くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛

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第一章 くんか、くんか SWEET

6 真っ赤な顔

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「だってダイアナムーンコーヒーで一番イケてる店員さんじゃない! グラッチェで狙ってた子も多いのに、あっちは青葉君狙いだったとは……。いや確かにこっち見てくること多かったから、薄々誰か狙いだとは思ってたけどさ。まあ、ダイアナの男の子、みんな私らのこと見てくるけどね?」
「いよいよ私たちグラッチェの王子様にも番候補があらわれたってやつ? これはみんなで応援しないとね~」
「青葉先輩の巣作りエピソードが聞ける日が来るのかしらあ。リノ楽しみ」 
「いや、ないから。まだそういうんじゃなくて、小野寺さんとはさ。こないだちょっと話す機会があったってだけで……」
「彼、小野寺さんっていうんだ~」
「え、ああ、ううっ」

 青葉はぽぽっと帽子から出た耳の先を赤らめてしまった。そして同時に他人に喋ったら恥ずかしくて死んでしまうような『巣作り』のエピソードも思い出してしまった。

(発情期の時、番がいたらこんなんかな……とか想像して。わざとおっきめのパーカーとかズボンとか買って好みの香水振りかけて、それに縋りつきながら一人で自分を慰めてるとか。哀しい「妄想巣作り」しているの、流石に恥ずかしすぎてネタとして話すのも無理だな)

 まして最近ではその妄想の相手には『モデル』までいるなんて、口が裂けても言えるはずがない。
 あの日引き寄せてくれた腕の力強さ、柔和な顔立ちに反した逞しい体つき。
青葉がすっぽりと隠れるほどの広く厚い胸板。そして心惹かれるあの香り。
 親し気に名前を呼ばれただけでも、本当は胸の鼓動がとくとくと小さく跳ね上がってしまう。抱きしめられでもしたら、どうにかなってしまいそうだ。
 だけど恥ずかしい妄想に登場させるには申し訳なさすぎる。小野寺はそれほどの清々しい好人物だ。

『青葉君、いつも頑張っているから、これ差し入れ』

 数日前。借りた傘とそのお礼のお菓子を差し出すと、小野寺は青葉の手を包むように、彼はダイアナムーンコーヒーのホットドリンクを手渡してきた。
もちろんいつもみたいに彼からの応援メッセージと共に今回はアイスクリームを持った猫のイラストと共にさりげなくカップに描かれていた。
 目がぱっちりした猫ちゃんは、耳にピアスが沢山ついている。きっとこれは青葉の似顔絵なのかもしれない。面映ゆくて、メッセージのことにはいつも触れられないけど内心は嬉しくて仕方がない。いつも隠れて写真を撮ってコレクションにしているし、たまにSNSにあげて自慢してしまっている。
 小野寺のさりげない気遣いはこれだけでももちろん素敵だが、店の客でもある青葉の好みを熟知したフレーバーになっていたのがドキドキするほど嬉しかった。
 さらに青葉の心を甘く蕩けさせたのは人懐っこい笑顔と囁くような低く柔らかな小野寺の声、そして香り。頭の中に思い浮かべるだけで、ドキドキと胸が弾む。

 どきどきどき……。青葉は赤い顔をして、胸を手で押さえてうつむいた。

「青葉先輩? なんか顔、赤い」

 可愛い後輩が大きな瞳で上目遣いに青葉を見上げてきたから狼狽えた青葉は益々顔が赤くなった。
「青葉君ったら、照れちゃって」
「違うのぉ。もしかして先輩発情期近いじゃないですかぁ? 無理してリノの為に残ってくれてたの? 本当にごめんなさい。お昼ご飯食べて早くお家に帰って? さっき、先輩の為お詫びの昼は買ってきたから」
 そんな風にのんびり言いつつ、健気におにぎりやパンやら数個入ったコンビニ袋を手渡してくれる。リノの気遣いと、なんだかんだ言いつつ鋭いところに青葉も助かるところは大きい。
 これぞ女の子の手ともいうべき小さく柔い掌を青葉の額に当ててきたから、青葉は自分では隠していたはずの不調を見抜かれ、どきりとする。とても軽い調子で「大丈夫」と返せなかった。

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