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5 思い出の部屋
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大分気持ちが落ち着いてきたオリヴィエが軽い口を叩いた後、軽やかな笑い声を立てる。兄は目元で微笑んでオリヴィエの手を引いて中へ誘ってくれた。数段ある階段を降りると、オリヴィエは嬉しそうに中を見渡した。
「ここ、昔のまま変わらないね」
「少し埃っぽいな」
兄が軽く腕を振るうと、大きな風が窓から吹き込み、それが部屋中から黒っぽい埃の渦を乗せて飛び去って行った。
幼いころから二人の隠れ家のようなこの部屋でよく遊んだ、あの頃のまま時が止まっているかのようだ。
今でも中には小さな頃に持ち込んだ玩具やとんがり帽子のような形に上から垂らされた天蓋がある。その下に、色とりどりの大きなクッションが幾つも置かれている。
「よくここで二人でお昼寝をしたよね?」
オリヴィエがそのクッションの間に思わず飛び込むと、転んだ拍子に切れていた手の甲や膝、戒められていた手首など身体中が痛んで思わず「痛っ」と声を上げてしまった。
またさっきの情けなさと恐ろしさと恥ずかしさが蘇り、オリヴィエは獣が傷を癒すようにクッションに顔を埋めて傷ついた身体を丸めた。
「……兄さまごめん。僕、少し休んでもいい? 疲れちゃった」
返事を返さぬままレヴィアタンは無言で横になるオリヴィエの前に、貴人に礼をするように膝をついて手を伸ばしてくる。
「傷をみせて」
優しい兄の姿を盗み見ながらふるふると首を振ると、レヴィアタンは角や爪までもしまい込み、まるで美しい人間の青年のような姿になった。
これはレヴィアタンがオリヴィエに触れる前触れだと知っているから、内心期待で胸を熱くする。幼い頃に母を亡くしてからは、この城で唯一オリヴィエに触れる優しい手は兄のそれだけだった。
レヴィアタンは弟の隣に腰を下ろすと、細い身体を軽々と抱き上げて膝の間に座らせた。
「どこが痛い?」
オリヴィエは兄の顔の前にそっと手の甲を差し出す。意地悪な妖魔に切り裂かれた傷だ。血は滲んでいるものの止まっていて、それほど深くはないようだ。
兄の長く骨ばった指が内側からオリヴィエの指に絡みつき、手の甲に唇が押し当てられるのをオリヴィエは頬を染めてただじっと見つめていた。ジュっと吸われるような感覚の後に痛みは煙のように消え失せる。魔王の直系で沢山いる兄弟の中でも兄の魔力は恐ろしく強いらしいが、同時にこうした繊細な魔法を使うのも上手い。
「他は?」
おずおずと伸ばした膝は泥にまみれて擦りむいていたからオリヴィエは慌ててそれを手で隠そうとした。
「汚いからいいよ。やめて」
兄はいつでもオリヴィエにとびきり甘く優しいが、同時に強引さも持ち合わせている。
聞かぬとばかりにオリヴィエの膝下に手を入れ、腰を持ち上げる。ふうっと息を吹きかけられると、先ほどの大風とは違い柔らかなそよ風が吹いて土は飛ばされる。しかし刺激されたことでひりひりとした痛みが生まれた。そこに兄の舌先が届く。
「あ……んっ」
続いて熱い粘膜で包まれた膝がしらから、えもいえぬゾクゾクとした感覚が何故か下腹部にも生まれる。オリヴィエは艶めかしい吐息をつくと身悶えるようにして足先を丸めた。
「い、痛いからもういいっ。あっ」
逃れようとしたが、甘い声を漏らしてしまって自分でも驚き手で口を覆ってしまった。
くすりっと兄が密かに笑ったのが耳に届き、羞恥で雪の様な白い頬はますます赤くなる。
「他は?」
「もう、終わり。大丈夫だから」
「あるだろ、まだ」
シャツの上から血が滲んでいる右胸でなく、あえてぎちぎちと摘まみ上げられ腫れた左胸の乳輪の辺りをシャツの上からそっと指先でなぞられる。オリヴィエは声にならぬ悲鳴を唇から漏らした。
「ここ、昔のまま変わらないね」
「少し埃っぽいな」
兄が軽く腕を振るうと、大きな風が窓から吹き込み、それが部屋中から黒っぽい埃の渦を乗せて飛び去って行った。
幼いころから二人の隠れ家のようなこの部屋でよく遊んだ、あの頃のまま時が止まっているかのようだ。
今でも中には小さな頃に持ち込んだ玩具やとんがり帽子のような形に上から垂らされた天蓋がある。その下に、色とりどりの大きなクッションが幾つも置かれている。
「よくここで二人でお昼寝をしたよね?」
オリヴィエがそのクッションの間に思わず飛び込むと、転んだ拍子に切れていた手の甲や膝、戒められていた手首など身体中が痛んで思わず「痛っ」と声を上げてしまった。
またさっきの情けなさと恐ろしさと恥ずかしさが蘇り、オリヴィエは獣が傷を癒すようにクッションに顔を埋めて傷ついた身体を丸めた。
「……兄さまごめん。僕、少し休んでもいい? 疲れちゃった」
返事を返さぬままレヴィアタンは無言で横になるオリヴィエの前に、貴人に礼をするように膝をついて手を伸ばしてくる。
「傷をみせて」
優しい兄の姿を盗み見ながらふるふると首を振ると、レヴィアタンは角や爪までもしまい込み、まるで美しい人間の青年のような姿になった。
これはレヴィアタンがオリヴィエに触れる前触れだと知っているから、内心期待で胸を熱くする。幼い頃に母を亡くしてからは、この城で唯一オリヴィエに触れる優しい手は兄のそれだけだった。
レヴィアタンは弟の隣に腰を下ろすと、細い身体を軽々と抱き上げて膝の間に座らせた。
「どこが痛い?」
オリヴィエは兄の顔の前にそっと手の甲を差し出す。意地悪な妖魔に切り裂かれた傷だ。血は滲んでいるものの止まっていて、それほど深くはないようだ。
兄の長く骨ばった指が内側からオリヴィエの指に絡みつき、手の甲に唇が押し当てられるのをオリヴィエは頬を染めてただじっと見つめていた。ジュっと吸われるような感覚の後に痛みは煙のように消え失せる。魔王の直系で沢山いる兄弟の中でも兄の魔力は恐ろしく強いらしいが、同時にこうした繊細な魔法を使うのも上手い。
「他は?」
おずおずと伸ばした膝は泥にまみれて擦りむいていたからオリヴィエは慌ててそれを手で隠そうとした。
「汚いからいいよ。やめて」
兄はいつでもオリヴィエにとびきり甘く優しいが、同時に強引さも持ち合わせている。
聞かぬとばかりにオリヴィエの膝下に手を入れ、腰を持ち上げる。ふうっと息を吹きかけられると、先ほどの大風とは違い柔らかなそよ風が吹いて土は飛ばされる。しかし刺激されたことでひりひりとした痛みが生まれた。そこに兄の舌先が届く。
「あ……んっ」
続いて熱い粘膜で包まれた膝がしらから、えもいえぬゾクゾクとした感覚が何故か下腹部にも生まれる。オリヴィエは艶めかしい吐息をつくと身悶えるようにして足先を丸めた。
「い、痛いからもういいっ。あっ」
逃れようとしたが、甘い声を漏らしてしまって自分でも驚き手で口を覆ってしまった。
くすりっと兄が密かに笑ったのが耳に届き、羞恥で雪の様な白い頬はますます赤くなる。
「他は?」
「もう、終わり。大丈夫だから」
「あるだろ、まだ」
シャツの上から血が滲んでいる右胸でなく、あえてぎちぎちと摘まみ上げられ腫れた左胸の乳輪の辺りをシャツの上からそっと指先でなぞられる。オリヴィエは声にならぬ悲鳴を唇から漏らした。
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