香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

旅する家族の終の住処2

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 長年共に暮らしたせいか、むうっとヴィオと似た表情をして机に肘をついたセラフィンの膝の上に、ヴィオが遠慮ない様子で前から両肩に手をついて伸し掛かり、膝を曲げてよじ登ってきた。そして遠慮なく相変わらず細い腰を下ろすと、ぴったり胸をくっつけて甘えるように抱き着ついてきた。

「おい、ヴィオ!」

 焦りつつも満更ではない様子の夫は、両手で腰に手を回し、落ちないようにしっかり抱きかかえるふりをしてその触れ合いを楽しんだ。

 そよそよとカーテンが再び揺れ、セラフィンにしか香らぬヴィオの相変わらず清潔感溢れる甘い香りが辺りに漂う。ぺったり夫にくっついていたヴィオが顔を上げて片手をすりっとセラの頬に当ててきた。

「じゃあいいよ。僕も一緒にここにいるから。みんなに気づかれるまでたまには二人っきりでいようね」

 そんな殺し文句を言われたら、セラフィンはもうヴィオの言いなりだ。
 若い頃は美貌で名を馳せ、今では年を経て端正な顔に渋みが増し男ぶりが上がった夫を見つめてヴィオはまた惚れ惚れしてしまう。
 それはセラフィンも同じこと。腕の中のヴィオはいつまでたっても出会ったころと変わらぬ耀きでセラフィンを照らし続けてくれる。

 ヴィオは頬の上にある名誉の古傷を愛おし気に摩ってからキスを落とすと、艶っぽいが明るい不思議な魅力の笑顔を見せて、満足げに夫の胸に顔をうずめて目を瞑る。

「そうだな。たまにはゆっくりしよう」

 そういうとほどよく支えてくれる厚みのある背もたれに身体を預けてセラフィンも同じく目を閉じた。


 少しだけ時間が経って、末娘のルピナスが祖父のアガと手を繋いで二人を探して庭をうろうろしながら歩いてきた。ヴィオに瓜二つの顔に好奇心いっぱいの輝く瞳をした元気いっぱいの少女は、甲高く可愛らしい声を上げるとカーテンが大きく揺れるテラスを覗き込もうとした。

「ママ、パパいないの~」

 しかしそのほんの少し前に、椅子の上で抱き合って転寝する夫婦の姿を認めたアガが、深い皺を刻んだ目元に微笑みを浮かべて孫娘に「しぃ」っと声をかける。

「ママたちは少しお休みしているみたいだ。じいじと一緒に先に兄さんの所にいくとしようか」
「わかった~」

 爽やかな午前中のそよ風の中、本当にうとうとしはじめた番たちはそんな優しいやり取りをどこか遠くに聞こえていたが、互いの心音を聞きながらやがて穏やかな寝息を立て始めた。

 日頃皆のために力を尽くす二人だが、今だけは互いの為だけに癒し癒され。
 これからもずっと共に愛し愛されて暮らしていくのだ。 

                                         終わり
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