213 / 222
溺愛編
発情2
しおりを挟む
セラフィンは犬歯をむき出しにして自らの唇から血が流れる程噛みしめながら痛みと広がる鉄の味でなんとか正気を保とうと自らを奮い立たせる。
再び先ほどの鳥の影が強い日差しに地面に写る。その姿を見上げることはできなかったが、まるで空から二人を励ましているかのように感じた。
半刻も過ぎぬうちに元の里の辺りまでは戻ってこれた。風がザワザワと木々を揺らす他は相変わらずの静けさの中、雲が増えてきて気温が少し下がった気がした。気持ちは急いたが、こんな時こそ冷静さを失ってはならないとセラフィンは自分に言い聞かせ続けた。
岸壁の麓を見回すと、先に到着していたアガが、自らが背負ってきたセラフィンの荷物と自分の荷物の中から飲み物やヴィオの持ってきた笹菓子など、必要そうなものを目立つ場所に置いてくれていた。
背もたれになりそうななだらかな白い岩の横にヴィオを座らせると、口元にフラスコをつけて水を含ませた。うまく飲めずにだらりと水が零れていったので、セラフィンは自ら口に含んでヴィオに飲ませてやる。喉がこくんと鳴り、ヴィオは熱で潤む縋るような眼差しをセラフィンにくれると、大きな涙をぼろぼろと零しながら目を瞑り、くたりと岩に身体を凭れかからせた。
初めてのヒートだ。だるさ熱さに加えて湧き上がる性衝動に叫び出したい心地だろう。握りしめた拳は指先まで真っ白で、しかしぐっと我慢している唇は噛みしめすぎて真っ赤にはれ上がっていた。
「ヴィオ、少しだけ待っていて。休める場所を探すから。苦しかったら声を上げていいからね」
セラフィンもそれだけ絞り出すと立ち上がって岸壁の麓を駆けまわろうとした。
「ううっ。うああ、はあ、はあっ。いや、いかないで、セラ、セラ!」
しかしこらえきれずに喘ぎ声をあげたヴィオをやはり一時も一人きりにはできなかった。セラフィンはヴィオを腕に抱え上げると良い巣を探す雄の獣になったかのように岸壁に向けて彷徨い歩いた。しかしどこもかしこも岩場と草むらばかり。岸壁の暗い隙間が適当であるとも思えなかった。
「……セラ、もう、駄目! 」
ぎゅっと爪が立つほどの強い力で二の腕を掴まれ、腕の中のヴィオを見やると、彼は金色に燃える強い光を両の眼に宿して、まっすぐにセラフィンを射抜いた。
「今すぐ、僕を、番にして。お願いっ!!」
立ち昇るフェロモンは屋外を物ともせぬ強さでセラフィンの全身を包み、牙をむき出しにしたセラフィンは首の赤いショール広げ宙に躍らせると、白い小さな花々が揺れる草むらの上に広げ、ヴィオをその上に横たえた。そしてそのまま自らも彼に伸し掛かり激しい口づけを交わし始めた。
再び先ほどの鳥の影が強い日差しに地面に写る。その姿を見上げることはできなかったが、まるで空から二人を励ましているかのように感じた。
半刻も過ぎぬうちに元の里の辺りまでは戻ってこれた。風がザワザワと木々を揺らす他は相変わらずの静けさの中、雲が増えてきて気温が少し下がった気がした。気持ちは急いたが、こんな時こそ冷静さを失ってはならないとセラフィンは自分に言い聞かせ続けた。
岸壁の麓を見回すと、先に到着していたアガが、自らが背負ってきたセラフィンの荷物と自分の荷物の中から飲み物やヴィオの持ってきた笹菓子など、必要そうなものを目立つ場所に置いてくれていた。
背もたれになりそうななだらかな白い岩の横にヴィオを座らせると、口元にフラスコをつけて水を含ませた。うまく飲めずにだらりと水が零れていったので、セラフィンは自ら口に含んでヴィオに飲ませてやる。喉がこくんと鳴り、ヴィオは熱で潤む縋るような眼差しをセラフィンにくれると、大きな涙をぼろぼろと零しながら目を瞑り、くたりと岩に身体を凭れかからせた。
初めてのヒートだ。だるさ熱さに加えて湧き上がる性衝動に叫び出したい心地だろう。握りしめた拳は指先まで真っ白で、しかしぐっと我慢している唇は噛みしめすぎて真っ赤にはれ上がっていた。
「ヴィオ、少しだけ待っていて。休める場所を探すから。苦しかったら声を上げていいからね」
セラフィンもそれだけ絞り出すと立ち上がって岸壁の麓を駆けまわろうとした。
「ううっ。うああ、はあ、はあっ。いや、いかないで、セラ、セラ!」
しかしこらえきれずに喘ぎ声をあげたヴィオをやはり一時も一人きりにはできなかった。セラフィンはヴィオを腕に抱え上げると良い巣を探す雄の獣になったかのように岸壁に向けて彷徨い歩いた。しかしどこもかしこも岩場と草むらばかり。岸壁の暗い隙間が適当であるとも思えなかった。
「……セラ、もう、駄目! 」
ぎゅっと爪が立つほどの強い力で二の腕を掴まれ、腕の中のヴィオを見やると、彼は金色に燃える強い光を両の眼に宿して、まっすぐにセラフィンを射抜いた。
「今すぐ、僕を、番にして。お願いっ!!」
立ち昇るフェロモンは屋外を物ともせぬ強さでセラフィンの全身を包み、牙をむき出しにしたセラフィンは首の赤いショール広げ宙に躍らせると、白い小さな花々が揺れる草むらの上に広げ、ヴィオをその上に横たえた。そしてそのまま自らも彼に伸し掛かり激しい口づけを交わし始めた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる