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溺愛編
サンダの故郷1
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☆サンダ兄さん登場です35歳ぐらいです☆
サンダにとって瞼の裏に浮かぶ故郷は、今はもうこの世のどこにも存在していない。
右を見ても左を見ても緑の滴る森の奥深く、周囲も険しい山々に囲まれた場所、その中のとりわけ緑豊かな山の中腹にサンダ達兄弟の生家はあった。
先祖代々里長であるドリ家に生まれ、長老であり里長である厳格な祖父と祖母。それを補佐し次期里長の座に就くことが幼いころから決まっていた父のアガ。若き日に父が一目で恋に落ち、番になることを懇願した恋女房の母のルピナ。そして一つ年下の聡明な弟ゲツトと引っ込み思案の妹が家族で、その他父の弟妹たちや多くの親族とその子ら、里に暮らす大勢の子どもたちと共に山河を駆け回って育ったのだ。
山の斜面に張り付くようにして建てられたところどころ腐食防止の薬剤が赤い柱が目に鮮やかな伝統的な家々は、回廊のような階段で繋がっている。里のものはみな親族と言えたので山全体が大きな一つの家のようなものだった。
山間にある不便な場所だが周囲の森は綺麗な湧き水に数多く自生する山菜、また生き物も多く住み恵み豊かで、里には主に年寄りや女性と子供が多く住んでいた。壮健な若者たちは里の外で出稼ぎをしていて、月に一度は必要なものを彼らやソート派の行商人がもたらしてくれた。外の学校で学んできた教師もいて子どもたちは中等年学校程度の勉強は里の中で学ぶこともできた。元々丈夫なフェル族であるが、伝統的な食生活は質素ながらも滋養があり、豊かな山で取れる薬草や山菜のおかげで医者いらず、この貴重な薬草は女性たちが山に分け入り集めてきて行商の際には貴重な収入源の一つにもなっていた。
ドリの里の長の一族。その長男として生まれたサンダは当然先祖代々続くこの土地の守護者として将来を嘱望されていた。しかし彼自身はどこを見渡しても知っている顔と山ばかりのこの土地に、長ずる頃には飽き飽きしていた。自分の中の半分はこの土地に長く住まう群れの長の血筋であるが、もう一つは自由の民である母方のソート派の血潮が熱く脈々と流れている。それがサンダにとって胸の内を明るく照らす気概となっていた。
風の神ソートアイに愛されたソート派は住む土地に縛られずに国中外に広がって生活し、人と人との繋がりを大切に生きることを信条としていた。中には母のルピナのように婚姻によってその土地に根付いたものもいたが逆に大陸中を行商して回る者たちも多くいた。母も若い頃は主に国に点在するフェル族の住まう里と中央などの都市とを繋いで行商をしていた家族について、各地を転々としていたらしい。
幼い頃母が寝物語にしてくれた旅の話に胸を躍らせ、いつしかサンダには自分にはここではないどこか別の居場所があるのではないかとまだ見ぬ土地の見知らぬ人々との出会いに慕情を駆り立てられていった。
大陸最強の戦士であるとの呼び声の高い叔父のラグや一族の多くの男が出稼ぎのため従軍していたこともあり、自分も里を飛び出して軍に入るか、それともなくば広い世界を旅してみたいと考えるようになったのも無理からざることだった。
サンダにとって瞼の裏に浮かぶ故郷は、今はもうこの世のどこにも存在していない。
右を見ても左を見ても緑の滴る森の奥深く、周囲も険しい山々に囲まれた場所、その中のとりわけ緑豊かな山の中腹にサンダ達兄弟の生家はあった。
先祖代々里長であるドリ家に生まれ、長老であり里長である厳格な祖父と祖母。それを補佐し次期里長の座に就くことが幼いころから決まっていた父のアガ。若き日に父が一目で恋に落ち、番になることを懇願した恋女房の母のルピナ。そして一つ年下の聡明な弟ゲツトと引っ込み思案の妹が家族で、その他父の弟妹たちや多くの親族とその子ら、里に暮らす大勢の子どもたちと共に山河を駆け回って育ったのだ。
山の斜面に張り付くようにして建てられたところどころ腐食防止の薬剤が赤い柱が目に鮮やかな伝統的な家々は、回廊のような階段で繋がっている。里のものはみな親族と言えたので山全体が大きな一つの家のようなものだった。
山間にある不便な場所だが周囲の森は綺麗な湧き水に数多く自生する山菜、また生き物も多く住み恵み豊かで、里には主に年寄りや女性と子供が多く住んでいた。壮健な若者たちは里の外で出稼ぎをしていて、月に一度は必要なものを彼らやソート派の行商人がもたらしてくれた。外の学校で学んできた教師もいて子どもたちは中等年学校程度の勉強は里の中で学ぶこともできた。元々丈夫なフェル族であるが、伝統的な食生活は質素ながらも滋養があり、豊かな山で取れる薬草や山菜のおかげで医者いらず、この貴重な薬草は女性たちが山に分け入り集めてきて行商の際には貴重な収入源の一つにもなっていた。
ドリの里の長の一族。その長男として生まれたサンダは当然先祖代々続くこの土地の守護者として将来を嘱望されていた。しかし彼自身はどこを見渡しても知っている顔と山ばかりのこの土地に、長ずる頃には飽き飽きしていた。自分の中の半分はこの土地に長く住まう群れの長の血筋であるが、もう一つは自由の民である母方のソート派の血潮が熱く脈々と流れている。それがサンダにとって胸の内を明るく照らす気概となっていた。
風の神ソートアイに愛されたソート派は住む土地に縛られずに国中外に広がって生活し、人と人との繋がりを大切に生きることを信条としていた。中には母のルピナのように婚姻によってその土地に根付いたものもいたが逆に大陸中を行商して回る者たちも多くいた。母も若い頃は主に国に点在するフェル族の住まう里と中央などの都市とを繋いで行商をしていた家族について、各地を転々としていたらしい。
幼い頃母が寝物語にしてくれた旅の話に胸を躍らせ、いつしかサンダには自分にはここではないどこか別の居場所があるのではないかとまだ見ぬ土地の見知らぬ人々との出会いに慕情を駆り立てられていった。
大陸最強の戦士であるとの呼び声の高い叔父のラグや一族の多くの男が出稼ぎのため従軍していたこともあり、自分も里を飛び出して軍に入るか、それともなくば広い世界を旅してみたいと考えるようになったのも無理からざることだった。
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