香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

ジルの策略4

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 はだけたシャツを脱ぎ去り筋肉質で鍛え上げられた身体を日差しの中に晒すと寝台に手を付きセラフィンに覆いかぶさった。

「んっ、ふっ」

 キスまでは幾度となく交わしたことがある。差し出された舌を舐め上げぬるぬると絡めあう。しかし意識がある時の方がよほど官能的だった口づけが、今は僅かに喉元で声を上げるだけで反応はない。ジルは一度顔を離すと澄ましているようなセラフィンの顔つきの変化を確認した。

(なんだよそれ、どうにでもしてくれって感じだな)

 そうなってくるとへそ曲がりなジルは逆にやる気を失い。セラフィンの頬に軽快な音を立てて口づけると、隣に寝転んで天井を見上げた。
 沈黙が流れ、遠くで車の走行音が聞こえてくる。どこかの階の住人が扉を開けたような音。生活音が潮騒のように遠くに聞こえてジルは瞳を閉じた。

「なんだ、もう終わりか」
「もういいかげん、あんたの寝たふりには騙されないよ。暗示、かかってなかったんだな」

 腕を枕にしてごろりとセラフィンの方に向くと、長い睫毛が開かれ炯炯と光を湛えた蒼い目がいつも通りの静けさでジルを見つめ返してきた。

「かかってたさ。王子様のキスで目が醒めただけだ」
「王子様、な」

 ジルはふうっと大きくため息をついて再び天井の方に向きなおって仰向けになった。その像は不意に歪み、ジルは無意識の涙がこみあげてきているのを知ると両手で顔を覆った。

「ジル? 大丈夫か?」
「優しい声出すな。つけいるぞ」

 セラフィンも吐息くと身体の力を抜き、同じように天井を見上げた。
 窓からの光が紋を描き、それを見るとはなしに眺めると傍らのジルに穏やかな声で話しかけた。

「付け入っても良かったんだぞ。別に、お前になら……。身体ぐらいならくれてやるさ」
「そういうとこだぞ、あんたの。そういうとこ」

 起き上がって情けない涙声でそういうと、セラフィンも一度寝台の上で起き上がり流れてきた前髪を後ろにかきあげる。
『欲しいのは身体だけじゃない。心ごと全てだ』
 そういいたかったけれど、本当は違う。心は通じ合えたと感じていた時期があったから、欲が出て全てが欲しくなった。ただそれだけだったのだ。
 年下の友人の本音と自分を想う暖かな気持ちに触れて、セラフィンもたまらない心地になってあえてまた寝転がると、彼の方を見ずに天井に向けて呟いた。

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