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第一章 くんか、くんか SWEET
3 向かいのお店
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「雨降りそうだから、ちょっと客足減ったよね。まだリノちゃん来なさそうだから、青葉君お昼行ってきちゃえば?」
先輩店員に声をかけられ、窓辺でテーブルを拭いていた青葉はふと外に目をやる。朝よりずっと雲が厚く垂れこめ確かに一雨きそうな感じだ。
「お昼……、それだとゆっくりできないから。上がってからのんびり食べたい」
「だよね」
青葉はそのままダスターを動かす手を止めずに、向かいにあるカフェをちらちらと眺めた。
あちらはここのショップモールの特集が組まれると、必ず取り上げられる人気のカフェだ。休日ともなれば買い物のついでに立ち寄る人も多く客足が絶えることはない。
「わ、降ってきたね」
ついにぽつぽつと雨粒が窓に降りかかるに至り、手を繋いだまま向かいの店に駆け込んできたカップルがスィーツの入ったケースの前に立った。
青葉はその向こうにいる、にこやかに注文を受ける青年たちにささっと視線を走らせる。
(いないかなあ)
目当ての彼は一際背が高くて、黒いVネックのロングエプロンが誂えたようにびしっとよく似合う。かなりのイケメンなのに人懐っこい笑顔が爽やかで、低く耳あたりの良い声に青葉はいつも聞きほれてしまう。そんな人だ。
しかし残念ながら、今日は一度も彼の姿を見かけていない。青葉は小さくため息をついた。
(うーん。やっぱりいない。今日はシフト入ってないのかなあ)
目当ての彼を探すことができず、代わりに鮮やかなピンクのポロシャツを身着けた少女が、よたよたと走ってくるのが見えた。
遅刻してきた子は青葉と同じ大学の児童学科保育コースの後輩だ。彼女も青葉と同じくオメガ性を持っている。
二人のバイト先である「グラッチェアイスクリーム」はオメガ性を持つ人の雇用に理解がある企業として知られている。
有給とは別にヒート休暇も数日貰えるし、青葉はつけていないが人気の可愛い制服とお揃いのうなじ保護用のチョーカーまで望めば支給されるほどだ。
そして今回、彼女の遅刻の理由もやはり、オメガ性特有のものだった。
「青葉先輩、遅れてごめんなさぁい」
来店の音楽を響かせて扉が勢いよく開いた。そのあと取っ手に手をかけたままぜーぜーと肩で息をする少女の肩にぽんっと手をやって、青葉は心配そうに覗き込んだ。
先輩店員に声をかけられ、窓辺でテーブルを拭いていた青葉はふと外に目をやる。朝よりずっと雲が厚く垂れこめ確かに一雨きそうな感じだ。
「お昼……、それだとゆっくりできないから。上がってからのんびり食べたい」
「だよね」
青葉はそのままダスターを動かす手を止めずに、向かいにあるカフェをちらちらと眺めた。
あちらはここのショップモールの特集が組まれると、必ず取り上げられる人気のカフェだ。休日ともなれば買い物のついでに立ち寄る人も多く客足が絶えることはない。
「わ、降ってきたね」
ついにぽつぽつと雨粒が窓に降りかかるに至り、手を繋いだまま向かいの店に駆け込んできたカップルがスィーツの入ったケースの前に立った。
青葉はその向こうにいる、にこやかに注文を受ける青年たちにささっと視線を走らせる。
(いないかなあ)
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しかし残念ながら、今日は一度も彼の姿を見かけていない。青葉は小さくため息をついた。
(うーん。やっぱりいない。今日はシフト入ってないのかなあ)
目当ての彼を探すことができず、代わりに鮮やかなピンクのポロシャツを身着けた少女が、よたよたと走ってくるのが見えた。
遅刻してきた子は青葉と同じ大学の児童学科保育コースの後輩だ。彼女も青葉と同じくオメガ性を持っている。
二人のバイト先である「グラッチェアイスクリーム」はオメガ性を持つ人の雇用に理解がある企業として知られている。
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そして今回、彼女の遅刻の理由もやはり、オメガ性特有のものだった。
「青葉先輩、遅れてごめんなさぁい」
来店の音楽を響かせて扉が勢いよく開いた。そのあと取っ手に手をかけたままぜーぜーと肩で息をする少女の肩にぽんっと手をやって、青葉は心配そうに覗き込んだ。
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