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第二章 HOW To ヒート!

2 甘い朝日

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(とにかくこれから六日間、青葉を守り通すんだ)

 そんな風に考えて不思議に思った。何から守り通すというのだろう。しいて言うならば自分の歯牙にかけないことが一番の守りなのかもしれない。
 しかし番になると決めた今、青葉が『六日後に番になろう』といったその意思を守り通すことこそが、愛の証のように思えた。

「青葉、安心して、発情期を過ごそうね」

 そんな風に声を掛けたら、ぴくりっと青葉の瞼が動いた。長い睫毛は元来の髪色と同じなのか艶々ふっさりとした漆黒だ。
 身体は昨日抱いていた時よりずっと冷たく、暑がりな自分が使っている軽いタイプの夏掛けではもう寒いのかもしれない。胴の薄い温めるように身体をもう一度抱き込んだ。
 するとまた睫毛が何度かそよいで大きな瞳がぱっちりと開く。すぐにまた眩しそうにもう一度ぎゅっとつぶられた。

「まぶし……、あつっ……、くるし……」
「ごめん。眩しかった? 暑い? 苦しい? ごめん!」
 
 矢継ぎ早に誤って腕を緩めると、もぞもぞと動いた青葉が長く細い指を伸ばして何故だか尊の唇をむぎゅっとつまんできた。

「だからさ、なんですぐ謝んの? おはよ」
「おはよう」

 かすれた声すら耳を甘くくすぐるほどセクシーだ。
 こんなに間近で、明るい光の中で青葉をまじまじと見られたのは初めてかもしれない。

(肌綺麗だな……。真っ白。すべすべ。作り物みたいな綺麗さだ。あっちの国のアイドルとか女優さんとかこんな感じだよな。何食べたらこんな風に……)

「ちょっ、見すぎだって。寝起きなんだから!」
「ご、ごめん。あんまり綺麗で、つい……」
 照れ屋なのか青葉は顔を真っ赤っかにしながら、顔を隠すように丸めたこぶしで目元をこする。
「はあ? ああっ。はずっ……。いや違くて、その、起き抜けだし顔とか汚いだろ? 絶対目ぇ腫れてるよ、これ。あの後すぐ俺、寝ちゃったし」
「あの後、ああ。三回目? いや四回目の後にちゃんと身体拭いたけど、気持ち悪い?」
「え……、あ。悪い。これ、スウェット、上だけ借りてるの、ありがと」

 普段尊が一人で来ている上下を上を青葉、下を自分が着ているので尊は上半身が、青葉は下半身が裸のままだ。
 故にもぞもぞっと青葉が動くたび身体がぶつかるのがドキドキするが、素肌を刺激されないだけまだましと自分に言い聞かせた。
 あの肌にもう一度触れたら、今ですら我慢できるか自信がなくなる。

「朝に焚けるように風呂のお湯入れなおしてるから、入る?」
「え……、あ。でも今は、ちょっとまだだるいかな。それとお腹すいた。尊は?」

(青葉が俺のこと『尊』って呼んでる……。尊い……。恋人同士って最高だ)

 名前を呼ばれただけでまた胸が甘くくすぐられてしまう。にやけてしまいそうになるのを抑えるのが大変だ。
「俺も腹ペコだな。なんか食べないとだね。薬も飲まないと。朝食、何か食べやすいもの用意するから待ってて」

 今まで青葉に接してきていた時のようなクールな自分を少しでも取り戻そうとにこりと笑って、自分だけ起き上がった。

「手伝う」

 続けて頑張り屋が染みついている青葉も身体を起こそうとしたのを手でそっと押しとどめる。

「青葉はまだ横になってて。夜中に飲んだ抑制剤が効いてるみたいだからヒートは緩めになってても身体はだるいんだと思うよ」

 すると大きな目でまじまじと尊の顔を見上げてから、青葉はぽぽっと頬を薔薇色に染めて、夏掛けをよじよじと身体の前に恥ずかしそうに引き寄せた。

「うん、ありがと。うれしい」

 あどけないはにかみ笑顔が愛らしい。自分が青葉の前で格好よく見せようとしていたように、青葉もまた外では必要以上に大人っぽい雰囲気を醸してバイト先の皆を引っ張っていたのだなあと思う。

(もっと沢山甘えて欲しい。甘やかしたいよ。君を)

 思わず唇を近づけたら、青葉は反射的に目を瞑ってふるるっと唇を震わせた。慣れぬ仕草に胸がいっぱいになって、昨晩を意識させぬ優しい口づけで再び挨拶をつぶやいた。

「おはよう。青葉。これから六日間、よろしくね。番になる時、俺がいい。俺じゃなきゃ嫌だって君が改めて思えるように、俺に君を大事にお世話させて」

 
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