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第二章 HOW To ヒート!

21 俺の青葉

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「お前が心配するようなことなんてなにもない。俺は俺の意志でここにいるんだから」

 ぎゅっと胸を押し返されて見上げてくる顔は、いつも見慣れた青葉のすんっとすました顔とは違って見えたようだ。
 潤んだ瞳に、しどけなく気崩したシャツ。抑制剤越しにもわかる立ち上る甘い香り。
 青葉の思いがけぬほど艶美な姿に、お年頃の少年は気恥ずかしさ半分、何かが決定的に変わってしまうような恐ろしさ半分で、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり大忙しだ。

「こんなん、俺の、青葉じゃない」
「はあ? お前のじゃねぇし。俺は俺だ」
「俺の知ってる青葉はさ、しっかりしてて、クールで、女の子にもめちゃめちゃモテて、運動神経も抜群で、洋服も髪型もいつもきまってて……」

 ぐすっとまた鼻をすすったこうくんに、がしっと両方の二の腕を掴まれ、青葉は玄関から足に引っかかっていた尊の靴ごと、共用廊下に無理やり引きずり出された。

「青葉。先週恋人いないっていってたじゃんか。あれ嘘だったのかよ」
「先週はいなかった。昨日恋人できた。グラッチェの前のカフェでバイトしてる大学生」
「ダイアナムーンのやつか……。あの店の店員、ほんと、チャラい!」
「尊はチャラくない」
「尊っていうんだよな、そいつ。え、じゃあ青葉さ……、昨日恋人になったばっかの男とヒート過ごしてんの?」

 自分とよく似た形の大きな目を剥くこうくんに、流石にまずかったかと青葉は目をそらす。

「まじか。ますます、やばいじゃん。おかしい、おかしいって。なんか一服もられたんじゃねぇ? それかアルファのフェロモンにやられた? 誘惑フェロモンとかそういうやつ」

 鼻息の荒くなったこうくんに、「ははは……」と青葉は脱力して、それを見逃さずに腕を引っ張られて腕の中に抱き留められた。

「はあ、そんな。アルファのフェロモンでヒート誘発とか、こうくんドラマみすぎだろ。そんな超能力持ってるアルファなんてその辺にいるわけないじゃん。都市伝説じゃあるまいし。確かにさ、尊の匂いはすごくいい匂いで、大好きで、嗅いでるとなんかもう、何でも言うこと聞きたい妙な気分になってきたけど」
「ほらほらほらほら! それそれ。都市伝説じゃないから。ちゃんと科学的に実証されてるから。……青葉、今までよく無事できたよな。ほんと、奇跡」
「うっさい」

 馬鹿にしたような口ぶりで、こうくんはお気に入りのぬいぐるでも抱っこするようにぎゅっぎゅっと青葉を抱きしめてきた。現役アスリート相手に抵抗をしても、もはや体力が残っていない青葉はされるがままつま先立ちになり、諦めてこうくんに真正面から寄り掛かった。

「青葉はさ、アルファが多い高校行ってないからだろ? アルファ周りにいなかったんだろ?」
「悪かったな。普通科の中堅校出身で」
「俺の高校じゃ、オメガその気にさせるテクとか、ヒート間近のオメガの見分け方とか、みんなそんなんばっか話してるぞ。番になるとか好きだからしたいとか二の次で、オメガとヒートHしたいだけって、糞みたいなアルファも沢山いるんだからな!」
「まさか。……こうくん、悪さとかしてないだろうな? いてっ」
 
 気に障ったのか軽く額を額でごちんっと頭突きされて、青葉はくらっとした。

「してねぇ。部活忙しくて俺に余計な事考える、んな暇あるわけないだろ! どっちにしろ、付き合って初ヒートのオメガ、家に帰さないような男に大事な青葉を任せらんねえ」
「痛いっ! こうくん痛いって!」

 身体が大きくなってもまだまだ高校二年生。大学生の尊と比べたらやはり、色々と強引で荒っぽい。青葉ももう遠慮もなにもなく、子供の頃に喧嘩したときのように足も使って押し返して抵抗する。

「とにかく家、帰るぞ! ヒート終わって頭冷えたら、噛みつかれたいなんて気ぃ収まるだろ!」
「いいんだよ。俺、尊に噛まれたかったんだからっ」

 青葉は今朝までずっと腹の中にぶすぶすと燻って煙で真っ黒になった本心を、色白の頬を真っ赤っかにして吐き出した。

「もうさあ!! 尊、尊……。こんな風にヒート中の俺を置き去りにして外に出られるなんて、ありえないだろ! はなれたくなかったあああっ」

 吐き出してみたものの、ちっともすっきりしない。余計に頭に血が上ってくらくらした。
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