70 / 71
第二章 HOW To ヒート!
32 果てた夢
しおりを挟む
部屋に戻る時はちょっとしんみりしてしまった。尊がそんな青葉の肩を抱いて慰める仕草を見せてくれた。青葉は一度胸元に抱き着いてからすうっと尊の匂いを嗅いで落ち着きを取り戻す。また胸に暖かな気持ちが満ちてくる。魔法のような、尊の香り。
このまま彼にずっと抱かれていたいが、なし崩しにヒートに戻ったら昨日の晩の二の舞だ。なにか少しでも気を反らしたいと、腕を持ち上げ弟から手渡された紙袋を尊に向かって差し出した。
「これ、一緒に食べよう」
「そうだね。せっかく持たせてくださったんだ。いただこう」
ソファーに並んで座って、ローテーブルいっぱいに母が持たせてくれた大きなお弁当箱を広げようとした。
「青葉。手紙が入っているよ」
母からの手紙。そこになんて書かれているのか、少し怖くなる。母は三人の子を育てた基本的には朗らかで明るい人だ。だがこと青葉の事になると話は別なようだ。
「……母さん、怒ってるかな。心配性なんだ。いや、ちょっと違うかも。俺がオメガになってから心配性になった。心配だから、怒るんだ」
「そうなんだね」
「……もしかしたら。今すぐ帰って来いって書いてあるかもしれない」
尊に肩を抱かれ、ソファーに座ることを促された。青葉は身を縮めるように、ちんまりと座った。
尊はもはや動じないようだ。力強くぽんぽんと背中をさすってくれる。
「それなら、俺がお母さんと直接お電話で話をさせて頂いても、直接出向かせていただいてもいい。納得していただけるなら、土下座をするのも構わない。青葉と一緒に居させていただくよう、頼んでみるよ」
「尊……」
「青葉が大切なお母さんとこのことで気まずい思いをするのは良くない。家族を大切にして欲しい。だけど、俺とも一緒にいて欲しい。青葉を大好きな気持ちを止められない。ごめん、本当にこれが俺の正直な気持ちだ」
尊もまた葛藤の最中にいるのだ。まだたった二十数年しか生きていない自分たちは、すべての事が丸く収まるようには自分の心を殺せない。だけども周囲の人を大切に思う気持ちだって嘘はない。青葉は尊の想いも肯定したくてこっくり大きく頷いた。
「手紙、読んでみる」
手紙を大きく広げて、便箋いっぱいに書かれた言葉を、尊と共に目で追っていった。
『青葉へ。体調は大丈夫ですか? 私はお前がオメガとして判定を受けた時からこんな日がいつか来るのではないかと覚悟をしてはいました。だけどあまりに突然で、正直お母さんはお前のことが心配でなりません。オメガ判定を受けた後、所属していたサッカーのクラブチームから申し入れがあって、お前はチームから離脱することになりましたね。オメガの選手を受け入れた実績がなくて、設備の面、他の選手との兼ね合いもあって、チームでお前を選手として使い続けていくことは難しいと言われました。あれだけ打ち込んでいたサッカーをお前はあっさりと辞めて、新しい目標を作るんだと明るく今の道に進みました。悔しかったと思います。でもこうなったから自分に出来ることはまだあるだろうと迷いのない姿に、私も紅葉も安心しました。黄葉は貴方の分もと、より一層トレーニングに励むようになりました。だけどあれで本当の良かったのか。もっと親として貴方にしてあげられることはなかったのか。日本全国貴方を受け入れてくれるチームを探して、掛け合ってあげればよかったんじゃないか、後悔しない日はありません』
「青葉……。君……」
このまま彼にずっと抱かれていたいが、なし崩しにヒートに戻ったら昨日の晩の二の舞だ。なにか少しでも気を反らしたいと、腕を持ち上げ弟から手渡された紙袋を尊に向かって差し出した。
「これ、一緒に食べよう」
「そうだね。せっかく持たせてくださったんだ。いただこう」
ソファーに並んで座って、ローテーブルいっぱいに母が持たせてくれた大きなお弁当箱を広げようとした。
「青葉。手紙が入っているよ」
母からの手紙。そこになんて書かれているのか、少し怖くなる。母は三人の子を育てた基本的には朗らかで明るい人だ。だがこと青葉の事になると話は別なようだ。
「……母さん、怒ってるかな。心配性なんだ。いや、ちょっと違うかも。俺がオメガになってから心配性になった。心配だから、怒るんだ」
「そうなんだね」
「……もしかしたら。今すぐ帰って来いって書いてあるかもしれない」
尊に肩を抱かれ、ソファーに座ることを促された。青葉は身を縮めるように、ちんまりと座った。
尊はもはや動じないようだ。力強くぽんぽんと背中をさすってくれる。
「それなら、俺がお母さんと直接お電話で話をさせて頂いても、直接出向かせていただいてもいい。納得していただけるなら、土下座をするのも構わない。青葉と一緒に居させていただくよう、頼んでみるよ」
「尊……」
「青葉が大切なお母さんとこのことで気まずい思いをするのは良くない。家族を大切にして欲しい。だけど、俺とも一緒にいて欲しい。青葉を大好きな気持ちを止められない。ごめん、本当にこれが俺の正直な気持ちだ」
尊もまた葛藤の最中にいるのだ。まだたった二十数年しか生きていない自分たちは、すべての事が丸く収まるようには自分の心を殺せない。だけども周囲の人を大切に思う気持ちだって嘘はない。青葉は尊の想いも肯定したくてこっくり大きく頷いた。
「手紙、読んでみる」
手紙を大きく広げて、便箋いっぱいに書かれた言葉を、尊と共に目で追っていった。
『青葉へ。体調は大丈夫ですか? 私はお前がオメガとして判定を受けた時からこんな日がいつか来るのではないかと覚悟をしてはいました。だけどあまりに突然で、正直お母さんはお前のことが心配でなりません。オメガ判定を受けた後、所属していたサッカーのクラブチームから申し入れがあって、お前はチームから離脱することになりましたね。オメガの選手を受け入れた実績がなくて、設備の面、他の選手との兼ね合いもあって、チームでお前を選手として使い続けていくことは難しいと言われました。あれだけ打ち込んでいたサッカーをお前はあっさりと辞めて、新しい目標を作るんだと明るく今の道に進みました。悔しかったと思います。でもこうなったから自分に出来ることはまだあるだろうと迷いのない姿に、私も紅葉も安心しました。黄葉は貴方の分もと、より一層トレーニングに励むようになりました。だけどあれで本当の良かったのか。もっと親として貴方にしてあげられることはなかったのか。日本全国貴方を受け入れてくれるチームを探して、掛け合ってあげればよかったんじゃないか、後悔しない日はありません』
「青葉……。君……」
1
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる