香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

発情3

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 二人の重みに潰された花々からむっとする草いきれが立ち昇る。白い花びらが散った赤と緑の褥に横たわったヴィオの衣服をくつろげながら、セラフィンははやる気持ちを最早抑えきれなかった。

 登山に適した硬くごわごわとした色気も味気もない砂色のボトムを下履きごと剥ぎ取り、そのまま自身も上着を脱ぎ去って、後ろに向けて放り投げた。

 一迅の冷たい風が短くなったセラフィン黒髪を揺らし、熱く燃え上がる身体に強く吹き付けていったがそれをものともしない。
 ヴィオは下半身だけ外気に晒したしどけない姿でちらりと見上げた空の眩しさに袖で目元を覆った。先ほどの口づけで濡れた蠱惑的な赤い唇だけがぽっかりと開いて婀娜っぽい吐息を漏らしている。

 その熱い手を指先を握るようにして外させると、こんなにも明るい光の下、日の光が差し込んだ紫に緑、金の入り混じる不思議な色の虹彩が、完全に黄金に変じる奇跡のような光景を目の当たりにした。

「ヴィオ、瞳が金色に染まってる……。興奮しているんだね?」

 いつになっても初心なヴィオがふるふると首を振って恥ずかし気に顔を背けると、涙の透明な雫が煌きながら草むらに落ちていった。

「あんっ、ああ。セラ、いじわるしないで、早くちょうだい!」

 一度男を知った身体は恐れよりも疼きを強く感じ、赤い舌を見せつけながらはあはあと大きく息をつく。昨晩幼くあどけないとすら思った顔は、今は淫靡なまでの艶を湛えて男を誘う。その舌を舌先で悪戯するように舐めとるとヴィオは小鳥のように身を震わせ、可愛らしく喘ぐ。
 薬の効き目が薄れ本能に支配されるまでの僅かな間、セラフィンは恋人の媚態をぎりぎりまで堪能することにした。

「寒いかもしれないけど、全て脱がせてもいい? 俺に全部愛させて」

 優しく尋ねてはいるが有無を言わせぬ強引さで、セラフィンは前ボタンを次々に外していく。黒髪は波打つように広がり、艶々とガラスのような光沢を放つ。秋の日差しに照らされた素肌は甘い香りを放ちながら滑らかな淡い褐色に艶めいていた。風の冷たさで立ち上がる胸の飾りをヴィオはつないだ手を外して隠そうとするのをセラフィンは許さない。どこもかしこも若く瑞々しい肢体を全てを隠すことなく光の下に晒させ、涙の跡の残る美しい顔に手をかけ、仰向かせた。
 始まりの大地に仰向けたその姿は、神々しいまでの生命力にあふれ、生き生きと弾けんばかりの美しさを放っていた。

「……ヴィオ、凄く綺麗だ。この世で一番、誰より美しいよ」

 熱に浮かされたように呟くセラフィンの貌も、興奮から壮絶な美で彩られていた。ヴィオは青い空の下日を背にしてこちらを蕩けるような表情で見下ろす愛する人を、潤みかすむ瞳で見上げて苦しい息をつきながらも泣き笑いの顔をした。
 その仕草の可憐さに、セラフィンは衝動的に持ち上げた指先にそよぐように口づけて柔らかく食むが、そのまだ紳士的とさえいえる甘く優しい愛撫すら、身体中が感じやすく高まっているヴィオには甘美な責め苦に感じる。

「やあ、やっ! うう、早く! 早くきて!」

 ヴィオは苦し気に腰を煽情的にくねらせながら、長く細い脚をセラフィンの腰に回して引き寄せる。まるで名うての娼婦のような仕草に、セラフィンも煽られ、がさっと草むらに腕をつくと夢中でヴィオの真っ赤な唇を貪った。
 むっちりと柔らかな唇。熱い口内に溢れる唾液すら甘く、絡み合う舌を離すと弾む息すら奪うようにどちらともなく再び口づける。ヴィオの細い腕がセラフィンの背に回され、短くなった黒髪を悩ましい手付きでかき混ぜる。互いに噛みしめた果実は苦い血の味が染みたが、それすら今は甘美な媚薬のように感じ入る。足の間の互いに兆し屹立したものを擦り付けあい、喉は無意識に獣のような唸り声をたてた。

「ヴィオ、ヴィオ」

 
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