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第一章 くんか、くんか SWEET

19 綿あめ

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 あっけにとられた青年を残して小野寺は青葉を背負ったまま地面を蹴り上げる。駅の方向へ段々と速度を上げて駆け出して行った。
いくら痩せっぽっちとはいえ、青葉だって一応成人している男だ。しかしその重さをものともしない堂々たる走りっぷりだ。

(すごいっ! 力持ちだ)

 パーカーは青葉が着ているから、彼はTシャツ一枚で、青葉は暖かな背中に顔を摺り寄せ、すんすんと小野寺の香りを遠慮なく吸い込んだ。

(小野寺さん……。来てくれた)

「小野寺さん、……来てくれてありがとう」
「いや……。君をあのまま置き去りにしないで、目覚めるまでずっと傍に居ればよかったんだ。すまない」
「うーうん。そんなことない。上着も、ありがとう」

 胸いっぱいに嬉しい気持ちが迸り、彼に心も身体も抱きしめられているような安堵感から、一気に頭もぼうっとしてきた。
 熱が一気に高くなった心地がして、青葉自身のフェロモンにも高まったようだ様だ。小野寺が一瞬背中をビクッと震わせた。

「大丈夫か? 香りがすごく強くなった。発情しかけてるだろ? 青葉君、今、抑制剤持ってる?」
「今日、昼遅めに食べたから、その時に普段飲んでる弱い奴は飲んだけど……」
「それ、あんまり効いてなさそう。凄く、その……。濃くて甘い香りがする。綿あめみたいな」
「綿あめ?」

 思いがけない言葉だ。今まで誰からもそんな風に言われたことはない。もちろん普段から抑制剤を服用しているからかもしれないが。

「本人には分からないんだ……。シフト入る前にちょっと食事をとろうと思って、休憩室あけたら、綿あめみたいな甘い香りがしてて、君が眠ってた。俺の上着かぶせたら少しはましになるかと思って……」
「なんで?」

 素直にそう聞き返したら、息を弾ませながら小野寺が答えてくれた。

「俺っ、一応その、アルファだから周りに牽制になるかと思って」

(やっぱりそうなんだ)

 思った通り、小野寺はアルファ男性だったようだ。だが意外には思わなかった。ちょうど信号に差し掛かった。点滅した信号の手前で、小野寺は律義に止まる。

「おろして」


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