香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

装具2

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また幼子のように素直に頷くヴィオから一度手を離すとセラフィンは胡坐をかいて肌触りが滑らかな寝具の上にどかっと男っぽく座りなおして再びヴィオを手招きする。小首をかしげながらゆっくりと背を向けたヴィオの胸を抱き寄せ、自分にもたれかからせるようにして脚の間に座らせる。
ヴィオははだけたシャツを合わせて今さらながら恥ずかし気に前を隠しながら座ってセラフィンの胸を心地よい背もたれにして寛いだように「ふふっ」と笑う。

セラフィンはヴィオの左腕をするりと肘から先を持ち上げ、掌を幼い子の手にそうするように愛し気にゆっくりと広げさせたり指を伸ばしたりして弄んだあと、ヴィオが機嫌よく声を立てて笑うのを聞きながらズボンのポケットから金色の環っかを取り出す。そして自然な仕草でするりとヴィオの手首に鮮やかにはめて見せた。

「えっ……。これは?」

繊細だが柔ではない造りの優しい光を放つ金色はヴィオの淡い褐色よりの肌によく似合っていた。
透かし模様の間に青と紫が混じったような不思議な色合いの宝石が無数はめ込まれたバングル状のそれは、ヴィオが寝込んでいる間にセラフィンがバルクの友人である宝飾職人に頼み込んで大急ぎで作ってもらった世界に一つだけの品だった。

「きらきらしてる! すごく綺麗! 青紫の石、不思議な色」

男性であるヴィオが腕輪を喜ぶかどうかはセラフィンとしても迷うところであったがそんなことは杞憂であったようだ。見立ての良さに自画自賛しながら、うっとりと腕輪を眺めるヴィオをセラフィンもついつい頬を緩めてみてしまう。ヴィオは腕の宝石を光の方に透かしたり手首を捻ってぐるりと一周見てみたりと、ひとしきり嬉しそうに眺めていた。

もちろんこの宝石を、ヴィオと自分の瞳の色が混じったような石、ということで選んだ。金の環はヴィオの瞳の中のそれには叶わぬが、バルクが若い頃から懇意にしていた職人の腕の良さか、金具はないつけやすい構造と、見た目は光をよく反射する捻りや彫が付けられている繊細なものにみえるが、一本の地金から作られていて頑強な造りなのがまたヴィオによく似合っていた。

「中央ではアルファが意中のオメガに求愛する時、自分の物と周りに誇示するような首輪を贈ることが主流だったらしい。でも俺はテグニ国での暮らしが長かったからね。向こうの国では腕輪を贈ることが多いんだ。それにお前は首輪を嫌っているし」
「求愛……」

その言葉を自分で口にして照れているのかヴィオはつむじが見える程下を向いてまたはだけた夜具の裾から足をあられもなく晒しながらもぞもぞと動いた。

「全部叶えたら、その時は。俺と番になってくれる?」

背中越しの告白はヴィオをありのままの気持ちを引き出すのに一役買ったようだ。

「なるよ。番になる。その時はきっと、逃げたりしないよ。あ、赤ちゃんは……。まだ僕の身体がどんなふうになるのかわからなくて怖いけど……。でも先生がずっと傍にいてくれるなら、頑張れると思うから」
「約束だ」

セラフィンは再びヴィオの手の甲を上から握りこんで持ち上げると、肩越しに指先と手首に口づけた。











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