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第一章 くんか、くんか SWEET
14 お誘い
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青葉は頭をぱっと下げてお辞儀をすると、踵を返してそのまま改札を通り抜けてた。でもなんだか名残惜しくて、せわし気に行きかう人々の中で、一度だけ振りむいた。
すると彼はまだその場で立ち去る青葉を見守ってくれていた。
(いつもあっちのお店から手を振ってくれる時みたいだ)
小野寺は長い腕を振り上げひときわ爽やかな笑顔を見せながら、大きな手を振ってくれていた。青葉もぱあっと笑顔になってぶんぶんと手を振り返すと、頬がどんどん火照ってくるのを感じて、くるっと前を向いた。
(うっひゃあ。恥ずかしいけど、嬉しい)
真っ赤になった顔に満面の笑みを浮かべたまま、鼻歌交じりに駅の構内を軽やかな足取りでホームに向かっていった。
その後小野寺に傘を返しにいった時に、「休みが合ったら、一緒に買い物とか、映画とかいかない?」とさりげなく誘われた。
「……大学の友達とかじゃなくて、俺でいいの? 小野寺さんバイト先にだって友達多そうなのに」
グラッチェアイスのメンバーにはダイアナムーンコーヒーのイケメンとお付き合いをしている子も多い。ダイアナムーンは学生のアルバイト同士も仲が良く、頻繁にBBQや飲み会を繰り返していると聞く。
「青葉君と一緒に行きたいんだ。駄目かな?」
ちょっとだけ屈んで覗き込まれた。向けられた大きな瞳は近くで見るとますます澄んできらきらに見えて、一つの迷いもない綺麗な顔をしていた。
柔和な笑顔なので青葉が警戒して引く隙を見せない、ちょっぴりの強引だがまた胸にずきゅんっとくる。
(その顔で思わせぶりなの、やめて。色々期待しちゃうだろ)
普段はさばさばした青葉だが、こうも直球で来られたら柄にもなく戸惑ってしまった。
「分かった。いいよ。いつ行く?」
「来週末、土日どちらも俺は開いてるんだけど、青葉君は?」
「おお、きゅ、急だな。ちょっと待ってて」
青葉は耳先を真っ赤に染めながら、慌ててスマホを取り出してシフトを確認すると、奇跡的に青葉もそこにはシフトが入っていなかった。
「土曜日の午後なら、いいよ」
「よかった。ありがとう。行きたい店とか見たい映画ある?」
「小野寺さんが映画行かないって聞いたんだから、小野寺さんがみたいやつでいいよ」
ファッションやメイクにはこだわりがあって、そこは譲れない部分がある青葉だけれど、人との付き合い方は意外と相手に合わせるのが好きだ。
すると今度は小野寺が照れたような表情で首筋に手を当てた。わずかにうつむいた。
「ごめん。どこなら君が一緒に出掛けてくれるか分からなくて、とりあえず映画っていったけど、本当はどこだっていいんだ。君と出かけられるなら」
「まじか……」
青葉は驚いて目を真ん丸に見開き、思わず感嘆の声を呟いてしまい、慌てて口元に手を当てた。
(このルックスでさらに『可愛い』もつくのか! 恐るべし、小野寺尊)
二人は互いのバイト先の真ん中にある歩道で立ち話をしていた。コーヒーショップ側からも看板を取り込むついでに『よ、小野寺。喋れてよかったな』とわざわざ聞こえよがしい声をかける青年がいたが、青葉の方もなんだか横から視線を感じた。
ちらりとグラッチェアイス側を見たら、興味津々といった顔つきで、先輩方がショーウィンドーの張りつかんばかりにこちらを見ていた。目があったら小さく拳を握って「がんばれ」ポーズをとったり、ダスターを持つ手をひらひらと振ってきた。
(応援やめて~!)
今日のシフトメンバーはたまたま一番お喋りな面子ばかりがそろっている。後から色々根掘り葉掘り聞かれると思うと頭が痛かった。
先週はそんなことがあったのだ。
そして今、青葉が羽織っているのは、胸についていたメーカーのタグ、そしてこの香り、あの日、小野寺がきていた黒いパーカーで間違いなさそうだ。
すると彼はまだその場で立ち去る青葉を見守ってくれていた。
(いつもあっちのお店から手を振ってくれる時みたいだ)
小野寺は長い腕を振り上げひときわ爽やかな笑顔を見せながら、大きな手を振ってくれていた。青葉もぱあっと笑顔になってぶんぶんと手を振り返すと、頬がどんどん火照ってくるのを感じて、くるっと前を向いた。
(うっひゃあ。恥ずかしいけど、嬉しい)
真っ赤になった顔に満面の笑みを浮かべたまま、鼻歌交じりに駅の構内を軽やかな足取りでホームに向かっていった。
その後小野寺に傘を返しにいった時に、「休みが合ったら、一緒に買い物とか、映画とかいかない?」とさりげなく誘われた。
「……大学の友達とかじゃなくて、俺でいいの? 小野寺さんバイト先にだって友達多そうなのに」
グラッチェアイスのメンバーにはダイアナムーンコーヒーのイケメンとお付き合いをしている子も多い。ダイアナムーンは学生のアルバイト同士も仲が良く、頻繁にBBQや飲み会を繰り返していると聞く。
「青葉君と一緒に行きたいんだ。駄目かな?」
ちょっとだけ屈んで覗き込まれた。向けられた大きな瞳は近くで見るとますます澄んできらきらに見えて、一つの迷いもない綺麗な顔をしていた。
柔和な笑顔なので青葉が警戒して引く隙を見せない、ちょっぴりの強引だがまた胸にずきゅんっとくる。
(その顔で思わせぶりなの、やめて。色々期待しちゃうだろ)
普段はさばさばした青葉だが、こうも直球で来られたら柄にもなく戸惑ってしまった。
「分かった。いいよ。いつ行く?」
「来週末、土日どちらも俺は開いてるんだけど、青葉君は?」
「おお、きゅ、急だな。ちょっと待ってて」
青葉は耳先を真っ赤に染めながら、慌ててスマホを取り出してシフトを確認すると、奇跡的に青葉もそこにはシフトが入っていなかった。
「土曜日の午後なら、いいよ」
「よかった。ありがとう。行きたい店とか見たい映画ある?」
「小野寺さんが映画行かないって聞いたんだから、小野寺さんがみたいやつでいいよ」
ファッションやメイクにはこだわりがあって、そこは譲れない部分がある青葉だけれど、人との付き合い方は意外と相手に合わせるのが好きだ。
すると今度は小野寺が照れたような表情で首筋に手を当てた。わずかにうつむいた。
「ごめん。どこなら君が一緒に出掛けてくれるか分からなくて、とりあえず映画っていったけど、本当はどこだっていいんだ。君と出かけられるなら」
「まじか……」
青葉は驚いて目を真ん丸に見開き、思わず感嘆の声を呟いてしまい、慌てて口元に手を当てた。
(このルックスでさらに『可愛い』もつくのか! 恐るべし、小野寺尊)
二人は互いのバイト先の真ん中にある歩道で立ち話をしていた。コーヒーショップ側からも看板を取り込むついでに『よ、小野寺。喋れてよかったな』とわざわざ聞こえよがしい声をかける青年がいたが、青葉の方もなんだか横から視線を感じた。
ちらりとグラッチェアイス側を見たら、興味津々といった顔つきで、先輩方がショーウィンドーの張りつかんばかりにこちらを見ていた。目があったら小さく拳を握って「がんばれ」ポーズをとったり、ダスターを持つ手をひらひらと振ってきた。
(応援やめて~!)
今日のシフトメンバーはたまたま一番お喋りな面子ばかりがそろっている。後から色々根掘り葉掘り聞かれると思うと頭が痛かった。
先週はそんなことがあったのだ。
そして今、青葉が羽織っているのは、胸についていたメーカーのタグ、そしてこの香り、あの日、小野寺がきていた黒いパーカーで間違いなさそうだ。
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