121 / 222
略奪編
ジルの策略4
しおりを挟む
はだけたシャツを脱ぎ去り筋肉質で鍛え上げられた身体を日差しの中に晒すと寝台に手を付きセラフィンに覆いかぶさった。
「んっ、ふっ」
キスまでは幾度となく交わしたことがある。差し出された舌を舐め上げぬるぬると絡めあう。しかし意識がある時の方がよほど官能的だった口づけが、今は僅かに喉元で声を上げるだけで反応はない。ジルは一度顔を離すと澄ましているようなセラフィンの顔つきの変化を確認した。
(なんだよそれ、どうにでもしてくれって感じだな)
そうなってくるとへそ曲がりなジルは逆にやる気を失い。セラフィンの頬に軽快な音を立てて口づけると、隣に寝転んで天井を見上げた。
沈黙が流れ、遠くで車の走行音が聞こえてくる。どこかの階の住人が扉を開けたような音。生活音が潮騒のように遠くに聞こえてジルは瞳を閉じた。
「なんだ、もう終わりか」
「もういいかげん、あんたの寝たふりには騙されないよ。暗示、かかってなかったんだな」
腕を枕にしてごろりとセラフィンの方に向くと、長い睫毛が開かれ炯炯と光を湛えた蒼い目がいつも通りの静けさでジルを見つめ返してきた。
「かかってたさ。王子様のキスで目が醒めただけだ」
「王子様、な」
ジルはふうっと大きくため息をついて再び天井の方に向きなおって仰向けになった。その像は不意に歪み、ジルは無意識の涙がこみあげてきているのを知ると両手で顔を覆った。
「ジル? 大丈夫か?」
「優しい声出すな。つけいるぞ」
セラフィンも吐息くと身体の力を抜き、同じように天井を見上げた。
窓からの光が紋を描き、それを見るとはなしに眺めると傍らのジルに穏やかな声で話しかけた。
「付け入っても良かったんだぞ。別に、お前になら……。身体ぐらいならくれてやるさ」
「そういうとこだぞ、あんたの。そういうとこ」
起き上がって情けない涙声でそういうと、セラフィンも一度寝台の上で起き上がり流れてきた前髪を後ろにかきあげる。
『欲しいのは身体だけじゃない。心ごと全てだ』
そういいたかったけれど、本当は違う。心は通じ合えたと感じていた時期があったから、欲が出て全てが欲しくなった。ただそれだけだったのだ。
年下の友人の本音と自分を想う暖かな気持ちに触れて、セラフィンもたまらない心地になってあえてまた寝転がると、彼の方を見ずに天井に向けて呟いた。
「んっ、ふっ」
キスまでは幾度となく交わしたことがある。差し出された舌を舐め上げぬるぬると絡めあう。しかし意識がある時の方がよほど官能的だった口づけが、今は僅かに喉元で声を上げるだけで反応はない。ジルは一度顔を離すと澄ましているようなセラフィンの顔つきの変化を確認した。
(なんだよそれ、どうにでもしてくれって感じだな)
そうなってくるとへそ曲がりなジルは逆にやる気を失い。セラフィンの頬に軽快な音を立てて口づけると、隣に寝転んで天井を見上げた。
沈黙が流れ、遠くで車の走行音が聞こえてくる。どこかの階の住人が扉を開けたような音。生活音が潮騒のように遠くに聞こえてジルは瞳を閉じた。
「なんだ、もう終わりか」
「もういいかげん、あんたの寝たふりには騙されないよ。暗示、かかってなかったんだな」
腕を枕にしてごろりとセラフィンの方に向くと、長い睫毛が開かれ炯炯と光を湛えた蒼い目がいつも通りの静けさでジルを見つめ返してきた。
「かかってたさ。王子様のキスで目が醒めただけだ」
「王子様、な」
ジルはふうっと大きくため息をついて再び天井の方に向きなおって仰向けになった。その像は不意に歪み、ジルは無意識の涙がこみあげてきているのを知ると両手で顔を覆った。
「ジル? 大丈夫か?」
「優しい声出すな。つけいるぞ」
セラフィンも吐息くと身体の力を抜き、同じように天井を見上げた。
窓からの光が紋を描き、それを見るとはなしに眺めると傍らのジルに穏やかな声で話しかけた。
「付け入っても良かったんだぞ。別に、お前になら……。身体ぐらいならくれてやるさ」
「そういうとこだぞ、あんたの。そういうとこ」
起き上がって情けない涙声でそういうと、セラフィンも一度寝台の上で起き上がり流れてきた前髪を後ろにかきあげる。
『欲しいのは身体だけじゃない。心ごと全てだ』
そういいたかったけれど、本当は違う。心は通じ合えたと感じていた時期があったから、欲が出て全てが欲しくなった。ただそれだけだったのだ。
年下の友人の本音と自分を想う暖かな気持ちに触れて、セラフィンもたまらない心地になってあえてまた寝転がると、彼の方を見ずに天井に向けて呟いた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる