香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

発情2

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 セラフィンは犬歯をむき出しにして自らの唇から血が流れる程噛みしめながら痛みと広がる鉄の味でなんとか正気を保とうと自らを奮い立たせる。

 再び先ほどの鳥の影が強い日差しに地面に写る。その姿を見上げることはできなかったが、まるで空から二人を励ましているかのように感じた。

 半刻も過ぎぬうちに元の里の辺りまでは戻ってこれた。風がザワザワと木々を揺らす他は相変わらずの静けさの中、雲が増えてきて気温が少し下がった気がした。気持ちは急いたが、こんな時こそ冷静さを失ってはならないとセラフィンは自分に言い聞かせ続けた。
 岸壁の麓を見回すと、先に到着していたアガが、自らが背負ってきたセラフィンの荷物と自分の荷物の中から飲み物やヴィオの持ってきた笹菓子など、必要そうなものを目立つ場所に置いてくれていた。

 背もたれになりそうななだらかな白い岩の横にヴィオを座らせると、口元にフラスコをつけて水を含ませた。うまく飲めずにだらりと水が零れていったので、セラフィンは自ら口に含んでヴィオに飲ませてやる。喉がこくんと鳴り、ヴィオは熱で潤む縋るような眼差しをセラフィンにくれると、大きな涙をぼろぼろと零しながら目を瞑り、くたりと岩に身体を凭れかからせた。
 初めてのヒートだ。だるさ熱さに加えて湧き上がる性衝動に叫び出したい心地だろう。握りしめた拳は指先まで真っ白で、しかしぐっと我慢している唇は噛みしめすぎて真っ赤にはれ上がっていた。

「ヴィオ、少しだけ待っていて。休める場所を探すから。苦しかったら声を上げていいからね」

 セラフィンもそれだけ絞り出すと立ち上がって岸壁の麓を駆けまわろうとした。

「ううっ。うああ、はあ、はあっ。いや、いかないで、セラ、セラ!」

 しかしこらえきれずに喘ぎ声をあげたヴィオをやはり一時も一人きりにはできなかった。セラフィンはヴィオを腕に抱え上げると良い巣を探す雄の獣になったかのように岸壁に向けて彷徨い歩いた。しかしどこもかしこも岩場と草むらばかり。岸壁の暗い隙間が適当であるとも思えなかった。

「……セラ、もう、駄目! 」

 ぎゅっと爪が立つほどの強い力で二の腕を掴まれ、腕の中のヴィオを見やると、彼は金色に燃える強い光を両の眼に宿して、まっすぐにセラフィンを射抜いた。

「今すぐ、僕を、番にして。お願いっ!!」

 立ち昇るフェロモンは屋外を物ともせぬ強さでセラフィンの全身を包み、牙をむき出しにしたセラフィンは首の赤いショール広げ宙に躍らせると、白い小さな花々が揺れる草むらの上に広げ、ヴィオをその上に横たえた。そしてそのまま自らも彼に伸し掛かり激しい口づけを交わし始めた。
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