香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
145 / 222
溺愛編

心の内1

しおりを挟む
ヴィオに拒絶されたセラフィンはゆっくりと指を抜き去ると先ほどまでの情熱的な姿が嘘のように、身を起こして静かな瞳でヴィオをただ見つめてきた。

ヴィオはパニックになり思わず拒否してしまったことで、セラフィンから失望をされたと思い込み、蕩け始めた心は冷たく凍りついた。そして今度はただただ恐ろしくなった。太い眉を切なげに寄せてぎゅっと目を瞑るとヴィオはぶつかるようにセラフィンの胸に縋って、泣きじゃくりながら首をふるふるとふり、謝り始めた。

「だめ……、じゃない。駄目じゃない! つ、番になりたいのは本当だよ。ちょっと怖かっただけ……。先生、お、お願い。嫌いにならないで」
「ヴィオ」

嗜めるような声色で呼ばれ、セラフィンが痛めた腕すら使いヴィオの背に回していつものように優しく抱きしめ返してくれることにほっとする。もはや甘いフェロモンの香りも霧散して、窓から吹き込む風も天蓋を揺らし二人の熱い気持ちを冷ましていくようだ。

「ちゃんと話をして。俺はお前が本当はどうしたいのか知りたいんだ」

その言葉になおさらぽろぽろと涙が零れ落ちる。セラフィンの熱い胸が濡れるほどの顔を擦りつけもっともっと強く抱き着く。

「番になって、ずっと先生の傍にいたい……。だって番になれたら、ずっと先生のお傍にいられるでしょう? 誰にだって、引き離されないでしょう?」
「そうだな」
「で、でもっ、僕すぐにお母さんになんてきっとなれない。僕、お母さんのこと何にも知らないし……。ううっ。父さんにも先生のことちゃんとお話できてないよ。か、勝手に番になったら……。これからどうなっていくのかわからなくて怖い。兄さんたちと相談したいけど、どこにいるのかもわからないよ。グスッ 僕が先生の傍に本当にいてもいいのか分からない。これからドリの里がどうなっちゃうのかもわからなくて……、カイ兄さん……、あの時みんな怪我してた……、きっとすごく怒られたはずだよ。兄さん、家族と離れて軍でずっと、一人で頑張ってきたのに……。ぼ、僕がカイ兄さんと番にならなかったから、みんなが困るんだ。でも、でも僕っ……。どうしても先生と……。ゴホッ」

興奮して泣きじゃくり、支離滅裂にまくし立て、そして咳き込んでえずいてまた泣いて。ヴィオは中央に出てきてから心にたまりこんでいた自分の思いを一つ一つすべて吐き出していく。矛盾と混乱があるのもむしろ、それはまごうことなき真実だろう。

「う、嘘なの。勉強沢山したいから中央にきたなんて嘘だよ。先生のお傍にいられるお仕事につければいいって思っただけ。ただ先生の傍にいたかっただけなんだ……。僕は噓つき……。自分勝手で、みんな僕のせいで……。先生も怪我した。ごめんなさい」

(やっと、本心を話した……)

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。 残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。 そうした事故で、二人は番になり、結婚した。 しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。 須田は、自分のことが好きじゃない。 それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。 須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。 そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。 ついに、一線を超えてしまった。 帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。 ※本編完結 ※特殊設定あります ※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

処理中です...