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第二章 HOW To ヒート!

29 好敵手

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(みっともないと思われてもいい。丸ごと愛してくれる尊のものになりたい)

「尊がいい」

 弟はさっきまで必死に守ろうとしていた兄の背中に回した腕から力を抜いた。青葉は伸し掛かっていた黄葉から身を起こして尊に向かって再び手を伸ばす。ぎゅっと指を絡めて手を握り合う。

「青葉、俺を選んでくれて、ありがとう」

 青葉の一言が尊を突き動かす。彼も泣きそうな顔をしていたが、瞳に浮かぶ光はいつも通り優しい。なりふり構わない風情で弟ごとものすごい力で青葉を抱きしめた。

「うげっ。馬鹿力! 俺は放してくれ」
 
 長く逞しい尊の腕の中からもぞもぞと這い出した黄葉を尻目に、ようやく巡り合えたように二人はぎゅうっとお互いを抱きしめあった。

「置いていかれて、やだったんだ」
「ごめん。寂しかった?」
「寂しかったよ……」
「おいで。立てる?」
「んっ。大丈夫」
「いい子だ」
 
 ふらつく足でよろよろと立ち上がると一息に逞しい腕の中に抱き上げられた。またあの心地よい甘い香りの檻に、青葉は自ら囚われに行った。
 ここで家族と帰ることだって選べたが、尊から離れるのは考えられなかった。
 黄葉も白っぽく汚れた制服のズボンをはたきながら、立ち上がってぺこっと小さく頭を下げた。

「……そいつのこと、頼みます」
「もちろん。大切にします。一生。俺の全てをかけて」

 すでに結婚でもするぐらいの勢いで挨拶を交わす二人に、青葉は尊の隣で顔を真っ赤にした

「おおげさだよ」

 そううそぶいたものの、もちろん悪い気はしない。むしろすごく嬉しい。くっついたら不安な気持ちがアイスクリームのようにとろりと溶けて幸福感ばかりが胸に満ちてきた。

(やっぱり、俺たちは少しも離れちゃダメなんだな)

 そんな風に思って、尊の懐にぐりぐりと頭を押し付けたあと、上目遣いに赤くなった目で見上げた。

「もう置いてかないでね。俺、ご飯とか服とかより、尊が傍にずっといてくれることのが一番嬉しいって思ったんだ」
「分かったよ」

 尊の強張っていた身体からも、それでやっと力が抜けてきたようだ。
 イチャイチャと囁き合う二人を尻目に、何とか一矢報いてやりたいと考えたようだ。黄葉は兄同様長い脚で玄関扉をばしっと蹴り上げて「足ドン」みたいな体勢で二人の気を引いた。

「青葉の相手がとんでもない奴だったら、蹴りまくって半殺しにしようと思ってきたんだけど。あんた、中々じゃん」
「こうくん……」

 
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