香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

装具1

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 ヴィオは深呼吸をするように、すうっと大きく息を吸うとまずはセラフィンに向って髪が跳ねる程勢いよく一礼した。

「先生、僕が中央に急にでて来てから沢山たくさんお世話になりました。僕は世間知らずで、中央に来さえすれば自分でなんとかできるって思い込んでた。先生はそんなの無理って知ってたけど頭ごなしに否定なんてしなくて見守ってくれた。ありがとうございます」

 セラフィンは頷きながらよくいったね、というようにヴィオの背中をさすってやる。すると頬に赤みがさしてヴィオはにっこりと涙の残る頬をぷっくりさせてはにかんで笑った。

 (ヴィオもヴィオなりに自分の行いが無謀だったってことは分かってはいたんだな)

「あの日、郷に帰ったら父さんを説得してもう一度中央で勉強できるように援助をお願いする予定だった。自分で働けるようになったらお返しするからって。……必ずまたここに、先生のところに戻ってこようと思ってた。でもね……。僕自分のことばかり考えてて、勝手に中央に留まって……。父さんの気持ちもきいたことなかったし、里で僕を育ててくれた人たちとか、学校の先生とか……。みんなに心配をかけて蔑ろにしたとおう。みんなに謝りたい。謝って僕の気持ちもちゃんと伝えたい。……レストランの皆さんにもちゃんと謝りたいんだ」
「わかったよ。ヴィオ、郷に帰りたい?」

 穏やかだが試すようなニュアンスになるのはセラフィンが物わかりの良い大人の振りをしていながら内心隠せていない本心が漏れてしまっているから。今度こそ絶対にヴィオを里に一人で返すつもりないし、自分の傍から片時も手放す気はさらさらないのだ。

「帰りたい。でもここに戻ってきたい。やっぱり僕の居場所は先生の傍だって今、実感している」
「俺もだ」

 嬉しい、と一言呟いて、少しもじもじしながら再びセラフィンにもたれかかってきたヴィオを正面から抱き留め、セラフィンは満足げに頷いて同意した。

「ドリの里に帰るならば俺も一緒に行こう。アガさんには一度ご挨拶をしなければいけないとずっと考えていた。ヴィオのことを俺に任せてほしいとお願いしに行くんだ」
「先生、ありがとう。でもね……」

 でも、などと言われるとまた穏やかでないが、そこはこらえて続きを大人しく聞きつつ、ヴィオの手を掴み上げるように握ってしまうのもまたアルファ特有の独占欲の表れか。ヴィオは大人しく手を繋がれながらまたゆっくりと気持ちをセラフィンに一生懸命話してくれた。

「里に帰る前に僕。やりたいことがあるんだ。僕には年の離れた兄さんが二人いるんだけど…… 雪崩があった後、父さんと意見が合わなくて。二人ともこっちに来てしまったらしくて……。僕が赤ちゃんの時に出ていったきりだから、あったこともないんだ。本当だったら二人のうちのどちらかが里を継ぐのが筋だって、里の人たちが話していたのを何度も聞いたことがある。だから二人に里を本当に継ぐ気がないか聞いてみたい。それに父さんと仲直りしてほしいんだ。リア姉さんもいってた。兄弟がいるのに話もしたことがないなんておかしいって」

(アガが言っていた長男と次男。里を丸ごと元の場所に再興することにこだわった父親と対立して、多くの若者たちが里を出ていく対立のきっかけになったらしいな)

「多分二人とも中央に住んでいるってこと以外、知らなくて。叔母さんとはこっそり連絡を取っているから中央でお母さんの親戚の仕事を手伝ってお店をしているって聞いたことがある。一度話をしてみたい」

「わかった。ヴィオがやりたかったことは、中央でお兄さんたちを探すこと、レストランのみんなに謝りに行くこと。里でアガさんと話をすること。それから俺の傍をはなれたくないということ。これでいいか?」
「いいよ」
「それが全てできたら、ヴィオは心配事がなくなるね?」
「なくなるよ」
「じゃあ、一つずつ。俺とやろう」
「うん」

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