128 / 222
略奪編
対峙2
しおりを挟む
(おおっ、こわっ。先生も本気だし、フェル族の威圧もやばいな。こりゃ血をみるかもな。このまま引いてくれないかな、カイ君)
ジルは日頃の癖でそれでもセラフィンをかばう様に一歩前に出ようとしたが、セラフィンの腕がすっと前に伸ばされそれを制した。
変わらず騒然とした周囲の様子に見た目よりずっとすばしっこいテンが危険を察知し、青ざめつつもここでヴィオを取り落しては大変なことが起こると額に汗しながら周囲を見渡す。腕の中のぐったりとした青年の命運を握るのは自分だと奮い立ったのだ。そもそもテンは英雄に憧れて軍に入った青年だったからだ。武者震いが背筋から駆け上がり、彼を抱く手に力を込め直す。
隙をつければ窓から飛び出してやると判断し、カイが来た渡り廊下とは逆側の端にある、木製のベンチや観葉植物のあるあたりに引っ込んでいった。
セラフィンは視界の端にはカイの気配を捉えつつ、ゆっくりと蒼い目を巡らせてヴィオの潤んだ瞳を捉えると、よく頑張ったと言う様に瞳で甘く微笑む。ヴィオが頑張って背を伸ばし物問いたげな半泣きの表情でただひたすらセラフィンだけを見つめてくると、セラフィンは彼にしては大仰な仕草で大きく頷いた。
「ヴィオ! よく頑張ったね」
「せんせい! ごめんなさいっ」
再び会うことができた事への感謝と万感の思いを込めた涙声のお詫びに、セラフィンはかぶりをふってもう一度大きく頷く。
「いいんだよ。無事でよかった」
「あいたかった」
「俺もだ」
明らかに互いを想い、愛情深く引き合う二人の声が響きわたる。ヴィオが赤い顔をして苦しい中でも健気に笑いかけようとし、セラフィンに向けて一生懸命にその手を伸ばした。
ここまで平静を装っていたセラフィンだが今すぐこの腕にヴィオを取り戻し、抱きしめてやりたい心地になりとても我慢できなかった。そのまままっすぐにヴィオに駆け寄ろうとし、ジルもそれに付き従おうとする。
一見ジルの号令のような一言で事態は簡単に収束し掛けたように思えた。しかし、思ってもみなかったことが起こったのだ。
笑いかけてくれたセラフィンの顔を見て心の底から安堵したのだろう。
ヴィオの中でセラフィンへの溢れるほどの愛と情熱的な想いの熱い奔流が巻き起こり、すさまじいまでのフェロモンの芳香が泉のように溢れ広がった。甘く爽やかでそれでいて嵐が巻き起こって吹き飛ばされた花々のような、官能的な眩惑のオメガフェロモンは、周囲の男たちで比較的正気を保っていた者たちをも直ちにその香りの虜にする。そして彼らは花に引き寄せられる蜜蜂のようにフェロモンに酔ったまま次々と、テンが抱き上げるヴィオに向かっていく。
「うわっ! こっちくるなって!」
「テン、その子を俺によこせ」
「俺にだ!」
争うようにそう言い募って魔物のようになってしまった仲間たちを正気に戻そうと、テンが木製の頑丈なベンチの上に飛び乗ったまま近寄ってくる男たちに蹴りを入れて威嚇するが徐々に間合いを取られていく。
「モルス先生! ちょっと気分が悪くなったんだ。ぶっ倒れたこいつのことも見てくれないか?」
口と鼻を袖で塞いだまま、アルファのフェロモンの方に充てられてぶっ倒れた友人を引きずってきた男が、セラフィンの前に立ちふさがって一生懸命言い募ってくる。
そうしてヴィオのフェロモンに体調の異変を感じたものがセラフィンの方に押し寄せてきて動きを阻まれた。
その隙にカイが前にいた男たちを押しのけ引き倒してヴィオのもとに向かっていくから、負けじとセラフィンも彼らを押しのけてカイの前に回りこんで、彼の行く手に立ちふさがった。
「そこをどけ!」
カイの恫喝に当然応じるはずはない。日頃物静かなセラフィンだがカイに負けぬほどの獰猛ともいうべき声で対抗した。
「お前の相手は俺がする」
ついに直接対決となり睨みあうセラフィンが対峙しているその背後をジルが一気に駆け抜ける。
ジルはさらに遠慮がなかった。格闘技で鍛えた身体を思う存分に動かし、タックルの要領で決して小柄でない男たちをどんどん引き倒し押し、押しのけて一番早くにテンとヴィオがいるベンチの前までたどり着いた。そしてヴィオに向けて手を伸ばしていた男たちもまとめて相手にしてあっという間に足元に沈めていった。
幸いふらふらと酒に酔ったようになっていた男たちは大体顎に一発拳を見舞えば簡単に崩れ落ちていったのでむしろ気分爽快なほどだった。
「ああ!! あんた、こんなことして……」
一見優男に見えたジルの仲間たちへの遠慮のない猛攻にテンは流石に言葉を失い、少し高い位置から全体を見まわしていたテンは、改めてオメガフェロモンの想像を絶する影響に恐ろしくて腰を抜かしそうになった。
ジルは日頃の癖でそれでもセラフィンをかばう様に一歩前に出ようとしたが、セラフィンの腕がすっと前に伸ばされそれを制した。
変わらず騒然とした周囲の様子に見た目よりずっとすばしっこいテンが危険を察知し、青ざめつつもここでヴィオを取り落しては大変なことが起こると額に汗しながら周囲を見渡す。腕の中のぐったりとした青年の命運を握るのは自分だと奮い立ったのだ。そもそもテンは英雄に憧れて軍に入った青年だったからだ。武者震いが背筋から駆け上がり、彼を抱く手に力を込め直す。
隙をつければ窓から飛び出してやると判断し、カイが来た渡り廊下とは逆側の端にある、木製のベンチや観葉植物のあるあたりに引っ込んでいった。
セラフィンは視界の端にはカイの気配を捉えつつ、ゆっくりと蒼い目を巡らせてヴィオの潤んだ瞳を捉えると、よく頑張ったと言う様に瞳で甘く微笑む。ヴィオが頑張って背を伸ばし物問いたげな半泣きの表情でただひたすらセラフィンだけを見つめてくると、セラフィンは彼にしては大仰な仕草で大きく頷いた。
「ヴィオ! よく頑張ったね」
「せんせい! ごめんなさいっ」
再び会うことができた事への感謝と万感の思いを込めた涙声のお詫びに、セラフィンはかぶりをふってもう一度大きく頷く。
「いいんだよ。無事でよかった」
「あいたかった」
「俺もだ」
明らかに互いを想い、愛情深く引き合う二人の声が響きわたる。ヴィオが赤い顔をして苦しい中でも健気に笑いかけようとし、セラフィンに向けて一生懸命にその手を伸ばした。
ここまで平静を装っていたセラフィンだが今すぐこの腕にヴィオを取り戻し、抱きしめてやりたい心地になりとても我慢できなかった。そのまままっすぐにヴィオに駆け寄ろうとし、ジルもそれに付き従おうとする。
一見ジルの号令のような一言で事態は簡単に収束し掛けたように思えた。しかし、思ってもみなかったことが起こったのだ。
笑いかけてくれたセラフィンの顔を見て心の底から安堵したのだろう。
ヴィオの中でセラフィンへの溢れるほどの愛と情熱的な想いの熱い奔流が巻き起こり、すさまじいまでのフェロモンの芳香が泉のように溢れ広がった。甘く爽やかでそれでいて嵐が巻き起こって吹き飛ばされた花々のような、官能的な眩惑のオメガフェロモンは、周囲の男たちで比較的正気を保っていた者たちをも直ちにその香りの虜にする。そして彼らは花に引き寄せられる蜜蜂のようにフェロモンに酔ったまま次々と、テンが抱き上げるヴィオに向かっていく。
「うわっ! こっちくるなって!」
「テン、その子を俺によこせ」
「俺にだ!」
争うようにそう言い募って魔物のようになってしまった仲間たちを正気に戻そうと、テンが木製の頑丈なベンチの上に飛び乗ったまま近寄ってくる男たちに蹴りを入れて威嚇するが徐々に間合いを取られていく。
「モルス先生! ちょっと気分が悪くなったんだ。ぶっ倒れたこいつのことも見てくれないか?」
口と鼻を袖で塞いだまま、アルファのフェロモンの方に充てられてぶっ倒れた友人を引きずってきた男が、セラフィンの前に立ちふさがって一生懸命言い募ってくる。
そうしてヴィオのフェロモンに体調の異変を感じたものがセラフィンの方に押し寄せてきて動きを阻まれた。
その隙にカイが前にいた男たちを押しのけ引き倒してヴィオのもとに向かっていくから、負けじとセラフィンも彼らを押しのけてカイの前に回りこんで、彼の行く手に立ちふさがった。
「そこをどけ!」
カイの恫喝に当然応じるはずはない。日頃物静かなセラフィンだがカイに負けぬほどの獰猛ともいうべき声で対抗した。
「お前の相手は俺がする」
ついに直接対決となり睨みあうセラフィンが対峙しているその背後をジルが一気に駆け抜ける。
ジルはさらに遠慮がなかった。格闘技で鍛えた身体を思う存分に動かし、タックルの要領で決して小柄でない男たちをどんどん引き倒し押し、押しのけて一番早くにテンとヴィオがいるベンチの前までたどり着いた。そしてヴィオに向けて手を伸ばしていた男たちもまとめて相手にしてあっという間に足元に沈めていった。
幸いふらふらと酒に酔ったようになっていた男たちは大体顎に一発拳を見舞えば簡単に崩れ落ちていったのでむしろ気分爽快なほどだった。
「ああ!! あんた、こんなことして……」
一見優男に見えたジルの仲間たちへの遠慮のない猛攻にテンは流石に言葉を失い、少し高い位置から全体を見まわしていたテンは、改めてオメガフェロモンの想像を絶する影響に恐ろしくて腰を抜かしそうになった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【陽気な庶民✕引っ込み思案の御曹司】
これまで何人の女性を相手にしてきたか数えてもいない生田雅紀(いくたまさき)は、整った容姿と人好きのする性格から、男女問わず常に誰かしらに囲まれて、暇をつぶす相手に困らない生活を送っていた。
それゆえ過去に囚われることもなく、未来のことも考えず、だからこそ生きている実感もないままに、ただただ楽しむだけの享楽的な日々を過ごしていた。
そんな日々が彼に出会って一変する。
自分をも凌ぐ美貌を持つだけでなく、スラリとした長身とスタイルの良さも傘にせず、御曹司であることも口重く言うほどの淑やかさを持ちながら、伏し目がちにおどおどとして、自信もなく気弱な男、久世透。
自分のような人間を相手にするレベルの人ではない。
そのはずが、なにやら友情以上の何かを感じてならない。
というか、自分の中にこれまで他人に抱いたことのない感情が見え隠れし始めている。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻に関する部分です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる