157 / 222
溺愛編
香り1
しおりを挟む
寝台の少年は青ざめた顔のまま、目を閉じて眠っているかのようだ。あどけないその顔は女傑で知られたダニアとは似ても似つかなくみえた。彼自身はきっと朗らかで柔和な性格なのだろう。傍らの男が宝物でも見つめる様な愛情溢れる眼差しで彼に笑いかけていた。途端に罪悪感が増してきてアダンは眉根を寄せて項垂れた。
(このままこいつが目を醒まさなかったら、俺はどうしたらいい? どうやって償えばいい?)
川の水は夏の終わりにはもうかなり冷たい。体温の高いアダンはもはや身体も乾いて湯気でも立ちそうなほどだが、ぐったりしている彼のことが気になった。罪滅ぼしをするように上掛けの下の身体やしっとりと寝台を濡らす髪をふいてあげようと思いたち、再びタオルを取って戻る。
艶々と窓辺の日差しに照る黒髪。その髪から垂れる垂れる雫に恐る恐る濡れた頬に押し当てた。
服や布を扱うディゴのこだわりであつめられたタオルは見る見るうちに水滴を拭い去ったので、今度は上掛けを胸の下あたりまでずらして、首や肩口など順に拭った。肌の色といい、この容姿といい、きっと一族に連なる可能性がある相手であることは明白だった。
彼にしては優しい手付きで白いタオルを持ち上げるとふわりと急にその香りがしてきたのだ。
(なんだこれ……。甘い……)
持ち上げたタオルの香りなのか。思わず柔らかなそれに顔を押し当てると、僅かに香るが何かが違う。もっと強い香りの源を確かめたくて、アダンは誰も見ていないことをいいことに動物的な仕草ですんすんと周りを嗅ぎまわる。
特に普段から香りに興味があるわけではない。ディゴは店や服に炊きしめる香をウリ派から分けてもらって調香したりとかなり凝っているから、この部屋もそんなスパイシーな香りの残り香があっても不思議ではない。
(でもこれは違う。もっとなんというか……)
爽やかにゆかしく甘いのに、どこか官能的でいくらでも鼻を突っ込んで嗅ぎ続けたくなる香り。
まさかと思って少年を見下ろすと、裸の胸が穏やかに波打って呼吸をしているのがよく分かった。そして先ほど拭った彼の首筋に釘付けになる。
「もしかして……、オメガなのか?」
意識した瞬間、自動的にスイッチを押されたかのようにずくんっと下腹部が熱くなる。そんな自分の変化に驚いて見下ろすと、朝起き抜けには見慣れた光景が広がっていてアダンは自分が信じられなくなりどかっと寝台に腰かけた。
それならば合点がいく。あの美丈夫が蕩けるような眼差しでこの少年を見つめていたことも、彼が嬉しそうにその隣に寄り添っていたのも。
「番同士ってことなのか?」
(このままこいつが目を醒まさなかったら、俺はどうしたらいい? どうやって償えばいい?)
川の水は夏の終わりにはもうかなり冷たい。体温の高いアダンはもはや身体も乾いて湯気でも立ちそうなほどだが、ぐったりしている彼のことが気になった。罪滅ぼしをするように上掛けの下の身体やしっとりと寝台を濡らす髪をふいてあげようと思いたち、再びタオルを取って戻る。
艶々と窓辺の日差しに照る黒髪。その髪から垂れる垂れる雫に恐る恐る濡れた頬に押し当てた。
服や布を扱うディゴのこだわりであつめられたタオルは見る見るうちに水滴を拭い去ったので、今度は上掛けを胸の下あたりまでずらして、首や肩口など順に拭った。肌の色といい、この容姿といい、きっと一族に連なる可能性がある相手であることは明白だった。
彼にしては優しい手付きで白いタオルを持ち上げるとふわりと急にその香りがしてきたのだ。
(なんだこれ……。甘い……)
持ち上げたタオルの香りなのか。思わず柔らかなそれに顔を押し当てると、僅かに香るが何かが違う。もっと強い香りの源を確かめたくて、アダンは誰も見ていないことをいいことに動物的な仕草ですんすんと周りを嗅ぎまわる。
特に普段から香りに興味があるわけではない。ディゴは店や服に炊きしめる香をウリ派から分けてもらって調香したりとかなり凝っているから、この部屋もそんなスパイシーな香りの残り香があっても不思議ではない。
(でもこれは違う。もっとなんというか……)
爽やかにゆかしく甘いのに、どこか官能的でいくらでも鼻を突っ込んで嗅ぎ続けたくなる香り。
まさかと思って少年を見下ろすと、裸の胸が穏やかに波打って呼吸をしているのがよく分かった。そして先ほど拭った彼の首筋に釘付けになる。
「もしかして……、オメガなのか?」
意識した瞬間、自動的にスイッチを押されたかのようにずくんっと下腹部が熱くなる。そんな自分の変化に驚いて見下ろすと、朝起き抜けには見慣れた光景が広がっていてアダンは自分が信じられなくなりどかっと寝台に腰かけた。
それならば合点がいく。あの美丈夫が蕩けるような眼差しでこの少年を見つめていたことも、彼が嬉しそうにその隣に寄り添っていたのも。
「番同士ってことなのか?」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
もう一度、誰かを愛せたら
ミヒロ
BL
樹(Ω)涼太(Ω)豊(α)は友人であり、幼馴染みだった。樹は中学時代、豊に恋している事を涼太に打ち明け、応援されていた。
が、高校の受験前、涼太の自宅を訪れた樹は2人の性行為に鉢合わせしてしまう。信頼していた友人の裏切り、失恋による傷はなかなか癒えてはくれず...。
そして中学を卒業した3人はまた新たな出会いや恋をする。
叶わなかった初恋よりもずっと情熱的に、そして甘く切ない恋をする。
※表紙イラスト→ as-AIart- 様 (素敵なイラストありがとうございます!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる