香りの鳥籠 Ωの香水

天埜鳩愛

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 メテオは頭を冷やしながら夕食のトマトの煮込み料理を作った。しっかり煮込むほうがランの好みだが、今日は食べてから今後のことを二人で話をするため、早めに食べさせたくて手早くハーブを混ぜ入れた。

 今まではランの前で独占欲めいたものをできるだけ見せないようにしてきたつもりだ。
 素っ気なくはしていないはずだが、ピアのような農園の他のオメガとも普通に接してきたし、ランばかりをずっとかまってはいないようにした。

 実際はソフィアリが作った学校ができてからもランの勉強は自分で見て他所にやらなかった。
 買い物程度で外には出すが、ちょっかいをかけてくるやつがいたらすぐに知らせるように市場でも商店街でも触れてまわっていた。
 メテオのランへの執心は周知の事実で知らぬのはランだけだ。

 怖がられてよそに逃げられてしまっては元も子もないし、自分でも8つも年下の義理の弟への執着は度を超えているとは思っている。

 しかし、アルファとオメガの関係性としてみれば異常でもなんでもない。
 アルファは自分が求めたオメガを手に入れるためならばどんな手段でも講じるところがある生き物なのだから。

 ランにああまで宣言した以上、もうすぐ来るであろう発情期まで、本当に店を休ませて家にいさせようとも思う。閉じ込めるのはやりすぎだが、家にいてもらうようランと話しをするのだ。

 そして初めての発情期で番にしたい、一生傍にいてほしい。愛していると素直に告げよう。
 勿論否とは言わせないが……

 本当は香水づくりの今後において、父になんの異論も挟ませないほどの状態にまで持っていってから番のことを切り出したかった。

 これまで大切に大切に育ててきた。
 プレ発情期にはいったら仕事を休ませ、少しずつオメガとアルファの愛を込めた触れ合いに慣れさせて、心も身体も準備ができてから、自然に番になれるようにしてやりたかった。
 それなのに、嫉妬にかられて当たるような真似をして怯えさせてしまった……

 挽回せねばならない。今まで通りの優しい兄の姿を見せて、安心させるのだ。

 一つ呼吸と置くと、盆に料理と水差しやパンを載せてランを閉じこめた部屋の扉をノックする。
 中から返事はないので眠っているのか……

 鍵をだして扉を開けると、開いていなかった窓から風が吹き込み、着替えたあとの服のみが寝台に置かれて中はもぬけの殻だった。

 盆を取り落としそうになるのをこらえ、そのまま踵を返して1階に戻る。

 ランが行きそうな場所など分かっていた。ソフィアリの屋敷か、父の家ぐらいだろう。

 盆をキッチンのテーブルに置くと、そのまま勝手口から表に飛び出した。



 ソフィアリは、白いゆったりとした部屋着で番と共に夕方のひとときを楽しんでいた。

 日頃領主の仕事の補佐の傍ら、館や農園のオメガたちに気を配り、彼らから父のように慕われているラグも、夕刻からあとの時間はソフィアリだけのものに戻る。

 ソフィアリも夕食の準備が終わるまでのしばしの時間、仕事を忘れて番に甘えるのだ。

 二人仲良く寄り添ってソファーに座り、音楽を聞きながら軽く酒を嗜む。

 ソフィアリは無口で無骨で誰よりも強い、歳の離れたこの番のことを心から愛していて、ラグの胸筋が大きく隆起した胸にもたれかかるだけで幸せな気持ちになれるのだ。

 とくに数奇な運命に引き裂かれた双子の片割れの嬉しい知らせがもたらされ、長年の胸のつかえが取れた気がした今日だった。

 そんな団欒の中、本日3人目の来訪者がけたたましく屋敷を訪れ、家のことをしてくれているオメガの少女がソフィアリを呼びにやってきた。

 その少女に続くように、近年見たこともないほど焦った顔をしたメテオが部屋へ飛び込んてきた。

「ソフィアリ! ランはどこだ?!」

「落ち着きなさい。どうしたというのです?」

 子供の頃からよく知っている男の冷静さをかいた姿に、どうせラン絡みだろうなとは察する。昔はよく農園へランを探しに飛び込んできたのを思い出す。ランは気がついていないがメテオはいつだってランの一挙一動に惑い、突き動かされている。

「ランならずいぶん前に家に帰ったはずです。いないのですか?」

「いなくなった…… 俺のせいで……」

 人から羨まれ褒めそやされるアルファと思えない、あまりに情けない姿に内心笑ってしまう意地悪なソフィアリだ。

「ちょうどよかった。私からもお前に話がある。明日にはアスター老師も交えて話そうと思っていたが……  今はそれどころじゃないという顔をしているな」

「ランが他のアルファのニオイをつけて帰ってきた。ここの客だと言っていたが…… なにか知っているか?」

 ソフィアリに掴みかからん勢いのメテオを、間に入ったラグが制する。

「落ち着け。街から出たことのないランのことだ。ここにいなければアスターのところか街のどこかにはいるだろう」 

 メテオは片手で髪をクシャクシャとかきあげながら苛ついた口調でいう。
 ある部分では親よりも身近な存在であるラグの前ではいつもかぶっている猫がすっかりはがれるメテオだ。

「さっき俺がフェロモンをだして発情を誘発した。早く探さないと急にプレ発情期にはいったらランのフェロモンが街中で漏れることになる……」

 やれやれついに長い長い両片思い期間を乗り越え、メテオがランを番にしようと実力行使に出たのだなと年上の番たちは思った。

「メテオ、元はといえばお前がはっきりした態度を取らずにここまでランを甘やかして、気づかぬように囲ってきたからいけないのだろう。
 このまま何年もランを番にもせず苦しませるつもりならば、叔父として私にも考えがある。丁度中央からランの従兄弟が訪ねてきて、ランを番にしたいといってきた。明日にでも正式にアスターに申し入れる」

 ソフィアリがランと血縁関係があることを、メテオは当然知っている。
 ソフィアリはきっぱりと叔父の立場からそう言い、完全にメテオを挑発した。
 メテオはアルファのフェロモンを撒き散らしながらソフィアリを睨みつける。

「ランは俺の番だ。発情期がきたら、すぐ番にする」

 日頃領主として穏やかさを保ち声を荒らげないソフィアリが、久々に真っ青な目を剥いて怒った。

「どうしてそれを早く本人に言ってやらないんだ。ぐずぐずしていたからこんなことになるんだろう。とにかくランを探さないと。ラグ、申しわけないがメテオと先に街へ行って。私もあとから行くから」

 はあ、と大きくため息を付きソフィアリは身支度をするため部屋をあとにした。

 ラグは日に焼けた丸太のように逞しい腕を伸ばし、本気の半分以下の力で、メテオの頭を小突く。それでも頭がぐらぐらとしたメテオだ。

「目が覚めたか?」

 ラグの深い森林のような緑色の目がじっとメテオを静かに見つめる。

「……ずっと覚めてる」

「番を持つということは、相手の人生すべてに自分も責任を持つということだぞ。たとえ親父さんに逆らっても、ランを守りぬいてその上でアルファとしてこの地に貢献する。
 お前がオメガの香水を作らないことで生じる全てに責任を取り、それのせいでランが傷つかないように守り抜く。それができなければ番にはなるな。ランを手放せ」

 ラグは年の離れた実の父より、メテオにとってずっと父親に近い存在だ。
 そしてたまにしか口を開かないが、いうべきことは雄弁に伝えてくれる。

「当たり前だ。俺はこのときの為にずっと準備をしてきた。ランを守る、香水も守る」

 素直に返事をしたメテオの頭をラグは満足げにニヤリと笑うと、再び小突いた。

「中央の貴族の小倅に、南の男の心意気を見せてやれ」


 クィートが宿泊していた宿は街で一番立派で人気の宿だ。街の人間もみな憧れている。
 真っ白な外観をして、窓辺には赤いベコニアが溢れるように植栽されている。
 すべての部屋から碧く煌く海岸線も眺められるのも売りだ。内装も遠い地域の真っ白な石を床に沢山敷き詰めていて、保養に訪れた中央の客も多く宿泊する。
 黄色やピンクの鮮やかな花々が飾られたロビーに香るのは、アスターがかつてこの宿のために調香したオリジナルのルームフレグランスだ。
 いつか入ってみたいと思っていた宿で、抱きあげられ上着をかけられた状態のランはその香りだけを感じていた。

 明かりを最低限に絞られた部屋で、ランは少し熱っぽい身体を大きな長椅子のソファーにもたれるように腰掛けさせてもらう。
 そしてクィートが宿に入るときに頼んでくれた柔らかいパンに具を挟んだものを食べさせてもらっていた。

 クィートには弟も妹もいるので、抱いて歩いているときお腹を鳴らしたランが気になってしまったのだ。我ながらしようもないことを気にするなと思うが、細かいことが気になる性格なので仕方がない。

 そのパンをもしゃもしゃと両手にもって食べる無邪気な顔は小リスのように本当に幼くて……

 初対面のときは印象的な燃え立つオレンジの瞳とダークブロンドの髪からミカ・アナン貴族院議員によく似ていると思ったが、顔立ちは甘く優しげで、炎のような気性のミカとは似ても似つかない。

 小さなときから中央で育っていたならば丁度弟たちの少し年下。
 遊びに来たり一緒に学校で学んだりしていたのかもしれない。
 しかし中央で貴族の家に男のオメガとして生を受ける事が果たして幸せだったかといえば……

 こんなに嬉しそうな顔で出会ったばかりの男からもらったパンを頬張ったりするような子にはとても育たなかっただろうなと思う。

 レモンを絞りいれた水を飲み干し、オレンジ色の印象的な目が愛らしい顔に、ほっとした笑みを浮かべる。
 椅子に腰掛けてランを愛おしげに眺めていたクィートと目があうと、更にニッコリと微笑まれた。

「美味しかったです……」

 礼を行って頭を下げる姿に、しっかり育ててもらったのだなと感じた。

「ラン、話がある」

 クィートは長椅子の隣に座り直し、ランを膝の上に抱き上げた。

 戸惑うランの手を取り、ハムとチーズの香りがした指先にキスを落として切り出す。

「ラン、お前は本当の親のことは知らないようだか、実はまだ生きている。俺の親族で、お前は俺の従兄弟に当たるんだ」

「え…… クィートは僕の、従兄弟?」

「そう。俺が本当の『お兄ちゃん』ってことになる。ラン、俺と一緒に中央にこないか? お祖母様たちも喜ぶ。皆良い家族だ。ソフィアリはお前の実の叔父にあたる。理由があってお前のことをずっと匿ってきた。他の家族にも会いたくないか?」

 ランは戸惑い顔のまま瞳を伏せて首を振ると、クィートの腕から逃れるようにして立ち上がった。

「僕の家族はこの街にいる人たちだけです。
 兄さんと、アスターのお父様と、お母様。それにソフィアリ様とラグ様。街のみんな。だから、他にはいらない」

 強い意志を示した顔は、ぐっと大人びて美しく見えた。クィートはその小さな横顔に見惚れていた。

 しかし熱っぽさから身体が傾ぎ、クィートは素早く立ち上がると羽のように軽いランを再び抱き止める。

 また強く強くランのフェロモンが香りたった。
 クィートは昼間より濃厚な、花束に蜜を足したような香りに当てられかけ、思わずランを抱き上げる。そして白く細い項に鼻を擦り付けるようにして香りをかいだ。
 強弱はあるが少しずつフェロモンの放出が強くなってきている。

 しかし当然親に会いたがり中央に来たがるとばかり思っていただけに拍子抜けしたが、それとランを番にしたいということは別問題だった。 

「わかった。ランはこの街が好きなのだな」
「クィートさん?」

 目線の高さに抱きあげられてお互いに目があう。ここにきてもまだ目を、ぱちくりさせているランの小さく慎ましやかな唇に自分のそれをゆっくりと押し当てた。
 紳士的な優しい口づけ。
 まるで初恋の頃に戻ったような気持ちだ。
 暖かくやわやわとした感触が伝わり、ランも嫌がる素振りはみせない。

「寝る前の挨拶のキス? もう寝るの?」

「……兄さんともしてるのか?」

 柄にもなく嫉妬したような口調になってしまった。まだ年若いが軍ではそれなりに仕事をしている。こんな歳よりずっと幼げな少年に振り回されてはいけない。そう思うのに。
 ふふっと甘えるように可憐に笑う、ランから目が離せない。

 ふわふわとした心地よい香りが匂いたち、このまま奪いたい気持ちと大切にしてやりたい気持ちの両方が浮かんできた。そんなことは初めてだった。

「兄さんは、一緒にお布団に入る前と、お布団の中で寝る前にしてくれます。あと朝とか出かける前とか」

 そういうものなのでしょう? という口ぶりに、こいつの兄はどういうしつけをしてきたのかと頭が痛くなった。

 しかしまだ未成熟でフェロモンが出はじめたばかりの状態では、相手をリラックスさせてさらなる発情を誘発する必要があるという。

 この、純粋な無知さを利用させてもらおう。

「そうだな。もう床に入ろう。一緒の部屋に泊まった人間は皆同じ床に入るものだ」

 そんなものなのだろうか。
 疑問に思いながらも、寝て明日になればきっと兄も落ち着いているだろうし、クィートとソフィアリの館に行って話をしたら、どうにかしてくれて、きっとまたもとのように暮らせるはず……

 発情期さえ来なければ、ずっと一緒にいられるのだ。

「発情期…… こなければいいのに……」

 寝室に運んだランが見透かしたような台詞をいったので、クィートはドキリとした。

「ランは発情期がきて、誰かと番になるのが嫌なのか?」

「……番になりたい人とはずっと、なれないから」

 ベットに腰掛けて頭を撫ぜてやる。懐っこく気持ち良さげな顔をするから、すっかり情がわいてしまった。

「……ラン、番を作れば、発情期になっても番が終わらせてくれるから、兄さんの邪魔にはならない。兄さんは番を作れないなら、ランが番を作ればいい。そうしたらずっと兄さんの傍にいられるぞ」

 言いながら少しずつ自身のフェロモンを解放する。
 爽やかな香りが立ち昇り、ランは僅かに心地よさ気な顔をした。

「僕が、番を作るの?」
「そうだ」

 嘘と本当を織り交ぜながら、狡い大人はランが嫌がらない柔らかなキスを唇に繰り返す。

 徐々にフェロモンに酔ったような酩酊状態になりランの身体は寝台の上にぱたりと倒れていった。体の力が抜け、横になり、少しだけ口元を開いて瞳を閉じる。その姿は幼いながらも扇情的だ。

「ラン…… 可愛いな。舌を出してご覧」

 とろんとした顔をして、ランは舌を素直に差し出す。少しずつフェロモンに絡め取られて来ているのかもしれない。

 啄むようにしてから舐めると、さらに香りが増してきた。チロチロと小さな舌でクィートの舌を舐めてくる。

「上手だ。もっと舐めろ」

 しかしやはりなにか違和感を感じたのだろう。急にやめると横を向いてしまった。
 
「やっぱりかえる……」 

 先程はメテオのことで頭がいっぱいだったし、熱っぽいし、お腹も空いているしで頭が回らなかったが。

 そもそも、アルファとは二人きりになってはいけないと言われていたことを今更ながらやっと思い出したのだ。それに、夕方兄にもされたあのキスみたいなものは、他の人とはしてはいけないやつな気もした。

 アルファと二人にきりになってはいけないのは、
 無理やり首を噛まれて、番にされたら駄目だから…… 番は好きな人としかなっちゃ駄目だから。アルファとオメガが恋人や夫婦がするようなことをして、首を噛むと番になる。

 そのうち兄さんがちゃんと教えてくれるといったけど細かいことはまだ聞いていない。

 でもクィートの言うとおり番を作ったほうがいいの? そうしたらメテオと一緒にいられる?

 ……やっぱり、駄目。
 ランが好きなのはやっぱりメテオだけだから。 
 番は一番好きな人とならないと意味がない。
 だけど、番になれなくても傍にいたい。
 辛くても、傍にいる。一緒ならきっと耐えられる。

「かえる……」

 メテオを思い、大粒の涙が部屋の明かりに照らされてオレンジに光りながら溢れる。

 しかし切なげで悩ましい顔をしたランを、クィートは獲物を逃さないよう覆い被さり腕の中に囲う。

「もう、帰さない。ラン、俺の番になれ」

 ついに本気を出したクィートは、フェロモンを全解放し、ランの性フェロモンをも誘発しようとする。

 その上で官能を呼び起こそうと、ランが手で隠そうとしていた唇を無理やり奪い、小さく膨らみかけたランの雄をやわやわと探る。

「くぅんっ」

 初めての刺激に身体が震える。兄に触れられたときはもっと優しくてただ身体を労り、仕組みを教えてくれただけだった。

 クィートは的確に感じやすい部分を攻めてくる。オメガ男性の小さな陰茎はそれでも先からトロトロ蜜を零してたち上がる。
 熱くたち上がる茎がはちきれそうに痛くて、ランは声を上げてクィートの腕をぎゅっと掴む。

 その痛みにも興奮したクィートは、小さな屹立をしごいてやりながら、緩めのシャツをはだけさせ、熱っぽい身体の上に、健気に立ちあがる可愛らしい桃色の乳首を舐める。

「あっっ……ああっ いやっ」

 ランは刺激の強さに首を振って快感を逃がそうと身をよじる。クィートは今度はその口元を再び舐め、長い舌を差し入れ口内を蹂躙する。
 涙が伝うのを顔の脇から髪に差し入れた手に感じたがクィートはもう止まることはできなかった。

 緩い部屋着のようなズボンはすぐに紐解けた。
 下着ごと取り去り現れたのは、柔らかな関節をしたまろい身体。
 脚が徐々に開いていき、足の間からは蜜壺から溢れ出したトロトロとした愛液が伝わり落ちる。
 何処もかしこも敏感で、触れるたびに、ビクビクと折れそうに細い腰を跳ねさせた。

 オメガが男を迎え入れる部分はもはや柔らかく温かく解れ、太い男の指でもいきなり3本を飲み込むほどにとろとろと蕩けていた。愛液からも官能的な香りを感じ、クィートは目が眩む思いだ。
 指をばらばらと動かすと、男の感じる部分と、オメガとして膣のように感じる部分が相まって、悲鳴を上げて善がる。陰茎からもぷくっと露が溢れてつたい落ちていく。

 小さな蕾は雄を迎えいれたくて、色っぽく収縮を繰り返し、クィートはその淫靡さに息を呑む。
 自身の股間ももはやはちきれんばかりに張り詰め、いつでも穿ける状態だ。

 幼げな顔は淫蕩なほどに惚けていく。小さく短く吐息をはくように喘ぎながら、虚ろに目線を動かし、自分をもてあそぶ男の顔を探した。

 クィートはもうじき全て自分のものにできるその愛らしくも艶めく顔を眺め、人生で一番の征服欲が満たされていくのを感じた。

「俺の番になって、ずっと一緒にいよう。可愛い…… 俺のオメガ」

 ぎゅっと強く、ランは目をつぶると、クィートの腕に爪を立て、最後の力を振り絞るようにか細い声を上げた。

「お兄ちゃん…… メテオォ……」

 涙声でかすれても兄を呼ぶ。少しずつ少しずつ声を大きく張り上げていく。

「メテオ、メテオ」

 涙を零して嗚咽を漏らしながら、まだまだずっと兄を呼び続ける。

 それとともにフェロモンはどんどん強くなり、まるで花園の中に迷い込んだような感覚になるほど部屋に遍く広がっていった。

 本格的なヒートがついに訪れようとしていた。
 クィートの全身が撫ぜられていくような快感を呼び起こすフェロモン。

 他の男の名を必死で呼ぶものを支配し、奪い、手に入れることに酔いしれたクィートは、ランの脚を更に大きく広げさせ、正面から穿こうと身を寄せた。


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