191 / 222
溺愛編
家族2
しおりを挟む
「それにしても大先生が一族の息子と番になるとは!! やはり儂が見込んだ男だ! みろ! この惚れ惚れする美貌に、腕の良さ。こんな花婿国を探してもそういないだろうが! 」
「なにそれ。お義父様の手柄みたいに言っちゃって」
意外と毒舌明け透けなのが小気味いいチュラは見たこともないほど大きな木の一枚板を磨いたテーブルに、ご馳走の載った青い磁器の大皿料理を次々に置いていった。
「いいか!? 儂がこれまでコインを渡した相手は生涯たった3人だ! どの人も素晴らしい、儂の恩人で傑物じゃ。一人目との出会いはまだ儂がディゴぐらいの時に……」
「あーあ。爺ちゃんこの話はじまると長くなるから、セラフィン先生覚悟してね」
太い眉を茶目っ気タップリに片方上げてディゴはセラフィンに向かって酒を注いで母の手料理で一番のおすすめの皿を二人の前にドカッとおいてくれた。
そうして楽しい夜はだんだんと更けていったのだ。
セラフィンも酒を飲み進めるヴィオに気を配りつつも、クインの相手に忙しかったようだ。徐々に見過ごされているうちにヴィオは顔を真っ赤にしてどんどん酔いが回ってきた。抑制剤の影響もあるので本当はあまり酒を飲むと回るようになるからよくないのに、この日の酒は陽気で楽しく、そして緊張のあまり強かにヴィオは酔ってしまったのだった。
ふらふらしながらお手洗いを借りた帰りにサンダの屋敷の前の階段の天辺であたりで夕べの風に吹かれていた。
(思い切って兄さんに会いに来て、よかった)
静まり返った森の中、風に乗って大人たちの談笑する声が酔った耳に心地よい。そのままゆっくりと瞳を閉じて酔いでふわふわと心地よく揺れる世界を味わっていたかった。
次第に体が冷えてきて涼しいというよりもはや寒いくらいの風に身を震わせて、目を開ける。
するとそこに隣の家にある露天の浴室で湯を浴びて戻ってきたアダンと出くわしてしまったのだ。
きまり悪そうにタオルを肩にかけたアダンはヴィオと目が合うと小さく頭を下げてくる。
「アダン、いたなら顔出せばいいのに」
少しお兄さん風を吹かして、ヴィオは森の学校に来ている子どもたちに接するように砕けた口調になった。
「……俺のこと、嫌いだろ? あんた」
拗ねたような口調に酒が入り上機嫌なヴィオはふふっと優しげな声で甘やかに笑った。
「そりゃ、ムカついたし頭にきたけどさ。でも、お前、僕の甥っ子なんだろ? 甥っ子ってのは可愛いものらしい、ルミナさんがいってた」
「っんなんだよそれ、また子ども扱いかよ」
(うわ……、たまんねぇ。すげえいい匂い)
階段の上から風下に漂う甘い香り。妖艶と感じるほどに気だるげな微笑。暑いのか胸元をくつろげたシャツの隙間から見え隠れする伸びやかな項。首の手前側にあるはずの昨日アダンがつけた傷が見たいが暗がりではよく見えない。
ふらふらと引き寄せられるように階段を登っていくと吊るされた明かりの下にぼんやり浮かぶ首筋に執拗な噛み跡を見つけてゾッとする。アダンがつけた噛み跡などもはやどこにあるのかもわからぬほど、ベッタリとどこもかしこも噛みつかれた愛撫のあとが生なましく残っていたからだ。
「あ、あんた……、番に……」
(なわけねぇか。番になってたらこんなにも……フェロモンの匂いがするはずない……)
ついに階段を登りきって隣に立つと機嫌良さげに唄を口ずさむ横顔を盗み見て、その艷麗さにアダンはまた心を揺さぶられる。そして首筋にそっと手を触れようとした。
しかしその瞬間。
真っ白な手が後ろから伸ばされヴィオの細い腰に巻き付くと、たちどころに逞しい腕の中にさらっていったのだ。
「油断も隙もないね。ヴィオ。またお仕置きされたいの?」
「せらあ? あっんん」
耳に唇がつくほど間近で密やかに囁かれた艶っぽい声に、ヴィオは愛された記憶がまだ鮮明な身体を撫ぜられたように腹の奥がうずいてまたぶわっと甘い香りを噴出された。
たまらず涙目でうつむくアダンは股間を直接的に刺激されて、苦しげに息をつく。
ヴィオ、と優しく呼びかけるがその目は全く笑っておらず、強い牽制の光を宿して大人げないほど冷たい眼差しでアダンを真っ直ぐに捉えている。
「ヴィオとゆっくり話がしたいのならは、また次の機会に。その頃にはヴィオは私の番だから、もう君を誘惑することもないよ」
「なにそれ。お義父様の手柄みたいに言っちゃって」
意外と毒舌明け透けなのが小気味いいチュラは見たこともないほど大きな木の一枚板を磨いたテーブルに、ご馳走の載った青い磁器の大皿料理を次々に置いていった。
「いいか!? 儂がこれまでコインを渡した相手は生涯たった3人だ! どの人も素晴らしい、儂の恩人で傑物じゃ。一人目との出会いはまだ儂がディゴぐらいの時に……」
「あーあ。爺ちゃんこの話はじまると長くなるから、セラフィン先生覚悟してね」
太い眉を茶目っ気タップリに片方上げてディゴはセラフィンに向かって酒を注いで母の手料理で一番のおすすめの皿を二人の前にドカッとおいてくれた。
そうして楽しい夜はだんだんと更けていったのだ。
セラフィンも酒を飲み進めるヴィオに気を配りつつも、クインの相手に忙しかったようだ。徐々に見過ごされているうちにヴィオは顔を真っ赤にしてどんどん酔いが回ってきた。抑制剤の影響もあるので本当はあまり酒を飲むと回るようになるからよくないのに、この日の酒は陽気で楽しく、そして緊張のあまり強かにヴィオは酔ってしまったのだった。
ふらふらしながらお手洗いを借りた帰りにサンダの屋敷の前の階段の天辺であたりで夕べの風に吹かれていた。
(思い切って兄さんに会いに来て、よかった)
静まり返った森の中、風に乗って大人たちの談笑する声が酔った耳に心地よい。そのままゆっくりと瞳を閉じて酔いでふわふわと心地よく揺れる世界を味わっていたかった。
次第に体が冷えてきて涼しいというよりもはや寒いくらいの風に身を震わせて、目を開ける。
するとそこに隣の家にある露天の浴室で湯を浴びて戻ってきたアダンと出くわしてしまったのだ。
きまり悪そうにタオルを肩にかけたアダンはヴィオと目が合うと小さく頭を下げてくる。
「アダン、いたなら顔出せばいいのに」
少しお兄さん風を吹かして、ヴィオは森の学校に来ている子どもたちに接するように砕けた口調になった。
「……俺のこと、嫌いだろ? あんた」
拗ねたような口調に酒が入り上機嫌なヴィオはふふっと優しげな声で甘やかに笑った。
「そりゃ、ムカついたし頭にきたけどさ。でも、お前、僕の甥っ子なんだろ? 甥っ子ってのは可愛いものらしい、ルミナさんがいってた」
「っんなんだよそれ、また子ども扱いかよ」
(うわ……、たまんねぇ。すげえいい匂い)
階段の上から風下に漂う甘い香り。妖艶と感じるほどに気だるげな微笑。暑いのか胸元をくつろげたシャツの隙間から見え隠れする伸びやかな項。首の手前側にあるはずの昨日アダンがつけた傷が見たいが暗がりではよく見えない。
ふらふらと引き寄せられるように階段を登っていくと吊るされた明かりの下にぼんやり浮かぶ首筋に執拗な噛み跡を見つけてゾッとする。アダンがつけた噛み跡などもはやどこにあるのかもわからぬほど、ベッタリとどこもかしこも噛みつかれた愛撫のあとが生なましく残っていたからだ。
「あ、あんた……、番に……」
(なわけねぇか。番になってたらこんなにも……フェロモンの匂いがするはずない……)
ついに階段を登りきって隣に立つと機嫌良さげに唄を口ずさむ横顔を盗み見て、その艷麗さにアダンはまた心を揺さぶられる。そして首筋にそっと手を触れようとした。
しかしその瞬間。
真っ白な手が後ろから伸ばされヴィオの細い腰に巻き付くと、たちどころに逞しい腕の中にさらっていったのだ。
「油断も隙もないね。ヴィオ。またお仕置きされたいの?」
「せらあ? あっんん」
耳に唇がつくほど間近で密やかに囁かれた艶っぽい声に、ヴィオは愛された記憶がまだ鮮明な身体を撫ぜられたように腹の奥がうずいてまたぶわっと甘い香りを噴出された。
たまらず涙目でうつむくアダンは股間を直接的に刺激されて、苦しげに息をつく。
ヴィオ、と優しく呼びかけるがその目は全く笑っておらず、強い牽制の光を宿して大人げないほど冷たい眼差しでアダンを真っ直ぐに捉えている。
「ヴィオとゆっくり話がしたいのならは、また次の機会に。その頃にはヴィオは私の番だから、もう君を誘惑することもないよ」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~
人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。
残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。
そうした事故で、二人は番になり、結婚した。
しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。
須田は、自分のことが好きじゃない。
それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。
須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。
そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。
ついに、一線を超えてしまった。
帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。
※本編完結
※特殊設定あります
※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる