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4 虹真珠
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誰よりも大きな兄の翼が一度大きく羽ばたき、ふわりと身体が浮き上がる。
「待って。カシスに虹真珠を盗られて、草むらに投げられたんだ」
まだ身体は震えが止まらなかったが、オリヴィエは兄の腕から抜け出し飛び降りようともがいたのでレヴィアタンは片眉を吊り上げて弟のこめかみに口づける。
「待ってろ」
兄が長く鋭い爪の先をくいっとこちらに呼びつけるような形に曲げただけで、草むらの中から虹色の光が零れるペンダントが飛び出してきて、オリヴィエの手の中に飛び込んできた。
「良かった」
オリヴィエがそれを大切そうに両手で包んで喜ぶと、レヴィアタンは弟が愛でる真珠にすら妬いているかのようにむっと唇を引き結んだ。
「こういう時こそすぐ俺を頼れよ」
「だってこれは、兄さまが僕にくれた大切な宝物だもの。失くした僕が自分で探したかったんだ」
まだ涙に濡れた大きな瞳でオリヴィエがにっこり微笑むと、兄は目元を緩めてほうっとため息をついた。
「そんなものなどどうでもいい。俺はお前が一番大切だ」
「ふふ。嬉しいな」
兄の背中にしっかりと手を回すと、今度こそ鈍色の空に向かってオリヴィエを抱えたまま兄は大地を蹴り上げ空に向かって飛び上がる。兄の翼は鷲のそれに似た色で、誰よりも力強く早く空を駆けまわれるのだ。
牧草地の草むらが足元に広がり、未だ動かないカシスたちの流した血も点となって見えなくなった。
てっきりこのままもう一度寮に戻るのかと思ったが違ったようだ。
「舌を噛むといけない。ぎゅっと口も目をつぶっていろ。このまま城に帰るぞ」
今度こそ言いつけを守って、オリヴィエはぎゅっと瞳を閉じた。顔に当たる風は身を切るほどに強いが、すぐに兄が腕の中に抱き込んで髪だけがばさばさと乱される。
幼い頃も兄にこうして抱き上げられながら城の屋根に飛び乗ったりしていたものだが、今は飛ぶ速さがその頃の比ではない。
二人は普段は寮で生活しているが、兄に掛かれば物の半刻もかからずに父王の城にまで戻ることができる。何しろ空にはなんの障害物もなく、城は丘の上の断崖に建っていて弓矢の的より目立つ。
オリヴィエはこの魔界で最も安らぎを覚える兄の腕の中、シャツ越しに感じる熱い胸に顔を埋める。安堵を覚えたことでまた涙が滲みそうだったが、それは半分悔し涙でもあった。
(僕にも兄さまを護れるような力があったらいいのに)
亡くなった母は人間を癒す力を持っていたというが、オリヴィエにはその能力すら受け継がれていない。聖なる力は血肉には宿っているようで魔族はそれを魅力的だと思う様だがそれがあまりよいことでないのも分かっている。成長した魔族から見ればオリヴィエは犯し貪り屈服させたい脆弱な存在でしかない。
(カシスをあんな風におかしくしたのは僕のせいでもあるんだろうな。人間の生気の香りが魔物の本能を刺激して、知らないうちに誘ってしまう身体になっている)
幼いころから共にいるためか、はたまた兄弟だからか、兄には効かないようだが何とか高等部を卒業できたのが奇跡的なぐらい、学園内では色々な者から付き纏われた。
(今日は本当に危なかった。大学部に行ったら、兄さまから絶対に離れないで居よう)
程なく二人は城の天辺にある搭のバルコニーに降り立った。兄は搭からはみ出す程大きな羽を身の内にしまうと、ややさび付いた窓を力任せに押し開いたら、扉がたわんでガシャガラと音を立てる。
「兄さま、力が強いんだから壊れちゃうよ」
「待って。カシスに虹真珠を盗られて、草むらに投げられたんだ」
まだ身体は震えが止まらなかったが、オリヴィエは兄の腕から抜け出し飛び降りようともがいたのでレヴィアタンは片眉を吊り上げて弟のこめかみに口づける。
「待ってろ」
兄が長く鋭い爪の先をくいっとこちらに呼びつけるような形に曲げただけで、草むらの中から虹色の光が零れるペンダントが飛び出してきて、オリヴィエの手の中に飛び込んできた。
「良かった」
オリヴィエがそれを大切そうに両手で包んで喜ぶと、レヴィアタンは弟が愛でる真珠にすら妬いているかのようにむっと唇を引き結んだ。
「こういう時こそすぐ俺を頼れよ」
「だってこれは、兄さまが僕にくれた大切な宝物だもの。失くした僕が自分で探したかったんだ」
まだ涙に濡れた大きな瞳でオリヴィエがにっこり微笑むと、兄は目元を緩めてほうっとため息をついた。
「そんなものなどどうでもいい。俺はお前が一番大切だ」
「ふふ。嬉しいな」
兄の背中にしっかりと手を回すと、今度こそ鈍色の空に向かってオリヴィエを抱えたまま兄は大地を蹴り上げ空に向かって飛び上がる。兄の翼は鷲のそれに似た色で、誰よりも力強く早く空を駆けまわれるのだ。
牧草地の草むらが足元に広がり、未だ動かないカシスたちの流した血も点となって見えなくなった。
てっきりこのままもう一度寮に戻るのかと思ったが違ったようだ。
「舌を噛むといけない。ぎゅっと口も目をつぶっていろ。このまま城に帰るぞ」
今度こそ言いつけを守って、オリヴィエはぎゅっと瞳を閉じた。顔に当たる風は身を切るほどに強いが、すぐに兄が腕の中に抱き込んで髪だけがばさばさと乱される。
幼い頃も兄にこうして抱き上げられながら城の屋根に飛び乗ったりしていたものだが、今は飛ぶ速さがその頃の比ではない。
二人は普段は寮で生活しているが、兄に掛かれば物の半刻もかからずに父王の城にまで戻ることができる。何しろ空にはなんの障害物もなく、城は丘の上の断崖に建っていて弓矢の的より目立つ。
オリヴィエはこの魔界で最も安らぎを覚える兄の腕の中、シャツ越しに感じる熱い胸に顔を埋める。安堵を覚えたことでまた涙が滲みそうだったが、それは半分悔し涙でもあった。
(僕にも兄さまを護れるような力があったらいいのに)
亡くなった母は人間を癒す力を持っていたというが、オリヴィエにはその能力すら受け継がれていない。聖なる力は血肉には宿っているようで魔族はそれを魅力的だと思う様だがそれがあまりよいことでないのも分かっている。成長した魔族から見ればオリヴィエは犯し貪り屈服させたい脆弱な存在でしかない。
(カシスをあんな風におかしくしたのは僕のせいでもあるんだろうな。人間の生気の香りが魔物の本能を刺激して、知らないうちに誘ってしまう身体になっている)
幼いころから共にいるためか、はたまた兄弟だからか、兄には効かないようだが何とか高等部を卒業できたのが奇跡的なぐらい、学園内では色々な者から付き纏われた。
(今日は本当に危なかった。大学部に行ったら、兄さまから絶対に離れないで居よう)
程なく二人は城の天辺にある搭のバルコニーに降り立った。兄は搭からはみ出す程大きな羽を身の内にしまうと、ややさび付いた窓を力任せに押し開いたら、扉がたわんでガシャガラと音を立てる。
「兄さま、力が強いんだから壊れちゃうよ」
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