香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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溺愛編

香り1

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寝台の少年は青ざめた顔のまま、目を閉じて眠っているかのようだ。あどけないその顔は女傑で知られたダニアとは似ても似つかなくみえた。彼自身はきっと朗らかで柔和な性格なのだろう。傍らの男が宝物でも見つめる様な愛情溢れる眼差しで彼に笑いかけていた。途端に罪悪感が増してきてアダンは眉根を寄せて項垂れた。

(このままこいつが目を醒まさなかったら、俺はどうしたらいい? どうやって償えばいい?)

川の水は夏の終わりにはもうかなり冷たい。体温の高いアダンはもはや身体も乾いて湯気でも立ちそうなほどだが、ぐったりしている彼のことが気になった。罪滅ぼしをするように上掛けの下の身体やしっとりと寝台を濡らす髪をふいてあげようと思いたち、再びタオルを取って戻る。
艶々と窓辺の日差しに照る黒髪。その髪から垂れる垂れる雫に恐る恐る濡れた頬に押し当てた。
服や布を扱うディゴのこだわりであつめられたタオルは見る見るうちに水滴を拭い去ったので、今度は上掛けを胸の下あたりまでずらして、首や肩口など順に拭った。肌の色といい、この容姿といい、きっと一族に連なる可能性がある相手であることは明白だった。

彼にしては優しい手付きで白いタオルを持ち上げるとふわりと急にその香りがしてきたのだ。

(なんだこれ……。甘い……)

持ち上げたタオルの香りなのか。思わず柔らかなそれに顔を押し当てると、僅かに香るが何かが違う。もっと強い香りの源を確かめたくて、アダンは誰も見ていないことをいいことに動物的な仕草ですんすんと周りを嗅ぎまわる。

特に普段から香りに興味があるわけではない。ディゴは店や服に炊きしめる香をウリ派から分けてもらって調香したりとかなり凝っているから、この部屋もそんなスパイシーな香りの残り香があっても不思議ではない。

(でもこれは違う。もっとなんというか……)

爽やかにゆかしく甘いのに、どこか官能的でいくらでも鼻を突っ込んで嗅ぎ続けたくなる香り。

まさかと思って少年を見下ろすと、裸の胸が穏やかに波打って呼吸をしているのがよく分かった。そして先ほど拭った彼の首筋に釘付けになる。

「もしかして……、オメガなのか?」

意識した瞬間、自動的にスイッチを押されたかのようにずくんっと下腹部が熱くなる。そんな自分の変化に驚いて見下ろすと、朝起き抜けには見慣れた光景が広がっていてアダンは自分が信じられなくなりどかっと寝台に腰かけた。

それならば合点がいく。あの美丈夫が蕩けるような眼差しでこの少年を見つめていたことも、彼が嬉しそうにその隣に寄り添っていたのも。

「番同士ってことなのか?」




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