くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第二章 HOW To ヒート!

9 寂し泣き

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 大きな身体の尊に抱きつくと、クマのぬいぐるみみたいなわくわく感と安心感がある。

(お互いの肌のあったかさだけ感じて、布団の中でぬくぬくするなんて幸せ)

 起きたら三食シリアルをかじりながらでも、水を飲むだけでもいい。お互いに夢中になって、寝食がおろそかになったっていいのだ。ただ青葉の手を離さずに傍にいて欲しい。
 だが困らせるのは本意ではない。恋人になってまだ一日もたっていない。
 これからデートをするところだった相手。まだ誕生日すら知らない相手。

(俺が知ってる尊。名前と通ってる大学、出身地、住処、バイト先、陸上をしていて足が速い。笑顔が可愛い。俺のことが大好き。でもまだあまり、尊のことをよく知らない。もっと知りたい……。喋りたい。離れたくない)

「インターフォンが鳴っても応じなくていいからね」

 子供に言い聞かせるように優しくそう言い置き、尊は静かに部屋を出ていった。少し遠くで家の戸が閉じる音がして彼の気配が消えたことにぎゅっと胸が苦しくなった。

(いっちゃった……)

 尊は自分のために買い出しに行ってくれるのに。
 遠ざかる気配に青葉の目頭はじわじわっと熱くなった。
 すぐに鼻の奥がつんっとして、目の前が揺れる。

(おかしい……。普段こんなことぐらいで泣くことないのに)

 日ごろのヒートはただただ熱に浮かされ辛く、人恋しい気持ちにはなるが特定の誰かが恋しくてたまらないという気持ちにまではなったことはなかった。

(まだ、俺のこと番にしてくれたわけじゃないのに……)

 すすんっと鼻をすすってそんな風に恨みがましく思ってから自分で自分にあきれてしまった。

(……俺が自分で一週間堪え切れたらなんて、尊の気持ち、試すようなこと。言っちゃった。あんなこと言わなきゃよかった)

 昨晩の尊はヒートで切れ切れの記憶にある限り、ひたすらに青葉に甘く、紳士だった。
 ヒート中にオメガに出会ったアルファは、好物を目の前に置かれた凶暴な野獣のようになることを、散々同じオメガ性を持つ仲間から聞かされてきた。リノを溺愛する彼氏ですら、時には自分本位な動きをしてしまい後で猛省するのだという。
 だから尊の我慢強さは驚異的といってもよいだろう。
 本当か嘘かはわからないが、学生時代、陸上の選手だった頃に大会前に抑制剤を服用することができなかったこともあり、薬が人より良く効く体質らしい。
 そうはいっても薬のせいだけではない気がする。尊の忍耐力や精神力の強さは、瞑想や規則正しい生活のルーチンなどアスリートで培われた色々が関係しているような気がしてならない。
 そのせいで一度目の交接の後、尊の抑制剤が効いてきてからは同じく抑制剤を飲んでいるはずの青葉ばかりが乱れて、もっともっとと尊に甘えてねだってしまった。
正気に返ったら、恥ずかしくてたまらなかった。

『青葉、大丈夫だよ。無理やり噛みついたりしないから。ただ気持ちよくなって、俺に愛されることに慣れるといいよ』
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