香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
178 / 222
溺愛編

愛してる4

しおりを挟む
ヴィオはセラフィンの姿を認めると、節々痛む身体をものともせずに飛び起きて寝台を飛び降りる。そしてややふらつきながらふわふわとうねる髪を振り乱し、思い切りよくセラフィンに抱き着いた。

「どうしたんだ? ヴィオ? 身体は大丈夫なのか? 」

 勢いよくヴィオに飛びつかれてもよろけることもない。長身で見た目よりは筋力のあるセラフィンは、皿を取り落すこともなく穏やかな声でそんな風に気遣ってくるのが少し憎らしい。

「ゆ、夢見て……。起きたら、いなかったから」

 擦り寄りながら素直に甘えてくるのがたまらなく可愛くて、普段よりもさらに甘い仕草でセラフィンは指先で頬に触れると微笑んだ。

「そうか。ついさっきまでずっと傍にいたんだけどな。一晩中、お前の寝顔を見ていたよ。たまに顔を顰めたり、微笑んだりと、眠っていても忙しそうで愛らしかった」

 そう言って片腕を回して抱き止めてくれながら、目を合わせてくる。しかし急に昨日の妖艶な面差しが脳裏に蘇ったヴィオは恥ずかしくなって自分からセラフィンの胸に顔をうずめて赤面したのを隠してしまった。

「約束の時間は夕刻だ。まだ日が高いからゆっくり身体を休めなさい。昨日は無理をさせてしまって、すまなかったね」

 益々羞恥が勝り、セラフィンの背なかに回した腕をぎゅうっとシャツの背中を掴んで動揺を反らす。昨晩のうちにセラフィンに清めてもらいつつも頭を振って乱れ切った髪はもつれて頭のてっぺんが雀の巣のようになっている。傾けた首にある無数の噛み痕を無防備に昼間の白々とした日の光に晒させ、セラフィンを密かに悦ばせた。

 そんな恋人の初心な様子に益々甘やかな気分がましたセラフィンは、ヴィオを促してもう一度寝台に戻ると、青く煌く湖を見つめながら、昨晩の名残で腰がふらつく彼を膝上に抱き上げ口元に果物を運んでやった。

 口いっぱいに甘酸っぱい黄色い果肉が弾け、ヴィオは昨晩ほとんどものを口にせずにいたから乾ききった喉を潤していく。ヴィオは夢中になって果実を頬張り、親鳥のように運んでくるセラフィンの指先まで食んでしまった。

「美味しいかい?」

 後ろから囁かれヴィオはこくこくと頷いて振り返り、上目遣いににっこりすると、柔らかな舌でセラフィンの長く白い指先をちろりと舐めた。セラフィンは果実に濡れた赤い唇を親指で拭ってやりながら無意識の媚態に誘惑されて引き寄せられるように顔を近づけるとゆっくりと唇を押し付け、舌先で唇を舐めとった。

「ああ、本当だ。美味しい。甘いな」

 口を離しても吐息が降りかかるほど間近で見た顔はいつ見ても綺麗で、ヴィオの心臓は性懲りもなくまた早鐘を打った。

(ずるいよ。セラ。昨日の夜、あんなことがあったのに。いつもよりずっと僕を甘やかそうとしてくるんだもん。恥ずかしくて顔が見られないよ)

 瑞々しい果物の甘さよりも、こっくりと甘いセラフィンの囁きにヴィオはまたも赤面して、裾の長い衣の裾を捌きながら薄い褐色の脚を伸ばして立ちあがろうとした。甘い雰囲気を払拭し、ヴィオが逃げようとしたのを察したセラフィンは素早く後ろから両手でヴィオの腰を抱き込んで肩口に顔をうずめて邪魔をする。

「もう逃がさないよ。ヴィオ。勝手にどこにもいかないで」

 セラフィンの黒髪が降りかかった部分すら熱をもって熱く感じ、そういえば昨晩ヴィオが許した通りセラフィンにどこもかしこも齧られ味見されそのあと頭から丸呑みにされるほど味わいつくされたのだとヴィオは思い、下肢がまたずくんと疼くのを止めらない。そして観念したようにセラフィンの胸に抱かれて幸せそうに瞳を閉じたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...