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第一章 くんか、くんか SWEET
9 彼パーカー
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自宅のある駅までは電車で二駅ほど。日常生活を送るための軽めの抑制剤は一応朝服用していたが、このまま徐々に熱が上がれば、早ければ日付が変わるころに発情期に入るかもしれない。
今すぐ一気に発情するとは思えないが、それでも用心に越したことはない。
青葉は反射的にパーカーを羽織って立ち上がり、いつも使っている目立つ紫色のリュックを背負って歩き出した。
(このパーカー、ロゴに見覚えがある。多分あの人のだ……。それにこの香りも)
脳裏に浮かんだのは、あの華やかな笑顔。いつでも青葉を見つめる眼差しは優しくて、思い浮かべたら無意識に渇きを感じて、青葉はちろり、と赤く色づく唇を舐めた。
向かいにあるコーヒーショップで青葉が気になっている青年がいる。
顔採用か? と言われるほど美形揃いのダイアナムーンコーヒーの面々の中でもひときわ目立つ長身で、王様みたいな体躯はいつでも堂々と際立って見えた。
明るすぎない綺麗な茶色の髪に、目元だけ見たら睫毛が長く優し気な感じの美形なのだ。
「絶対アルファでしょ?」「アイドルグループの誰それに似ている」「目の保養すぎ」「あの笑顔近くで見たくて、彼がいたら帰りに注文しに行っちゃう」とグラッチェアイスクリームで働く女性たちの間では以前からたびたび話題に上っていた。
青葉は高校生の時から今のアイスクリーム店でバイトはしていたものの、大学に入ってからはあちらのコーヒーショップでも仕事をしてみたいとも考えていた。
そもそもコーヒーが好きなのと、働いている人が皆凄く格好良く見えるからという単純な理由。しかし調べてみたら髪色や服装に結構厳しい規定があると分かった。どうりで皆一様に、品の良い清潔感ある身なりをしていると納得だ。
青葉は青葉なりにファッションにこだわりがある。
将来は保育士になりたいので実習が本格的に始まる前まではと、元々ふわふわな癖毛を柔らかな薄ピンクと毛先だけグラデーションをつけライトラベンダーにしている。
中性的な容姿に陶器みたいな白い肌をしているので、ちょっと意識している、某国のアイドルみたいだと女子から大好評だが、あちらの店は受けるまでもなく不合格になると分かっていた。
それでも向かいの店の店員たちの白いシャツ、黒いパンツ姿に揃いの黒のロングエプロンをピシッと身に着けた格好に憧れ、彼らがとても眩しく見えた。
だからこちらの店が暇なときなど、ちらちらとなんとなく向こうの店員たちの働く姿を追ってしまう。
そうしてうちになんとなく目が合って微笑んでくれる人が現れるようになった。人懐っこい青葉は小さく会釈したり、そのうち大胆になってエールを送るように手を振ったりしていると、向こうの人も、手を振って笑顔をかえしてくれるようになった。
その中の一人が多分、このパーカーの持ち主であろう、噂のイケメンこと小野寺尊だった。
今すぐ一気に発情するとは思えないが、それでも用心に越したことはない。
青葉は反射的にパーカーを羽織って立ち上がり、いつも使っている目立つ紫色のリュックを背負って歩き出した。
(このパーカー、ロゴに見覚えがある。多分あの人のだ……。それにこの香りも)
脳裏に浮かんだのは、あの華やかな笑顔。いつでも青葉を見つめる眼差しは優しくて、思い浮かべたら無意識に渇きを感じて、青葉はちろり、と赤く色づく唇を舐めた。
向かいにあるコーヒーショップで青葉が気になっている青年がいる。
顔採用か? と言われるほど美形揃いのダイアナムーンコーヒーの面々の中でもひときわ目立つ長身で、王様みたいな体躯はいつでも堂々と際立って見えた。
明るすぎない綺麗な茶色の髪に、目元だけ見たら睫毛が長く優し気な感じの美形なのだ。
「絶対アルファでしょ?」「アイドルグループの誰それに似ている」「目の保養すぎ」「あの笑顔近くで見たくて、彼がいたら帰りに注文しに行っちゃう」とグラッチェアイスクリームで働く女性たちの間では以前からたびたび話題に上っていた。
青葉は高校生の時から今のアイスクリーム店でバイトはしていたものの、大学に入ってからはあちらのコーヒーショップでも仕事をしてみたいとも考えていた。
そもそもコーヒーが好きなのと、働いている人が皆凄く格好良く見えるからという単純な理由。しかし調べてみたら髪色や服装に結構厳しい規定があると分かった。どうりで皆一様に、品の良い清潔感ある身なりをしていると納得だ。
青葉は青葉なりにファッションにこだわりがある。
将来は保育士になりたいので実習が本格的に始まる前まではと、元々ふわふわな癖毛を柔らかな薄ピンクと毛先だけグラデーションをつけライトラベンダーにしている。
中性的な容姿に陶器みたいな白い肌をしているので、ちょっと意識している、某国のアイドルみたいだと女子から大好評だが、あちらの店は受けるまでもなく不合格になると分かっていた。
それでも向かいの店の店員たちの白いシャツ、黒いパンツ姿に揃いの黒のロングエプロンをピシッと身に着けた格好に憧れ、彼らがとても眩しく見えた。
だからこちらの店が暇なときなど、ちらちらとなんとなく向こうの店員たちの働く姿を追ってしまう。
そうしてうちになんとなく目が合って微笑んでくれる人が現れるようになった。人懐っこい青葉は小さく会釈したり、そのうち大胆になってエールを送るように手を振ったりしていると、向こうの人も、手を振って笑顔をかえしてくれるようになった。
その中の一人が多分、このパーカーの持ち主であろう、噂のイケメンこと小野寺尊だった。
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