くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第一章 くんか、くんか SWEET

16 会いたい

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  折角お店のショーウィンドーの前まで来たのに、店の中に小野寺の姿は見当たらなかった。今日はバイトがあるとは聞いていた。仕事中に青葉がチラ見した時にも小野寺はいなかったから、今は仕事中だと思ったのだがあてが外れてしまった。
 勢いでここまで来たものの、体調不良も手伝って急に不安な気持ちが胸に湧き上がってきた。

(服、勝手に着ちゃってるの、変に思われたらどうしよう)
 
 しかし普段の小野寺の様子を考えれば、きっと青葉が風邪をひかないようにと親切心からの行動と思うことができた。頭に浮かぶのはいつもで人好きする笑顔の小野寺。
 青葉は胸のあたりできゅっと拳を握って今一度店の扉の方へ歩み寄った。

(……こんなこそこそしてないで、傘の時みたいにちゃんと堂々と小野寺さんに借りればいいんだ。『肌寒かったから嬉しいありがとう。このまま借りてもいい?』って言って、このまま帰らせてもらってさ。それから……。ヒート来るかもだから、出かけられないかもって。言おう。言わなきゃ。すごく、すごく残念だっていうんだ。また約束したいですって、いうんだ)

 そうしたら家にこの宝物を持って帰ることができる。青葉は再び、すんすんっしながらパーカーの袖に頬ずりした。

(最高の『巣材』、ゲットした)
 
 このパーカーに見合う、逞しい体躯に組み敷かれ、逃げることもできずい抱きすくめられる妄想に浸る。耳元で欲にぬれた声で囁かれるのはあの日貰った言葉。
『青葉君と一緒にイキきたいんだ』

(はわああ、俺のバカ、なにハズイこと考えちゃってんだよ!)

「やっぱヒート近そ……、あたまおかしい、俺」

 でも絶対にこのパーカーは『妄想巣作り』に使う。こんなチャンスめったにない。いつものあのむなしい行為が、最高の素材を手に入れたことにより、極上の妄想体験に小空き出来る。
 もちろん、あんなことやこんなことの妄想に使っちゃうことは、絶対に言わず、しっかり洗濯して返せばいいのだ。

 大分熱っぽくなり、今何をするのが一番大切なのか、判断力が低下した青葉でも頭の奥でチカチカと警報のランプが警戒せよと点滅している。 
 ヒートがきそうならば、街中に出歩くのはご法度、もちろんαや場合によってはβの男性に近づくのだって危険な行為なのだ。

(だめ、帰らなきゃ……)

 しかし足が地面に張り付いたように動けない。コーヒーショップから漏れる灯が潤んだ瞳に滲んで見えた。

(だって、仕方ないじゃん。会いたいんだよお)

 ぼんやりしたまま立ち去ろうにも踏み出せず、覚束ない足元でお店を覗いていたら、店員と思しき格好の男性がこちらに出てきてくれるのが見えた。

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