香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

家族2

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「それにしても大先生が一族の息子と番になるとは!! やはり儂が見込んだ男だ! みろ! この惚れ惚れする美貌に、腕の良さ。こんな花婿国を探してもそういないだろうが! 」
「なにそれ。お義父様の手柄みたいに言っちゃって」

 意外と毒舌明け透けなのが小気味いいチュラは見たこともないほど大きな木の一枚板を磨いたテーブルに、ご馳走の載った青い磁器の大皿料理を次々に置いていった。

「いいか!? 儂がこれまでコインを渡した相手は生涯たった3人だ! どの人も素晴らしい、儂の恩人で傑物じゃ。一人目との出会いはまだ儂がディゴぐらいの時に……」

「あーあ。爺ちゃんこの話はじまると長くなるから、セラフィン先生覚悟してね」

 太い眉を茶目っ気タップリに片方上げてディゴはセラフィンに向かって酒を注いで母の手料理で一番のおすすめの皿を二人の前にドカッとおいてくれた。
 そうして楽しい夜はだんだんと更けていったのだ。

 セラフィンも酒を飲み進めるヴィオに気を配りつつも、クインの相手に忙しかったようだ。徐々に見過ごされているうちにヴィオは顔を真っ赤にしてどんどん酔いが回ってきた。抑制剤の影響もあるので本当はあまり酒を飲むと回るようになるからよくないのに、この日の酒は陽気で楽しく、そして緊張のあまり強かにヴィオは酔ってしまったのだった。

 ふらふらしながらお手洗いを借りた帰りにサンダの屋敷の前の階段の天辺であたりで夕べの風に吹かれていた。

 (思い切って兄さんに会いに来て、よかった)

 静まり返った森の中、風に乗って大人たちの談笑する声が酔った耳に心地よい。そのままゆっくりと瞳を閉じて酔いでふわふわと心地よく揺れる世界を味わっていたかった。
 次第に体が冷えてきて涼しいというよりもはや寒いくらいの風に身を震わせて、目を開ける。
 するとそこに隣の家にある露天の浴室で湯を浴びて戻ってきたアダンと出くわしてしまったのだ。

 きまり悪そうにタオルを肩にかけたアダンはヴィオと目が合うと小さく頭を下げてくる。

「アダン、いたなら顔出せばいいのに」

 少しお兄さん風を吹かして、ヴィオは森の学校に来ている子どもたちに接するように砕けた口調になった。

「……俺のこと、嫌いだろ? あんた」

 拗ねたような口調に酒が入り上機嫌なヴィオはふふっと優しげな声で甘やかに笑った。

「そりゃ、ムカついたし頭にきたけどさ。でも、お前、僕の甥っ子なんだろ? 甥っ子ってのは可愛いものらしい、ルミナさんがいってた」

「っんなんだよそれ、また子ども扱いかよ」

 (うわ……、たまんねぇ。すげえいい匂い)

 階段の上から風下に漂う甘い香り。妖艶と感じるほどに気だるげな微笑。暑いのか胸元をくつろげたシャツの隙間から見え隠れする伸びやかな項。首の手前側にあるはずの昨日アダンがつけた傷が見たいが暗がりではよく見えない。

 ふらふらと引き寄せられるように階段を登っていくと吊るされた明かりの下にぼんやり浮かぶ首筋に執拗な噛み跡を見つけてゾッとする。アダンがつけた噛み跡などもはやどこにあるのかもわからぬほど、ベッタリとどこもかしこも噛みつかれた愛撫のあとが生なましく残っていたからだ。

「あ、あんた……、番に……」

 (なわけねぇか。番になってたらこんなにも……フェロモンの匂いがするはずない……)

 ついに階段を登りきって隣に立つと機嫌良さげに唄を口ずさむ横顔を盗み見て、その艷麗さにアダンはまた心を揺さぶられる。そして首筋にそっと手を触れようとした。

 しかしその瞬間。
 真っ白な手が後ろから伸ばされヴィオの細い腰に巻き付くと、たちどころに逞しい腕の中にさらっていったのだ。

「油断も隙もないね。ヴィオ。またお仕置きされたいの?」
「せらあ? あっんん」

 耳に唇がつくほど間近で密やかに囁かれた艶っぽい声に、ヴィオは愛された記憶がまだ鮮明な身体を撫ぜられたように腹の奥がうずいてまたぶわっと甘い香りを噴出された。
 たまらず涙目でうつむくアダンは股間を直接的に刺激されて、苦しげに息をつく。

 ヴィオ、と優しく呼びかけるがその目は全く笑っておらず、強い牽制の光を宿して大人げないほど冷たい眼差しでアダンを真っ直ぐに捉えている。

「ヴィオとゆっくり話がしたいのならは、また次の機会に。その頃にはヴィオは私の番だから、もう君を誘惑することもないよ」

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