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略奪編
熱情の虜3
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だぼっとしたズボンの中に大きな手を入れられた。哀しくも半起ちに近い状態になったヴィオの陰茎をカイは遠慮なく握りしめてくる。力を籠められたら潰されてしまうような恐怖に苛まれ、ヴィオは恐れと焦りからまた大粒の涙を零した。
「触らないで! やめて、やめろ!」
「喚くな。滾る。乱暴に犯したくなる」
カイはヴィオの肩のあたりについて身を起こすと、寝台に寝転んだままのヴィオを脅すように目を合わせた。昏い声で端正な顔に赤い夕焼けの放つ暗い影を落とし、顔は支配者のようにそう命じた。ヴィオはなんとかいつもの優しい兄に戻って欲しくて訴えかけるように、また涙声で抵抗を試みた。
「いやだ。僕は兄さんと番にはならない。兄さんが好きなのはオメガの僕でしょう? 僕がベータだったり、アルファだったらこんなことしたの? しなかったはずだ。僕がオメガだったから婚約して、番になろうとした。姉さんがオメガだったら姉さんと結婚したはずなんだから」
「違う……。俺はお前のことを愛しているから。番になりたい。それにオメガはお前だろう? そんな仮定の話は無意味だ」
「僕は、ベータの僕だったとしても、好きな人を変えたりしないよ。兄さんが押し付けてくるのは愛じゃない。オメガの僕を屈服させたい。そんなのただの支配欲だろう?」
身体の大きな軍人同士であっても、カイが威圧的な態度を取った時には怖気づきすぐ怯むが、ヴィオは夕陽に神がかかるほどに清く力強い瞳でまっすぐに兄の目を睨み返して告げた。
「僕が愛しているのはただ一人。セラフィン先生だけだ」
ついにヴィオが白状した愛しい男の名前を聞いたカイは身の内の巣食う嫉妬の炎に苛まれ、今すぐにヴィオを滅茶苦茶にしてしまいたい衝動に駆られたが、今自分の手の中にヴィオがいるのだからと平静さを装うように自分自身に言い聞かせ、耐えた。
(だからなんだっていうんだ? 金輪際あの男と二度会わせなければよいだけのことだ。ヴィオは今夜、俺の番になるのだから)
しかし逃しきれぬ激情から、激しい台詞を口走る。
「これから先、他の男がお前に触れたら、その男を殺してやる」
「させないよ。僕の男は、僕が選ぶ」
勝ち気にそう言い切ったヴィオだが、大好きだったカイの瞳に浮かぶ狂気に心の内には色々な感情がこみ上げてきて憐憫と哀しみに打ちひしがれた。
(僕がオメガだったから、優しいカイ兄さんがこんなに怖い人になってしまった。オメガじゃなかったら、こんなことにならなかったのに。神様はどうして僕をオメガに生まれさせたの?)
「それでもお前は、俺の番だ」
カイはどこか苦し気にそういうと、大きな掌でヴィオの顔を両側からつつみ、親指を含ませながら口を大きく開かせたカイは狼のように大きく口を開いて全てを喰らうように口を合わせる。じゅるっと音がなるほど滑らかで柔いヴィオの舌を絡め吸い上げた。指の間から伝って落ちるヴィオの涎を首筋から音を立てて舐め上げる。まるで先祖の獣人にでもなったかのような野性的な動きに恐ろしくもヴィオの身体は熱く火照り鼓動が益々高まった。
「抑制剤もじきに切れるだろう。そのまま俺が一晩掛けてお前の発情を誘発してやる。ヴィオ、たまらない、良い香りだ。どんどん強くなる」
すんっと首元の匂いを嗅がれ、もやは乱暴に包帯を解かれ、項に舌を這わされる。淫靡に動くそのぬめったその動きは味見をされているようで……。いつでもヴィオを受け止め愛してくれたカイがまるでカイではない別の獣に乗り移られたように思えて、アルファ性の凶暴な一面にヴィオは急所を握りこまれたまま身を竦ませた。
「ひっ」
「ヴィオ? いいぜ。俺と勝負しようじゃないか。淫蕩なオメガが同族のアルファに誘発されても他の男の番になりたいなんて、果たして明日の朝になっても同じことがいえるのか? 俺の番になりたいって、もっと俺が欲しいってすぐに強請らせてやる」
野性的で強い獣の雄っぽい顔つきで瞳を金色にぎらつかせたカイは、どうあっても話を聞いてはくれないのだとヴィオは絶望した。
(カイ兄さんは、僕の気持ちなんてどうだっていいんだ。僕が番になりさえすれば、僕の全てが手に入るって思ってる。嫌だ。僕は絶対に屈しない。こんなわからずやの番になんてならない)
頭によぎるのはヴィオのフェロモンに導かれながらも一線は越えずに慰めてくれたセラフィンの暖かな思いやりと愛情だった。アルファの身でありながらセラフィンは性的に幼いヴィオを奪わず、誘発どころか抑制してこの欲を封じてくれた。
(先生に会いたい。自分から屋敷を出てきたのに、本当にごめんなさい。素直に言えばよかったんだ。先生の番になりたい。何もできないただの僕でも傍に置いて欲しいって。僕は……本当に愚かだ)
「触らないで! やめて、やめろ!」
「喚くな。滾る。乱暴に犯したくなる」
カイはヴィオの肩のあたりについて身を起こすと、寝台に寝転んだままのヴィオを脅すように目を合わせた。昏い声で端正な顔に赤い夕焼けの放つ暗い影を落とし、顔は支配者のようにそう命じた。ヴィオはなんとかいつもの優しい兄に戻って欲しくて訴えかけるように、また涙声で抵抗を試みた。
「いやだ。僕は兄さんと番にはならない。兄さんが好きなのはオメガの僕でしょう? 僕がベータだったり、アルファだったらこんなことしたの? しなかったはずだ。僕がオメガだったから婚約して、番になろうとした。姉さんがオメガだったら姉さんと結婚したはずなんだから」
「違う……。俺はお前のことを愛しているから。番になりたい。それにオメガはお前だろう? そんな仮定の話は無意味だ」
「僕は、ベータの僕だったとしても、好きな人を変えたりしないよ。兄さんが押し付けてくるのは愛じゃない。オメガの僕を屈服させたい。そんなのただの支配欲だろう?」
身体の大きな軍人同士であっても、カイが威圧的な態度を取った時には怖気づきすぐ怯むが、ヴィオは夕陽に神がかかるほどに清く力強い瞳でまっすぐに兄の目を睨み返して告げた。
「僕が愛しているのはただ一人。セラフィン先生だけだ」
ついにヴィオが白状した愛しい男の名前を聞いたカイは身の内の巣食う嫉妬の炎に苛まれ、今すぐにヴィオを滅茶苦茶にしてしまいたい衝動に駆られたが、今自分の手の中にヴィオがいるのだからと平静さを装うように自分自身に言い聞かせ、耐えた。
(だからなんだっていうんだ? 金輪際あの男と二度会わせなければよいだけのことだ。ヴィオは今夜、俺の番になるのだから)
しかし逃しきれぬ激情から、激しい台詞を口走る。
「これから先、他の男がお前に触れたら、その男を殺してやる」
「させないよ。僕の男は、僕が選ぶ」
勝ち気にそう言い切ったヴィオだが、大好きだったカイの瞳に浮かぶ狂気に心の内には色々な感情がこみ上げてきて憐憫と哀しみに打ちひしがれた。
(僕がオメガだったから、優しいカイ兄さんがこんなに怖い人になってしまった。オメガじゃなかったら、こんなことにならなかったのに。神様はどうして僕をオメガに生まれさせたの?)
「それでもお前は、俺の番だ」
カイはどこか苦し気にそういうと、大きな掌でヴィオの顔を両側からつつみ、親指を含ませながら口を大きく開かせたカイは狼のように大きく口を開いて全てを喰らうように口を合わせる。じゅるっと音がなるほど滑らかで柔いヴィオの舌を絡め吸い上げた。指の間から伝って落ちるヴィオの涎を首筋から音を立てて舐め上げる。まるで先祖の獣人にでもなったかのような野性的な動きに恐ろしくもヴィオの身体は熱く火照り鼓動が益々高まった。
「抑制剤もじきに切れるだろう。そのまま俺が一晩掛けてお前の発情を誘発してやる。ヴィオ、たまらない、良い香りだ。どんどん強くなる」
すんっと首元の匂いを嗅がれ、もやは乱暴に包帯を解かれ、項に舌を這わされる。淫靡に動くそのぬめったその動きは味見をされているようで……。いつでもヴィオを受け止め愛してくれたカイがまるでカイではない別の獣に乗り移られたように思えて、アルファ性の凶暴な一面にヴィオは急所を握りこまれたまま身を竦ませた。
「ひっ」
「ヴィオ? いいぜ。俺と勝負しようじゃないか。淫蕩なオメガが同族のアルファに誘発されても他の男の番になりたいなんて、果たして明日の朝になっても同じことがいえるのか? 俺の番になりたいって、もっと俺が欲しいってすぐに強請らせてやる」
野性的で強い獣の雄っぽい顔つきで瞳を金色にぎらつかせたカイは、どうあっても話を聞いてはくれないのだとヴィオは絶望した。
(カイ兄さんは、僕の気持ちなんてどうだっていいんだ。僕が番になりさえすれば、僕の全てが手に入るって思ってる。嫌だ。僕は絶対に屈しない。こんなわからずやの番になんてならない)
頭によぎるのはヴィオのフェロモンに導かれながらも一線は越えずに慰めてくれたセラフィンの暖かな思いやりと愛情だった。アルファの身でありながらセラフィンは性的に幼いヴィオを奪わず、誘発どころか抑制してこの欲を封じてくれた。
(先生に会いたい。自分から屋敷を出てきたのに、本当にごめんなさい。素直に言えばよかったんだ。先生の番になりたい。何もできないただの僕でも傍に置いて欲しいって。僕は……本当に愚かだ)
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