9 / 23
9 魔王城
しおりを挟む
「人間の子どもを置いて立ち去れ、喰ってやるぞって。次々に下級の魔物が集まってきて、鎧のお化けが来たり、生首が転がってきたりして順々に脅かされて。すごく怖かったなあ。でも兄さまが僕のこと抱きしめて絶対に離さないでくれた。魔物が来るたび追い払ってくれたよね」
「当たり前だろ。あんな小賢しい小物に魔王の息子が負けるわけないんだから。それにお前だって何だかんだ言って全然怖がってなかったし」
「だって兄さまが傍にいてくれるんだもの。怖いことなんてなかったよ? いつだって守ってくれたんだから」
そんな風にうっとり可憐な顔で見つめられると、顔には出さずとも心の中では照れてしまう。
迷子の結末は結局二人してそのまま眠ってしまい、朝になって城のものたちが血相を変えて探しに来た。今ではいい思い出だ。
「そんなこともあったな。でもお前は全然懲りなくて、また探検しようねって。俺より度胸が据わってたよな」
「僕、思いきりだけは誰よりいいって自負してるからね。まだまだ砂嵐はやまないし、どうせ暇なら、僕、また城内探検したい。あの部屋にまた行ってみたいんだ。だめ?」
ここ数年は赤い砂の時期に二人して人間界に行っていたこともあり、城内探検をしたのはもう大分前になるだろう。幼い頃は危険な部屋もあるからと入れる場所が制限されていたが、レヴィアタンの魔力が増すにつれ、そんなお小言も言われることはなくなった。
人間に見た目も近く、魔物からは恰好の獲物として映る、オリヴィエ一人では危険な場所は今でもあるが、レヴィアタンがついている分には問題ないだろう。逆に言えばレヴィアタンがついていかねば危険だということだ。
「分かった。でもあの部屋ってどの部屋のことだ? 城の裏の鍾乳窟に続いているあの部屋のことか?」
魔王の城には夥しい数の部屋がある。普通に入れる部屋ばかりでなく、隠し部屋を含めたら千に届くのではないかと言われている。その部屋をすべて把握しているものは、城中どこへでも行ける神出鬼没な猫の使い魔ケットシーだけだ。
そのケットシーは主である魔王以外には、気まぐれにしか口を利いてくれず、話しかけても応えてくれない。その上城内をあちこち移動しているから中々掴まえられない。何せ猫だから。
「あの部屋は確かにすごく綺麗だよね。奥にびっしり水晶が剣みたいに沢山生えてて上から差し込む日差しで部屋中がぴかぴかに光ってた」
「ああ、今は魔王城見学ツアーの一番人気、水晶柱ホールの裏にでられるからな。裏側から見られるのは俺たちだけだ」
「そうだよね。それからひいひいひいお婆様の『水魔の海岸』に繋がるお部屋。扉を開けたら白い砂浜が敷き詰められてて、その向こうが青と緑が混じったような綺麗な暖かい海があったね」
「そうだった。初めて扉を開けた時、嵐の海の時に当たって、廊下まで水浸しにして執事に目茶苦茶怒られたな」
「そうそう。僕があの海の底にある虹色貝の『愛の奇跡』を授ける『月夜の真珠』を欲しいって言ったから、兄さまが探し出してくれようとしたんだよね。あとから満月の夜に海に入って月の光に輝く虹色貝を探し出してくれた」
そういってオリヴィエは首から下げていた繊細な金色の鎖を手繰り寄せると、虹色の光沢が美しい、少し歪な真珠が顔を出した。
「ふふ。僕の宝物だよ」
「あまりものを欲しがらないお前が、ひいひいひいお婆様のことが書かれた絵本みて、これが欲しいって言いだしたから」
「古い時代は禁断の関係だった種族の壁を打ち壊して二人が結ばれた伝説の宝石だもの」
「当たり前だろ。あんな小賢しい小物に魔王の息子が負けるわけないんだから。それにお前だって何だかんだ言って全然怖がってなかったし」
「だって兄さまが傍にいてくれるんだもの。怖いことなんてなかったよ? いつだって守ってくれたんだから」
そんな風にうっとり可憐な顔で見つめられると、顔には出さずとも心の中では照れてしまう。
迷子の結末は結局二人してそのまま眠ってしまい、朝になって城のものたちが血相を変えて探しに来た。今ではいい思い出だ。
「そんなこともあったな。でもお前は全然懲りなくて、また探検しようねって。俺より度胸が据わってたよな」
「僕、思いきりだけは誰よりいいって自負してるからね。まだまだ砂嵐はやまないし、どうせ暇なら、僕、また城内探検したい。あの部屋にまた行ってみたいんだ。だめ?」
ここ数年は赤い砂の時期に二人して人間界に行っていたこともあり、城内探検をしたのはもう大分前になるだろう。幼い頃は危険な部屋もあるからと入れる場所が制限されていたが、レヴィアタンの魔力が増すにつれ、そんなお小言も言われることはなくなった。
人間に見た目も近く、魔物からは恰好の獲物として映る、オリヴィエ一人では危険な場所は今でもあるが、レヴィアタンがついている分には問題ないだろう。逆に言えばレヴィアタンがついていかねば危険だということだ。
「分かった。でもあの部屋ってどの部屋のことだ? 城の裏の鍾乳窟に続いているあの部屋のことか?」
魔王の城には夥しい数の部屋がある。普通に入れる部屋ばかりでなく、隠し部屋を含めたら千に届くのではないかと言われている。その部屋をすべて把握しているものは、城中どこへでも行ける神出鬼没な猫の使い魔ケットシーだけだ。
そのケットシーは主である魔王以外には、気まぐれにしか口を利いてくれず、話しかけても応えてくれない。その上城内をあちこち移動しているから中々掴まえられない。何せ猫だから。
「あの部屋は確かにすごく綺麗だよね。奥にびっしり水晶が剣みたいに沢山生えてて上から差し込む日差しで部屋中がぴかぴかに光ってた」
「ああ、今は魔王城見学ツアーの一番人気、水晶柱ホールの裏にでられるからな。裏側から見られるのは俺たちだけだ」
「そうだよね。それからひいひいひいお婆様の『水魔の海岸』に繋がるお部屋。扉を開けたら白い砂浜が敷き詰められてて、その向こうが青と緑が混じったような綺麗な暖かい海があったね」
「そうだった。初めて扉を開けた時、嵐の海の時に当たって、廊下まで水浸しにして執事に目茶苦茶怒られたな」
「そうそう。僕があの海の底にある虹色貝の『愛の奇跡』を授ける『月夜の真珠』を欲しいって言ったから、兄さまが探し出してくれようとしたんだよね。あとから満月の夜に海に入って月の光に輝く虹色貝を探し出してくれた」
そういってオリヴィエは首から下げていた繊細な金色の鎖を手繰り寄せると、虹色の光沢が美しい、少し歪な真珠が顔を出した。
「ふふ。僕の宝物だよ」
「あまりものを欲しがらないお前が、ひいひいひいお婆様のことが書かれた絵本みて、これが欲しいって言いだしたから」
「古い時代は禁断の関係だった種族の壁を打ち壊して二人が結ばれた伝説の宝石だもの」
10
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

くたびれた陽溜まり
猫宮乾
BL
僕は二番村の平民の母と、貴族の父の間に生まれた子供だ。伯爵家に引き取られて、十四歳の新月を待っていると、異母兄のジェイスが「出ていけ」ときつくあたってくるようになった。どうしてなんだろう? 最初はよくしてくれたのに。やっぱり、同じ歳の異母兄弟は複雑なのかな? 思春期かな? ※と、いう、異世界ファンタジー風のSF(宇宙)要素有な残酷描写のある短編です。企画していた(〆2021/11末)光or闇BL企画参加作品です。シリアス不憫な皮をかぶりつつのハピエンです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる