くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第二章 HOW To ヒート!

32 果てた夢

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部屋に戻る時はちょっとしんみりしてしまった。尊がそんな青葉の肩を抱いて慰める仕草を見せてくれた。青葉は一度胸元に抱き着いてからすうっと尊の匂いを嗅いで落ち着きを取り戻す。また胸に暖かな気持ちが満ちてくる。魔法のような、尊の香り。
 このまま彼にずっと抱かれていたいが、なし崩しにヒートに戻ったら昨日の晩の二の舞だ。なにか少しでも気を反らしたいと、腕を持ち上げ弟から手渡された紙袋を尊に向かって差し出した。

「これ、一緒に食べよう」
「そうだね。せっかく持たせてくださったんだ。いただこう」

 ソファーに並んで座って、ローテーブルいっぱいに母が持たせてくれた大きなお弁当箱を広げようとした。

「青葉。手紙が入っているよ」

 母からの手紙。そこになんて書かれているのか、少し怖くなる。母は三人の子を育てた基本的には朗らかで明るい人だ。だがこと青葉の事になると話は別なようだ。

「……母さん、怒ってるかな。心配性なんだ。いや、ちょっと違うかも。俺がオメガになってから心配性になった。心配だから、怒るんだ」
「そうなんだね」
「……もしかしたら。今すぐ帰って来いって書いてあるかもしれない」

 尊に肩を抱かれ、ソファーに座ることを促された。青葉は身を縮めるように、ちんまりと座った。
 尊はもはや動じないようだ。力強くぽんぽんと背中をさすってくれる。

「それなら、俺がお母さんと直接お電話で話をさせて頂いても、直接出向かせていただいてもいい。納得していただけるなら、土下座をするのも構わない。青葉と一緒に居させていただくよう、頼んでみるよ」
「尊……」
「青葉が大切なお母さんとこのことで気まずい思いをするのは良くない。家族を大切にして欲しい。だけど、俺とも一緒にいて欲しい。青葉を大好きな気持ちを止められない。ごめん、本当にこれが俺の正直な気持ちだ」

 尊もまた葛藤の最中にいるのだ。まだたった二十数年しか生きていない自分たちは、すべての事が丸く収まるようには自分の心を殺せない。だけども周囲の人を大切に思う気持ちだって嘘はない。青葉は尊の想いも肯定したくてこっくり大きく頷いた。

「手紙、読んでみる」

 手紙を大きく広げて、便箋いっぱいに書かれた言葉を、尊と共に目で追っていった。

『青葉へ。体調は大丈夫ですか? 私はお前がオメガとして判定を受けた時からこんな日がいつか来るのではないかと覚悟をしてはいました。だけどあまりに突然で、正直お母さんはお前のことが心配でなりません。オメガ判定を受けた後、所属していたサッカーのクラブチームから申し入れがあって、お前はチームから離脱することになりましたね。オメガの選手を受け入れた実績がなくて、設備の面、他の選手との兼ね合いもあって、チームでお前を選手として使い続けていくことは難しいと言われました。あれだけ打ち込んでいたサッカーをお前はあっさりと辞めて、新しい目標を作るんだと明るく今の道に進みました。悔しかったと思います。でもこうなったから自分に出来ることはまだあるだろうと迷いのない姿に、私も紅葉も安心しました。黄葉は貴方の分もと、より一層トレーニングに励むようになりました。だけどあれで本当の良かったのか。もっと親として貴方にしてあげられることはなかったのか。日本全国貴方を受け入れてくれるチームを探して、掛け合ってあげればよかったんじゃないか、後悔しない日はありません』
「青葉……。君……」

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