香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

熱情の虜2

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 ヴィオ突然言葉が通じなくなったかのようなもどかしい気持ちと焦燥感、そしてこみ上げてくる怒りに我を忘れそうになった。
 しかしヴィオの身体の扱いを知り尽くしたかのようなカイがヴィオの柔らかな尻から細い腰、滑かな背中に至るまで優しく撫ぜる手つきは悔しいがツボを得て心地よく、奥まで深く侵略し勇ましいほどに攻めつくされる口づけは全身に甘い痺れをもたらした。哀しいことにカイの香りには嫌いなところがまるでない。それはまるで里の森の奥のような安らぎと爽やかさを感じるもので、カイの胸を打つ手からはどんどん力が失せていくが、それでもヴィオはあきらめなかった。

(兄さんに頭に来てるのに、気持ちよくて、わけわかんなくなる。でも嫌だ。今度こそ自分の気持ちをきちんと伝えないと)

「んっ、ああ。カイ兄さん、聞いて」

 キスの合間に色っぽい声で喘ぐが、カイはまるで意に介さない。それが逆にヴィオの中の『フェル族の男』たる気持ちに火をつけた。瞬時に燃え上がる熱い気持ちに呼応して刹那、金色の環が目の中に広がった。

「やめてカイ兄さん!」

 ぱしん、と兄の精悍な褐色の頬を掌で張り付けると、カイは緑色の美しい瞳を見開いてやっと動きを止めたのだ。

「……姉弟そろって、行動の型が同じだな」

 このまま前戯にも連れ込みそうになるほどの滾る気持ちに冷や水をかけられたカイは忌々し気に言い捨てるが、ヴィオは同じく欲に金色の環を広げた兄に対峙するように見据えて唸った。

「僕が番になりたい人は、兄さんじゃないんだ!」

 一瞬の沈黙に互いの視線が火花が散るように交錯する。

「言いたいことはそれだけか?」

 顎を僅かに上げ、形が良く大きな瞳を細めて言い放ったカイの顔は表情が抜け落ちたかのように冷たく、しかし目だけはギラギラと金色に煌めく。

「え……」

(僕の気持ちなんてまるで無視なの? 聞く耳持たないっていうの?)

 昏い眼差しでヴィオを見つめてくるアルファの男。
 そこにはいつもヴィオを見守ってくれた温かく優しい保護者代わりの従兄はいない。まるで初めて出会ったような見知らぬ男のそれに見え、ヴィオは背筋が凍る思いがした。

「俺のフェロモンを感じて蕩けた顔してただろ? ここも」
「あうっ」

 再び寝台にヴィオを組み敷きなおし、身体の上に体重をかけないように乗り上げていたカイがヴィオの足の間に膝を無理やり入れてぐりっと摺り上げる。恥ずかしさに頬に朱が刷け、涙目で睨めつけてくる様にカイは口の端を歪めるようにして嗤うと指先でダボっとしたシルエットのズボンをまさぐった。

「や、やめて!」
「固くなってきてた」
「やめて」
「やめて、なんて、可愛い抵抗だな? ヴィオ。やめない」

 いいしなヴィオの耳朶を舐め、熱い息を吹きかけながら柔らかな耳に噛みついてくる。
 ぞわぞわと痛みが同時に襲い、あまりに意地の悪いカイの仕打ちに、これ以上はけして泣くまいと思っていたのに涙がぼろぼろと零れ落ちた。

「知ってたか? フェル族は同族の相手に最も強く発情するようにできてるんだ。他の男が好きでも、結局は俺を拒めない」

 
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