香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
219 / 222
溺愛編

旅する家族の終の住処2

しおりを挟む
 長年共に暮らしたせいか、むうっとヴィオと似た表情をして机に肘をついたセラフィンの膝の上に、ヴィオが遠慮ない様子で前から両肩に手をついて伸し掛かり、膝を曲げてよじ登ってきた。そして遠慮なく相変わらず細い腰を下ろすと、ぴったり胸をくっつけて甘えるように抱き着ついてきた。

「おい、ヴィオ!」

 焦りつつも満更ではない様子の夫は、両手で腰に手を回し、落ちないようにしっかり抱きかかえるふりをしてその触れ合いを楽しんだ。

 そよそよとカーテンが再び揺れ、セラフィンにしか香らぬヴィオの相変わらず清潔感溢れる甘い香りが辺りに漂う。ぺったり夫にくっついていたヴィオが顔を上げて片手をすりっとセラの頬に当ててきた。

「じゃあいいよ。僕も一緒にここにいるから。みんなに気づかれるまでたまには二人っきりでいようね」

 そんな殺し文句を言われたら、セラフィンはもうヴィオの言いなりだ。
 若い頃は美貌で名を馳せ、今では年を経て端正な顔に渋みが増し男ぶりが上がった夫を見つめてヴィオはまた惚れ惚れしてしまう。
 それはセラフィンも同じこと。腕の中のヴィオはいつまでたっても出会ったころと変わらぬ耀きでセラフィンを照らし続けてくれる。

 ヴィオは頬の上にある名誉の古傷を愛おし気に摩ってからキスを落とすと、艶っぽいが明るい不思議な魅力の笑顔を見せて、満足げに夫の胸に顔をうずめて目を瞑る。

「そうだな。たまにはゆっくりしよう」

 そういうとほどよく支えてくれる厚みのある背もたれに身体を預けてセラフィンも同じく目を閉じた。


 少しだけ時間が経って、末娘のルピナスが祖父のアガと手を繋いで二人を探して庭をうろうろしながら歩いてきた。ヴィオに瓜二つの顔に好奇心いっぱいの輝く瞳をした元気いっぱいの少女は、甲高く可愛らしい声を上げるとカーテンが大きく揺れるテラスを覗き込もうとした。

「ママ、パパいないの~」

 しかしそのほんの少し前に、椅子の上で抱き合って転寝する夫婦の姿を認めたアガが、深い皺を刻んだ目元に微笑みを浮かべて孫娘に「しぃ」っと声をかける。

「ママたちは少しお休みしているみたいだ。じいじと一緒に先に兄さんの所にいくとしようか」
「わかった~」

 爽やかな午前中のそよ風の中、本当にうとうとしはじめた番たちはそんな優しいやり取りをどこか遠くに聞こえていたが、互いの心音を聞きながらやがて穏やかな寝息を立て始めた。

 日頃皆のために力を尽くす二人だが、今だけは互いの為だけに癒し癒され。
 これからもずっと共に愛し愛されて暮らしていくのだ。 

                                         終わり
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

処理中です...