くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第二章 HOW To ヒート!

24 帰ってきた尊

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 青葉は飾らぬ素の表情でこくこくこくとうなずいた。

「……尊はいいやつ。すげぇ、親切だし優しいし、俺の事尊重してくれるし。でも、でもさ。俺ばっか尊の事、欲しくなってんの。そんなの、なんか、なんかっ。ああ、なんていっていいのかわかんねぇ。あたま、くらくら、こんらんして」
「はあー。惚気か、惚気なんだな……」

 呆れ声で溜息をつかれた。
 こうちゃんの尊と比べればいささか頼りない腕にしがみついて青葉はオイオイ泣き崩れる。
 自分では気が付いていなかったが、昨晩から色々なことがあって頭がとても処理しきれていなかったのかもしれない。

「困ったやつ。なんか相手に申し訳なくなってきたな」

 制服のポケットからくしゃくちゃのハンドタオルを取り出して顔をぬぐってくれたが、一緒に出てきたレシートに頬をひっかかれ、ぴりっとした痛みに余計にむきーっと青葉は怒り狂った。

「いってぇ、ほんと、なんだよ。なんだんだよ。さいあく」
「ごめんって、怒んなって。なあ、青葉。お前ほんとにそいつのこと好きなの?」
「好き」
「とりあえず、家には」
「かえらない! みことのこと、待ってる、待ってるからあ」
「ああっ! 頑固だな! 取り合えず、担いででも帰るぞ!」
「いやだ!」
「暴れんな!」

 立ち上がったこうくんがじたばたと足で抵抗する青葉を肩に担ぎあげようとしていた、ちょうどその時。マンションの内階段の鉄の扉が蹴破られんばかりの勢いで開いた。
 
 驚いたこうくんが青葉ごとぐらっと足を取られたため、二人は抱き合いながらだんっと背中から扉にぶつかる。

「青葉!」

 間髪入れずに廊下に響き渡る呼び声がして、二人が首を巡らすと、そこには肩で息をした尊が姿を現した。

「みことおお!」

 青葉はこうくんに正面から抱きかかえられたまま、ほっそりした腕を尊に向かって伸ばす。
 向こうから愛しい人が見慣れたバイト先のレジ袋を一つ手に提げて、こちらに向かってきていた。
 互いがまるで生き別れの恋人同士のように情感込めて呼び合うから、間に挟まったこうくんは眉を下げて「おおげさ」と面白くなさそうに吐き捨てた。

(尊、昨日も俺のこと助けに来てくれた。今も、俺のピンチに駆けつけてくれた)

 青葉はこうくんの腕の中で、嬉しさでふわんっと頬を染めた。
 しかし青葉は傍から見たら触れれば落ちそうに色っぽい顔つきをして、真っ白な脚も露わな艶めかしい姿で別の男にしなだれかかっているように見える。尊は一瞬にして苛烈な表情に変じた。
 そのまま大股であっという間に距離を詰めた尊が、筋肉のしっかりついた逞しい腕を伸ばして、他の男の腕から青葉を奪い、迎え入れようとした。
 
「青葉、こっちにおいで」

 今までになく険がある表情を浮かべた尊は、柔和な甘さが抑えられて端整な分迫力ばかりが増す。きっぱりとした口調、立ち上るアルファのけん制を帯びた香りに、青葉を抱く腕に力を込めながらも、未熟な少年アルファは額に脂汗を浮かべた。

「……」
「ちょ、おい。青葉、なんとかいえ。なんか誤解されてっぞ?」
「いや。こうくん離さないで」

 思いがけぬ言葉を口走る青葉にむしろこう君の方が驚いて、尊と青葉、二人を交互に見比べてしまった。

 

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