くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第一章 くんか、くんか SWEET

24 名前で呼んで

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 気がついたら玄関先で今度は姫抱っこの体勢で、膝の上に抱き上げられながら、靴を脱がされていた。小野寺の前髪から雨の雫が垂れて腕の中の青葉の頬にも落ちる。ぎゅっと彼の腕にしがみ付いて上目遣いにじっと見つめたら、小野寺が気がついて青葉の濡れた頬を、唇を掠めるように拭っていった。 

「んっ……」
(キスされる?)

 無意識に色っぽい吐息を漏らす青葉から、小野寺はぐっと拳を握って瞳を反らす。

「小野寺さん、雨……。濡れちゃった。ごめん」
「このくらい大丈夫だよ。みことでいい。尊って呼んで? 俺も、青葉って呼ぶから」
「尊?」
「そう。嬉しい。青葉」
「ごめんね。冷えたよね。早くお風呂入って」
「……わかった。青葉も冷えたんじゃない? シャワー浴びる?」
「うん」
「またそんな無防備に……。青葉」

 たどたどしい言葉遣いになってしまうが、発情前の眠気に負けて舌ったらずになるのは仕方がない。のろのろとしながら服をその場で脱ごうとしたら、顔を真っ赤にして慌てた小野寺に脱衣所の前に連れていかれた。

「すぐ傍に大きな薬局あるから、オメガ用の強めの抑制剤あるか探してくる。風呂から出たら、あっちの部屋、閉じこもって鍵かけていいから。部屋の前に薬置いたらスマホに連絡するね。それ飲んで、落ち着いたら家まで送っていく」
「うん」

 なんて素直に返事をしたけれど、青葉は半分以上、上の空で話を聞いていなかった。がちゃり、と玄関の鍵がかかる音がして、青葉は一枚一枚服を脱ぎ捨て、だけどパーカーは拾いなおして袖をずるずると引きずりながら脱衣所に入った。
 男の一人暮らしにしてはぴかぴかの洗面所。風呂とトイレも別で、裕福な家の学生さんなのだろうなと思うほど綺麗な部屋だ。
 洗濯機周りも整頓されていて、洗濯物はそれほどため込まれていない。いいとこ二日分程度だろうか。
 その洗濯物をちらりと悩ましい流し目でみやってから、青葉は頭から熱い湯を浴び靄がかかったような意識を一度リセットしてみようと思った。

(尊はやっぱアルファだったんだ。なのに一緒についてきちゃって、俺って……)

 香りの記憶を思い出し、ずくりとまた疼く腹の奥。後孔に手を伸ばせば、掌にしたたる程にそこがぬるりと濡れそぼっていると気がついた。

(ああ……。発情、きちゃう。)

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