在。
この世で唯一失いたくないものはランだ。だから叔父であるソフィアリや、ひいては中央にいる親族たちにランを奪われることがメテオの人生最大の恐れだった。
そのため今でもあの美しい顔を見ると悟られぬ様に注意深くしてはいるがある程度の緊張感を覚える相手なのだ。
逆にラグは大きな愛情を持って番を支え守り抜く誰よりもタフな男で、父よりも身近に感じるメテオの憧れだ。
そしてあの二人はある意味メテオが誰よりも認めてもらいたい者たちでもある。
二人のお眼鏡にすら叶わないようではとてもランを番にして、将来この地を盛り立てて行くものの一人には数えてもらえないだろう。
メテオはあえて若い頃の父のように余裕綽々とした雰囲気を醸した、新進の調香師にして実業家のような受け答えをして中央の人々を饗す。
ランのためならばいくらでもいいように好人物に擬態できる。
幼い日。日の光を凝縮させたように輝くランの瞳を覗き込んだその時から。
たったひとつの恋に他の全てを注ぎ込むことだけがメテオの生きる価値であり意味なのだから。
かれこれ2日もまともにランに会えていない。 忙しいだけで全く癒やしがない。早くもラン不足で死にそうだ……
昨日の朝に二人の寝台に温みを感じながら微睡むランに添い寝し、やわらかな口元に口付けを落としてから、名残惜しく家を出てきた。それ以来会えていない。
結局客人はこちらに来ることが遅れ、昨晩夜になって宿につき、メテオも翌朝からのスケジュールを考えて、キドゥに留まらざるを得なくなったのだ。
現在中央で百貨店を経営している商家の方々が保養と新作香水の進捗やその他祭りの市に出ているハレへキドゥの人気店の主力品を見に訪れたらしい。
一人はメルトの古い友人で、今回は家族も連れてやってきていた。
婦人も娘も中央の人間らしくこちらから見ると堅苦しく見えるほどの厚手のドレスを纏って田舎にしてはマシな宿のラウンジね、という視線を周囲に送りながらパタパタと扇子をはたいている。
二人からうっすら香る香水はソフィアリの紫の小瓶だ。
「私も娘もメルトさんの香水の熱心なファンですのよ。特に紫の小瓶は限定品まですべて持っていますの。いつかモデルとなったご本人にお会いしたいと思っておりましたから、嬉しいわ」
この一家をソフィアリが夜に開く会食会に連れて行くこともメテオの大きな仕事の一つだ。
ソフィアリはこの街の顔として中央でも人気が高い。
軍にも顔の効く貴族院議員の名家出身で、中央の名門校では学年の首席をとっていた天才児の片割れ。その頃からの信奉者たちが今では中央の経済を回しているらしく、この街は彼らにとっても宝物のように大切に扱われているらしい。年に一度この場所にソフィアリに会いに集ってくる。
「本当はハレへの白亜館を取りたかったが予約が殺到していてねえ。去年から中央で人気の花火職人が海で打ち上げ花火をしているから人気に拍車がかかったのかもねえ」
残念げに呟く品の良い老紳士にメテオも丁寧に応える。
「海の女神の恋人は天の火の神といわれています。海と天の火。互いに惹かれ合うがずっと交わることができぬ二柱が、花火を海で上げることによって海の中で交わり、さらなる繁栄を見るものにもたらせてくれるともっぱらの噂です。国内の神秘を好む人からもこの祭りに興味が集まったらしいです。まあそのためなのか…… 今年はハレへは結婚ラッシュでしたよ」
昔は漁火を焚いて花を燃やして海に奉納し、海の女神と火の神の踊りを奉納するだけの祭りだったのをソフィアリがみなと知恵を出し合い磨き上げながら、一大エンターテイメントに仕立て上げたわけだ。戦後浪漫に餓えていた人々の心に刺さったのかもしれない。
今や国の中では戦後の経済復興の忙しさから心の拠り所を探す人々に端を発し、神秘的な場所を旅することがブームの一つになっているらしい。宝玉よりも美しい青い海と香る花畑の大地を持つこの街もその候補に上がっているのだそうだ。
「メテオさん、見れば見るとほどメルトおじ様にそっくりで……」
母親そっくりの肉感的な唇を持つブルネットの娘が頬を紅潮させ目を輝かせてメルトに向かい微笑みを浮かべる。
「いやあ、娘は小さな頃メルトにであってから理想の男性だと公言してはばからんでねえ。
息子さんがメルトの若い頃に瓜二つと聞いてからは君に会うことを楽しみにしていたのだよ」
何故か娘からやたら秋波というよりむしろ興味津々に見つめられてくるとは思っていたがそういうわけか。
未だにこんな若い娘からも慕われているとは。流石大陸一の色事師という伝説の異名は馬鹿にできない。
やれ小国の姫を袖にして命を狙われただの、やれオメガの香水のモデルは皆愛人だっただの……
父にまつわる噂や伝説は一緒に商談についていくようになってやたらと聞かされ、お前はメルトの息子にしては面白みにかけるなあと父の各地に散らばる悪友たちにはよく言われたものだ。
その父に瓜二つと言われるのはメテオとしては大変不本意なことなのだ。
メテオにしてみたら母を苦しめ続けた極悪人としての要素と、超えるに超えられない偉大な業界の巨人としての側面をもつ本当に複雑な思いをいだきやすい父親である。
「では後ほど父がおります店舗の方へご案内させていただきます。祭り期間の最終日だけ通常とは違う商品も扱っておりますのでご覧いただけるかと。父が海の女神をイメージして領主ソフィアリのフェロモン香水から派生させて作り上げました「青藍の小瓶」もお試しいただけます」
「ソフィアリ殿は私の母校である中央高等教育学校の元学生。才気を買われてこの地を大叔父上から引き継いでいで領主になられたという。あの魅惑の香水と海の女神の如き美貌は中央でも有名だな」
「はい。ソフィアリ様の青みがかった黒髪や海原の如き神秘的な青い瞳は、この街のものから見ると海の女神が人に化身しこの地に遣わされたのかと…… そう思うものもいたようですよ」
実際のソフィアリは女神というよりも非常に人間味あふれる精力的でかつ熱く、真面目な人物だ。
メテオとしてみると血縁者としてランと繋がる非常に厄介で厳しいランの実の叔父だ。
メテオは子供の頃からなにか好きなものを問われても答えることなく、すべてがそれなりに上手くこなせ、ゆえに自分を取り巻く全ては無味乾燥であった。
その人生に歓びと彩りを与えてくれた存在。
この世で唯一失いたくないものはランだ。だから叔父であるソフィアリや、ひいては中央にいる親族たちにランを奪われることがメテオの人生最大の恐れだった。
そのため今でもあの美しい顔を見ると悟られぬ様に注意深くしてはいるがある程度の緊張感を覚える相手なのだ。
逆にラグは大きな愛情を持って番を支え守り抜く誰よりもタフな男で、父よりも身近に感じるメテオの憧れだ。
そしてあの二人はある意味メテオが誰よりも認めてもらいたい者たちでもある。
二人のお眼鏡にすら叶わないようではとてもランを番にして、将来この地を盛り立てて行くものの一人には数えてもらえないだろう。
メテオはあえて若い頃の父のように余裕綽々とした雰囲気を醸した、新進の調香師にして実業家のような受け答えをして中央の人々を饗す。
ランのためならばいくらでもいいように好人物に擬態できる。
幼い日。日の光を凝縮させたように輝くランの瞳を覗き込んだその時から。
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