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溺愛編
胸の鼓動
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セラフィンに自分からも触れたくてドキドキと胸の音までもうるさいのが自分ではどうしようもなくなって。ヴィオは懸命に頭を持ち上げつつ右腕を伸ばして僅かにセラフィンの黒髪におずおずと触れる。しかし上顎の歯列近くをなぞられ、くすぐったさとぞくぞくとする快感に見舞われると頭も腕もぐずぐずに力を失い、すぐにぱたりと寝台に落ちていった。
セラフィンが名残惜し気にゆっくりと唇を離すと、吐息が触れ合うほどの距離でヴィオは切なげな掠れ声で「もっと」と吐息交じりに呟いた。セラフィンは目元で情人に向けて微笑むと、もう一度ねっとりと彼の柔らかく厚みのある唇を味わい、唇をほとんど触れさせたまま蒼い目を見開き呟いた。
「ヴィオ……。俺と番になりたい?」
「なりたい。僕、先生と番になりたいよ。せんせい、大好き」
優しく低く、甘いセラフィンの声に誘われるようにヴィオは即答する。ヴィオの答えにはまるで緊迫感がなく、鼻歌でも歌っているかのような明るく軽快だ。ひたすら優しく丁寧な触れ合いでヴィオを大切にしてくれるセラフィンに甘えきり、信頼できる大人に全てを委ねきった幼子のような無邪気さで愛らしくにこにこしているのだ。
「ヴィオ。愛してる」
すると言いしなセラフィンがヴィオに覆いかぶさっていた上身を起こし、ヴィオが是非使ってとせがんだため腕を吊るのに借りていた、彼の母の形見である赤いショールを首元からゆっくりと外す。乱れた黒髪を後ろにぱさりとふってからかきあげて流す。その仕草の綺麗さにヴィオは魅せられたように唇を僅かに開いたまま陶然とした顔でセラフィンを見つめてしまう。
少し冷たいほど整った顔で艶然と謎めいた笑みを浮かべたセラフィンの一挙手一投足を、ヴィオは澄んだ瞳に余すところなく写し、どこか不思議そうな顔で見守っている。しかし漂うセラフィンの香りの強さに、ぞわぞわと二の腕が粟立つのを感じた。今ヴィオはごく軽い抑制剤しか服用していないので、セラフィンのこの世のものと思えぬほどの艶やかな美しさと、ヴィオを絡めとる様に広がってくる端正な香りの艶めかしさにそのままあてられてしまいそうだ。
(先生、すごく綺麗。でも急に黙って……。なんだか少し怖いよ)
セラフィンが吊るしていた腕はひび程度の骨折した右腕で、どのタイミングではいったのかは分からないが、内出血と激しい痛みがあったためそこにひびがあるのだろうとの見立てだ。ここ以外にも投げ飛ばされた打撲痕も多く、ヴィオが心配するので大人しくしていたが安静にしていれば3週間もあれば治るし、もうすでに一週間たっている。自分自身の見立てでも経過は良好とわかっている。
二の腕から肘まで無事だし、痛み止めを飲んでいるから固定している患部に直接刺激を与えなければどうといったことはない。
膝の上に頭を載せていたヴィオの柳腰の下に利き手をいれると、ひょいっと片腕だけでヴィオの上半身を小脇に抱え上げてずるずると広い寝台の中央まで引きずっていく。
ヴィオは血相を変えたが、暴れて万が一セラフィンの腕にぶつかり傷つけてしまったらと思うと身動きもとれない。
「先生! 腕、怪我!」
セラフィンは応えずヴィオの夜具の裾の中に遠慮なく手を入れると、ヴィオの滑らかな太ももを際どい部分から膝まで撫ぜ上げたのち大きな手で膝裏を掴み上げて足を開かせた。そして膝で割り切る様にして自らの身体を割り込ませる。羽織っていた淡い青紫のシャツのボタンを二つ三つほどあけると一気に両腕を交差させてそれを脱ぎ去った。
「せんせい?」
見下ろしてくるセラフィンの蒼い目は情欲に濡れ、やや細められた眼差しは彼が日ごろあまり見せないような雄っぽい色気に溢れている。口元は余裕ありげな微笑みさえ浮かべ、見せつけるように露わになった仄かに発光するかのように白い身体は彫像のように美しい。背後の明かりに照らされた姿は医師とは思えぬほど実用的で鍛え抜かれた筋肉がついた身体でヴィオが思っていたよりもずっと厚みがあって逞しかった。
セラフィンが名残惜し気にゆっくりと唇を離すと、吐息が触れ合うほどの距離でヴィオは切なげな掠れ声で「もっと」と吐息交じりに呟いた。セラフィンは目元で情人に向けて微笑むと、もう一度ねっとりと彼の柔らかく厚みのある唇を味わい、唇をほとんど触れさせたまま蒼い目を見開き呟いた。
「ヴィオ……。俺と番になりたい?」
「なりたい。僕、先生と番になりたいよ。せんせい、大好き」
優しく低く、甘いセラフィンの声に誘われるようにヴィオは即答する。ヴィオの答えにはまるで緊迫感がなく、鼻歌でも歌っているかのような明るく軽快だ。ひたすら優しく丁寧な触れ合いでヴィオを大切にしてくれるセラフィンに甘えきり、信頼できる大人に全てを委ねきった幼子のような無邪気さで愛らしくにこにこしているのだ。
「ヴィオ。愛してる」
すると言いしなセラフィンがヴィオに覆いかぶさっていた上身を起こし、ヴィオが是非使ってとせがんだため腕を吊るのに借りていた、彼の母の形見である赤いショールを首元からゆっくりと外す。乱れた黒髪を後ろにぱさりとふってからかきあげて流す。その仕草の綺麗さにヴィオは魅せられたように唇を僅かに開いたまま陶然とした顔でセラフィンを見つめてしまう。
少し冷たいほど整った顔で艶然と謎めいた笑みを浮かべたセラフィンの一挙手一投足を、ヴィオは澄んだ瞳に余すところなく写し、どこか不思議そうな顔で見守っている。しかし漂うセラフィンの香りの強さに、ぞわぞわと二の腕が粟立つのを感じた。今ヴィオはごく軽い抑制剤しか服用していないので、セラフィンのこの世のものと思えぬほどの艶やかな美しさと、ヴィオを絡めとる様に広がってくる端正な香りの艶めかしさにそのままあてられてしまいそうだ。
(先生、すごく綺麗。でも急に黙って……。なんだか少し怖いよ)
セラフィンが吊るしていた腕はひび程度の骨折した右腕で、どのタイミングではいったのかは分からないが、内出血と激しい痛みがあったためそこにひびがあるのだろうとの見立てだ。ここ以外にも投げ飛ばされた打撲痕も多く、ヴィオが心配するので大人しくしていたが安静にしていれば3週間もあれば治るし、もうすでに一週間たっている。自分自身の見立てでも経過は良好とわかっている。
二の腕から肘まで無事だし、痛み止めを飲んでいるから固定している患部に直接刺激を与えなければどうといったことはない。
膝の上に頭を載せていたヴィオの柳腰の下に利き手をいれると、ひょいっと片腕だけでヴィオの上半身を小脇に抱え上げてずるずると広い寝台の中央まで引きずっていく。
ヴィオは血相を変えたが、暴れて万が一セラフィンの腕にぶつかり傷つけてしまったらと思うと身動きもとれない。
「先生! 腕、怪我!」
セラフィンは応えずヴィオの夜具の裾の中に遠慮なく手を入れると、ヴィオの滑らかな太ももを際どい部分から膝まで撫ぜ上げたのち大きな手で膝裏を掴み上げて足を開かせた。そして膝で割り切る様にして自らの身体を割り込ませる。羽織っていた淡い青紫のシャツのボタンを二つ三つほどあけると一気に両腕を交差させてそれを脱ぎ去った。
「せんせい?」
見下ろしてくるセラフィンの蒼い目は情欲に濡れ、やや細められた眼差しは彼が日ごろあまり見せないような雄っぽい色気に溢れている。口元は余裕ありげな微笑みさえ浮かべ、見せつけるように露わになった仄かに発光するかのように白い身体は彫像のように美しい。背後の明かりに照らされた姿は医師とは思えぬほど実用的で鍛え抜かれた筋肉がついた身体でヴィオが思っていたよりもずっと厚みがあって逞しかった。
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