171 / 222
溺愛編
語らい2
しおりを挟む
それはいつも洗練された大人の男が情人にみせた、情けないほどの本音が混じった素直な台詞だった。その言葉にヴィオは動きを止めて腕の中で急に大人しくなる。前よりは素直にヴィオへの気持ちを口にすることをためらわなくなったセラフィンだが、こうして言葉にしてくれることがやはりヴィオは何よりも嬉しい。先ほどまでのしぼんだ気持ちが一気に膨らんでふわりと暖かく胸の中に愛情が満ちた。
そしてごそごそと巣穴から出てくる野兎のようにぴょこっと上掛けの中から髪の毛をくしゃくしゃにさせながら顔を出して、潤んだ瞳でセラフィンを見上げてくる。
「ふうん?」
そんな風に相槌を打って、紫色の神秘的な瞳を輝かせながら小首を傾げる。その表情は里にいた時、セラフィンへ中央の話をせがんていた時と同じ顔だ。飾らない素直で愛くるしい表情は子どもの頃と変わっていない。
拗ねてもセラフィンを詰っても、怒りを長続きさせないさっぱりとした性格で、こうしてすぐに気持ちを切り替えて甘えてくるところは本当に好ましい。
愛し合う心以外に共通点を持たぬ、年の離れた二人。
せっかく再び巡り合い、今日とて少しでも離れている間は互いのことしか考えられぬほど惹かれあっているのだから、今誰に邪魔されることなく過ごせるただひたすらに甘い夜を享受できる喜びだけを分かち合えばいい。
(ああそうだな……。俺がソフィーのどこに憧れていたのかといえば、飾らない正直な性格だった。それはヴィオも同じだ。無垢で心根まで割れた竹のようにまっすぐだ)
真っすぐな人と沿おうとすると、ややひねくれた自分も背筋をまっすぐにせざるを得なくなって、なんとなく前を向かざるを得ない。
結果とても呼吸がしやすいと思うのだ。
(ヴィオ、お前の傍にいると、俺は生きやすい)
腕の中のヴィオの額に口づけると、むずがゆそうに甘く小さな笑い声をあげるのが可愛らしい。
「いいかい。あんなガキにでもお前を齧られたら俺は平静でいられなくなる。女神教会の神父様のように、いつでも心根を穏やかで健やかにはいられない。相手の男に手をかけてしまうかもしれないよ」
セラフィンは物騒なことを口にしながら拗ねた口調になったが、すると今度はヴィオの方は機嫌よく微笑んでセラフィンのシャツからはだけた温かい胸に顔をうずめた。
「じゃあ、先生も齧っていいよ? 沢山。どこでも、齧っていいよ」
そしてごそごそと巣穴から出てくる野兎のようにぴょこっと上掛けの中から髪の毛をくしゃくしゃにさせながら顔を出して、潤んだ瞳でセラフィンを見上げてくる。
「ふうん?」
そんな風に相槌を打って、紫色の神秘的な瞳を輝かせながら小首を傾げる。その表情は里にいた時、セラフィンへ中央の話をせがんていた時と同じ顔だ。飾らない素直で愛くるしい表情は子どもの頃と変わっていない。
拗ねてもセラフィンを詰っても、怒りを長続きさせないさっぱりとした性格で、こうしてすぐに気持ちを切り替えて甘えてくるところは本当に好ましい。
愛し合う心以外に共通点を持たぬ、年の離れた二人。
せっかく再び巡り合い、今日とて少しでも離れている間は互いのことしか考えられぬほど惹かれあっているのだから、今誰に邪魔されることなく過ごせるただひたすらに甘い夜を享受できる喜びだけを分かち合えばいい。
(ああそうだな……。俺がソフィーのどこに憧れていたのかといえば、飾らない正直な性格だった。それはヴィオも同じだ。無垢で心根まで割れた竹のようにまっすぐだ)
真っすぐな人と沿おうとすると、ややひねくれた自分も背筋をまっすぐにせざるを得なくなって、なんとなく前を向かざるを得ない。
結果とても呼吸がしやすいと思うのだ。
(ヴィオ、お前の傍にいると、俺は生きやすい)
腕の中のヴィオの額に口づけると、むずがゆそうに甘く小さな笑い声をあげるのが可愛らしい。
「いいかい。あんなガキにでもお前を齧られたら俺は平静でいられなくなる。女神教会の神父様のように、いつでも心根を穏やかで健やかにはいられない。相手の男に手をかけてしまうかもしれないよ」
セラフィンは物騒なことを口にしながら拗ねた口調になったが、すると今度はヴィオの方は機嫌よく微笑んでセラフィンのシャツからはだけた温かい胸に顔をうずめた。
「じゃあ、先生も齧っていいよ? 沢山。どこでも、齧っていいよ」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~
人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。
残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。
そうした事故で、二人は番になり、結婚した。
しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。
須田は、自分のことが好きじゃない。
それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。
須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。
そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。
ついに、一線を超えてしまった。
帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。
※本編完結
※特殊設定あります
※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる