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溺愛編
クィートの恋4
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そんな風に真面目に言いながら眉をすっかり下げた困り顔をしているのがまた面白いやら可愛いやら。手を握っていることを彼が迷子になるからだと思ったらしく、クィートはおかしくて吹き出してしまった。
「いや、いや。流石にそんなことは思ってないって」
「だって……。みんな街中で僕の手を握って歩くから……」
光の中に立つヴィオの衣服は透け、しっかりとした骨格なのに腰だけは頼りなげなほど縊れたスタイルを見せつけながら、無邪気な様子で頬を染めたまま恥じらう様な顔をする。風で大きな袖がふわりと舞い、まるで白水蓮の精のようにすら見えてくる。またヴィオから甘く優美な香りが零れ、本人の芳香は封じきれぬほど漏れるのにこちらの方は受け取らぬなどなんと罪深いほど悩ましい存在なのだろうと胸が切なくなるほどだ。
(誘っているのかと思うほど……。まるで無防備だな)
鮮やかな色合いの瞳に見惚れながら、クィートはヴィオに魅了された心地を味わいながら、握った手の甲に気障な仕草で口づける。慌てるヴィオが逃げる前に腕を引っ張ると鮮やかな様子でヴィオを懐に抱き込んだのだった。
「それは……。君がとても愛らしいからじゃないのか? 俺はそう思った。だからこうしてずっと手を握ってるんだ。ほんとだぞ?」
「揶揄わないでください」
流石にそこまでされたらクィートの猛攻に気づいたのかさらに赤面して少し怒ったような顔になる。もちろん眉を吊り上げた勝ち気な表情もなかなかよく、腕から逃れようとするからこのまま、どさくさに紛れて唇でも奪ってしまおうと強引に顔を寄せた。背後からすごい速さで木々の間を通る足音が聞こえてきて、流石にクィートも頭を上げる。
「ヴィオ!」
「先生!」
「先生?」
名前を呼ばれたヴィオが嬉々として辺りを見回して姿を探している。すぐに腕から飛び出そうとしていく機敏な身体をクィートは思わず逃すまいと抱えなおす。
すると足音の主は途中からは道さえ無視したのか、まっすぐにこちらに向かってきた。
「うわあ! 叔父さん!」
「叔父さん??」
そしてがさがさっと植え込みをかき分けるように現れた人物にクィートは驚き過ぎて『格好の良い』自分をまたすっかり忘れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
腕を赤いショールのような布で怪我をしているのか腕を吊った状態で、頭には無数の木の葉、漆黒の光沢が艶めく髪にはところどころ小枝に髪を巻きつけ、真っ青な目を見開いて彫像のような白皙の頬を人間らしく紅潮させている。それは未だかつて見たことのないよう衝撃的な姿だった。
いつでも物静かで麗しき叔父セラフィンが、慌てふためき呼吸を乱すほどの全速力で二人の前に駆け寄ってきたのだ。
「いや、いや。流石にそんなことは思ってないって」
「だって……。みんな街中で僕の手を握って歩くから……」
光の中に立つヴィオの衣服は透け、しっかりとした骨格なのに腰だけは頼りなげなほど縊れたスタイルを見せつけながら、無邪気な様子で頬を染めたまま恥じらう様な顔をする。風で大きな袖がふわりと舞い、まるで白水蓮の精のようにすら見えてくる。またヴィオから甘く優美な香りが零れ、本人の芳香は封じきれぬほど漏れるのにこちらの方は受け取らぬなどなんと罪深いほど悩ましい存在なのだろうと胸が切なくなるほどだ。
(誘っているのかと思うほど……。まるで無防備だな)
鮮やかな色合いの瞳に見惚れながら、クィートはヴィオに魅了された心地を味わいながら、握った手の甲に気障な仕草で口づける。慌てるヴィオが逃げる前に腕を引っ張ると鮮やかな様子でヴィオを懐に抱き込んだのだった。
「それは……。君がとても愛らしいからじゃないのか? 俺はそう思った。だからこうしてずっと手を握ってるんだ。ほんとだぞ?」
「揶揄わないでください」
流石にそこまでされたらクィートの猛攻に気づいたのかさらに赤面して少し怒ったような顔になる。もちろん眉を吊り上げた勝ち気な表情もなかなかよく、腕から逃れようとするからこのまま、どさくさに紛れて唇でも奪ってしまおうと強引に顔を寄せた。背後からすごい速さで木々の間を通る足音が聞こえてきて、流石にクィートも頭を上げる。
「ヴィオ!」
「先生!」
「先生?」
名前を呼ばれたヴィオが嬉々として辺りを見回して姿を探している。すぐに腕から飛び出そうとしていく機敏な身体をクィートは思わず逃すまいと抱えなおす。
すると足音の主は途中からは道さえ無視したのか、まっすぐにこちらに向かってきた。
「うわあ! 叔父さん!」
「叔父さん??」
そしてがさがさっと植え込みをかき分けるように現れた人物にクィートは驚き過ぎて『格好の良い』自分をまたすっかり忘れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
腕を赤いショールのような布で怪我をしているのか腕を吊った状態で、頭には無数の木の葉、漆黒の光沢が艶めく髪にはところどころ小枝に髪を巻きつけ、真っ青な目を見開いて彫像のような白皙の頬を人間らしく紅潮させている。それは未だかつて見たことのないよう衝撃的な姿だった。
いつでも物静かで麗しき叔父セラフィンが、慌てふためき呼吸を乱すほどの全速力で二人の前に駆け寄ってきたのだ。
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