香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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溺愛編

帰省5

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 セラフィンには耳慣れぬ言葉だろうとすかさずヴィオが二人の間に割って入った。

「セラ、道普請っていうのはね、山の中の道を補整して無くさないようにすることなんだよ。人が手を加えないと、あっという間に草木が茂って道なんてなくなってしまうから。父さんは月に何度も一族の山まで通って、道筋を皆のために作ってくるんだ。これから入るってことは小屋に泊って、明日の朝山頂まで行くってこ?」
「そうだ」

 一族の山への道は、この里を離れたものがいつでも元の里の場所まで歩いていけるようにする作業だが、途方もない手間と時間がかかる作業でもある。
 父がその作業を一年のほとんど一人で行っていることをヴィオはよく知っている。もちろん元の里の位置の手前に作った誰でも泊れるになっている山小屋までの大きな道は、年に何度かやってくる里出身の若者たちも手伝ってくれている。しかしそこから里のあった位置すら超えた山頂までの道筋は、父が一人で根気よく通したようなものだ。

 母や一族の大半が眠る土地とそれに続く天空に近い山の尾根へ続く道を作ること。
 それは今の父にとって、この上なく大切な作業で、そんな風に言われてしまったら二の句を継げない。セラフィンとヴィオとがアガに切々と語りたい、二人のこれからに関わる大切な話を、こんな道端で掻い摘んで話すなど当然あってはならない。

 (父さん……僕らの話を聞きたくなさそう)

 用事があるのは本当なのだろうが、しかしアガが意図的に話を先送りした気配も伝わる。セラフィン眦に力を籠めると腹をくくってアガに頭を下げた。

「その作業に私も同行させてください」
「僕も行くよ! 父さん。連れて行って」
「……好きにしろ」

 すぐさま山に向かっていく勢いの父の前に、弟たちの後ろにそれまで静かに控えていたリアが回り込み、腕を広げるような格好で素早く立ちふさがった。

「父さん、まって、待ってよ。とりあえずヴィオたちに食事はとらせてあげて。父さんだってお昼ご飯まだでしょ? そんな手ぶらで山に入るはずないわよね? それに山に入るんだったら、ヴィオにだって自分の部屋で色々支度もあるだろうし。先生にも荷ほどきしていただきたいわ。父さん、先生にはうちに滞在していただいて構わないわよね?」

 迫力ある眼差しで父からギロッと睨みつけられてもリアはまるで意に介さず、自分の意見が正しいと貫く気満々だ。父は返事をしなかったが、しかしそれを肯定と受け取ったリアはにこっと笑うと腰に手を当て二人に向き直った。
「さあ、家に帰りましょう。しっかり昼食をとって、出発はそのあとでいいわね?」

(やっぱり僕よりずっと、姉さんの方が強くてカッコいいや。実は一番里長に向いているのは姉さんなのかもしれない。頼もしいや)

 リアは容姿はややアガに似ているが、性格は大胆で陽気な性格だったという母親のルピナ似だと叔母が言っていた。リアは父がヴィオばかり可愛がるとか言っていたが、娘のリアはやはりアガにとって特別な存在だとヴィオは思う。返事をせず不承不承の時もアガは大抵リアの意見は聞いて通してやっているように思うのだ。

 しかしこれは追い風と言えた。取り付く島もないように思えた父だが、姉のリアが二人の味方になってくれたことで、むしろ三人で話をする機会に恵まれたのではないかと、ヴィオはほっと胸を撫ぜ下ろした。










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