香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

語らい2

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それはいつも洗練された大人の男が情人にみせた、情けないほどの本音が混じった素直な台詞だった。その言葉にヴィオは動きを止めて腕の中で急に大人しくなる。前よりは素直にヴィオへの気持ちを口にすることをためらわなくなったセラフィンだが、こうして言葉にしてくれることがやはりヴィオは何よりも嬉しい。先ほどまでのしぼんだ気持ちが一気に膨らんでふわりと暖かく胸の中に愛情が満ちた。

 そしてごそごそと巣穴から出てくる野兎のようにぴょこっと上掛けの中から髪の毛をくしゃくしゃにさせながら顔を出して、潤んだ瞳でセラフィンを見上げてくる。

「ふうん?」

 そんな風に相槌を打って、紫色の神秘的な瞳を輝かせながら小首を傾げる。その表情は里にいた時、セラフィンへ中央の話をせがんていた時と同じ顔だ。飾らない素直で愛くるしい表情は子どもの頃と変わっていない。
 拗ねてもセラフィンを詰っても、怒りを長続きさせないさっぱりとした性格で、こうしてすぐに気持ちを切り替えて甘えてくるところは本当に好ましい。

 愛し合う心以外に共通点を持たぬ、年の離れた二人。

 せっかく再び巡り合い、今日とて少しでも離れている間は互いのことしか考えられぬほど惹かれあっているのだから、今誰に邪魔されることなく過ごせるただひたすらに甘い夜を享受できる喜びだけを分かち合えばいい。

(ああそうだな……。俺がソフィーのどこに憧れていたのかといえば、飾らない正直な性格だった。それはヴィオも同じだ。無垢で心根まで割れた竹のようにまっすぐだ)

 真っすぐな人と沿おうとすると、ややひねくれた自分も背筋をまっすぐにせざるを得なくなって、なんとなく前を向かざるを得ない。
 結果とても呼吸がしやすいと思うのだ。

(ヴィオ、お前の傍にいると、俺は生きやすい)

 腕の中のヴィオの額に口づけると、むずがゆそうに甘く小さな笑い声をあげるのが可愛らしい。

「いいかい。あんなガキにでもお前を齧られたら俺は平静でいられなくなる。女神教会の神父様のように、いつでも心根を穏やかで健やかにはいられない。相手の男に手をかけてしまうかもしれないよ」

 セラフィンは物騒なことを口にしながら拗ねた口調になったが、すると今度はヴィオの方は機嫌よく微笑んでセラフィンのシャツからはだけた温かい胸に顔をうずめた。

「じゃあ、先生も齧っていいよ? 沢山。どこでも、齧っていいよ」











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