117 / 222
略奪編
熱情の虜1
しおりを挟む
「運命の番?」
あどけない程透明感のある声で聴き返すヴィオに、カイは再び目線を絡め唇を合わせようとした。しかしヴィオはふいっと顔を背けて長い睫毛を伏せながら掌でカイの口をあえかにふさぎそれを拒んだ。
分かりやすい拒絶にカイは僅かに丹精な顔をこわばらせたまま、大きな手でヴィオの手を包むように握りこむと、瑞々しい掌に愛を乞うように口づける。
ヴィオが怯んでこちらを見つめてくると、カイは懸命に自分の番と思い定めている青年の髪を掻き分けて、包帯を緩めるようにして長く太い指先で項をなぞった。オメガは急所であるそこをなぞられるとぞくぞくとした刺激が辛いほどでヴィオはぎゅっと瞳を瞑って顎を上げ、苦しげだが艶めく表情を見せつける。
支配欲をもそそられるその色香溢れる貌にカイはごくりと唾を飲みこむと、胸の奥にせり上がる『このオメガの全てを奪いたい』という欲求が再び満ち溢れるのを感じた。
「運命の番は互いのフェロモンの誘発に逆らえない。まだ開花する前の幼いお前からでも俺にはお前のフェロモンが香った。お前は俺のために生まれてきてくれたオメガだと思えたんだ。小さなころからお前が可愛くて仕方なくて、一番大切だったが、今はもっと狂おしいほどにお前が愛しい。お前を手に入れたくてたまらないんだ。前にも言ったよな? お前がいるから俺は里から出ても頑張ってこられたんだ。お前が俺の生きる理由だ」
「でも……。でも僕は」
伝えたい気持ちをヴィオが言葉にしようとしているのに、カイはまるで聞く耳を持たない。強引に自分の気持ちだけを伝えようとするから、ますますヴィオの心は冷え閉ざしてしまう。一方的な熱い告白はまだまだ続き、カイのフェロモンはヴィオを絡めとろうかというほどにさらに強くなる。心とは裏腹に、その香りに訳が分からなくなるほど心惹かれる自分が恐ろしくて、ヴィオを正気を保つように半ばカイに拘束された身体の中で自由な唇を強く噛みしめた。
カイは腕の力だけで軽々とヴィオを抱え上げて寝台の上に胡坐をかくと、子どもの頃のように向かい合わせに膝に抱きあげる。カイの厚みのある身体をぎりぎりで跨ぎ、膝立ちになりのけぞって逃げようとしたヴィオの背を押しとどめ、宥めるようにさすりながら、腕の中に強引に抱きしめてきた。欲で掠れ色気のある声色でなおも耳元で囁く。
「なあ、ヴィオ。このままここで番になって、一緒に里に戻ろう。伯父さんに話をしてヴィオがこっちで俺と暮らしながら学校に通って勉強ができるようにしてやるから。俺に任せてくれれば大丈夫だから」
『番』の単語が飛び出してヴィオはぎょっとする。まさかカイがそこまでの強硬手段に打って出ると思わなかったのだ。今さらながらここで無理やり番にされるかもしれない可能性が急激に膨らんだことに恐れ慄いた。
(番になったら……。もう絶対にセラフィン先生の傍にはいられない。カイ兄さんに縛り付けられて、僕の心にはもう何の自由もなくなるんだ)
「勝手に決めないで! 番になんてならない!」
顔が胸の中に押し付けられるように抱えられた状態で、ヴィオはもがいてカイの胸板を左拳でどんどんと叩くが、悔しいことに相性抜群のカイの甘美なフェロモンの香りを嗅ぐと、まるで魔物にでも魅入られたかのように四肢に力が入らないのだ。
上目遣いにカイを見上げるヴィオは、睨みつけたいほどの怒りを抱えた心とは乖離した蕩けた年若いオメガらしい優艶な表情をみせている。その潤んだ菫色の瞳の艶めかしさに見惚れ、カイもここに来てから初めて男らしい口元に笑みを這わした。
「綺麗だな、ヴィオ。お前は嫌がるけど、俺はいつだってお前のことを、可愛い、綺麗だって褒めたくてたまらなかった。なあ……。お前にも、俺のフェロモンが分かるだろ? 俺は感じるよ。お前のフェロモン。甘くて、清純なのに、官能的で。お前を頭から全て食べつくしてやりたくなるほど、俺を煽ってくる」
ヴィオは再び口を開いてなんとかカイに反論しようとするが、ヴィオの抵抗を嘲るようにやわやわと悪戯するかのように口を塞がれたのち、再び濃厚に合わせ唇を奪われる。くちゅりと水音が立つほどに口内を貪られ、嫌がって押しのける手首は児戯のように軽々とカイの片手で抑え込まれて抵抗を軽々と封じ込まれた。息をつく間もなく、頭がぼうっとしてくるほどに、激しい接吻からはカイの思いが込められているかのようだが、セラフィンとの口づけに感じた胸躍る悦びに及ぶはずもない。
(どうやったら、わかってくれるの? セラフィンせんせい、助けて)
あどけない程透明感のある声で聴き返すヴィオに、カイは再び目線を絡め唇を合わせようとした。しかしヴィオはふいっと顔を背けて長い睫毛を伏せながら掌でカイの口をあえかにふさぎそれを拒んだ。
分かりやすい拒絶にカイは僅かに丹精な顔をこわばらせたまま、大きな手でヴィオの手を包むように握りこむと、瑞々しい掌に愛を乞うように口づける。
ヴィオが怯んでこちらを見つめてくると、カイは懸命に自分の番と思い定めている青年の髪を掻き分けて、包帯を緩めるようにして長く太い指先で項をなぞった。オメガは急所であるそこをなぞられるとぞくぞくとした刺激が辛いほどでヴィオはぎゅっと瞳を瞑って顎を上げ、苦しげだが艶めく表情を見せつける。
支配欲をもそそられるその色香溢れる貌にカイはごくりと唾を飲みこむと、胸の奥にせり上がる『このオメガの全てを奪いたい』という欲求が再び満ち溢れるのを感じた。
「運命の番は互いのフェロモンの誘発に逆らえない。まだ開花する前の幼いお前からでも俺にはお前のフェロモンが香った。お前は俺のために生まれてきてくれたオメガだと思えたんだ。小さなころからお前が可愛くて仕方なくて、一番大切だったが、今はもっと狂おしいほどにお前が愛しい。お前を手に入れたくてたまらないんだ。前にも言ったよな? お前がいるから俺は里から出ても頑張ってこられたんだ。お前が俺の生きる理由だ」
「でも……。でも僕は」
伝えたい気持ちをヴィオが言葉にしようとしているのに、カイはまるで聞く耳を持たない。強引に自分の気持ちだけを伝えようとするから、ますますヴィオの心は冷え閉ざしてしまう。一方的な熱い告白はまだまだ続き、カイのフェロモンはヴィオを絡めとろうかというほどにさらに強くなる。心とは裏腹に、その香りに訳が分からなくなるほど心惹かれる自分が恐ろしくて、ヴィオを正気を保つように半ばカイに拘束された身体の中で自由な唇を強く噛みしめた。
カイは腕の力だけで軽々とヴィオを抱え上げて寝台の上に胡坐をかくと、子どもの頃のように向かい合わせに膝に抱きあげる。カイの厚みのある身体をぎりぎりで跨ぎ、膝立ちになりのけぞって逃げようとしたヴィオの背を押しとどめ、宥めるようにさすりながら、腕の中に強引に抱きしめてきた。欲で掠れ色気のある声色でなおも耳元で囁く。
「なあ、ヴィオ。このままここで番になって、一緒に里に戻ろう。伯父さんに話をしてヴィオがこっちで俺と暮らしながら学校に通って勉強ができるようにしてやるから。俺に任せてくれれば大丈夫だから」
『番』の単語が飛び出してヴィオはぎょっとする。まさかカイがそこまでの強硬手段に打って出ると思わなかったのだ。今さらながらここで無理やり番にされるかもしれない可能性が急激に膨らんだことに恐れ慄いた。
(番になったら……。もう絶対にセラフィン先生の傍にはいられない。カイ兄さんに縛り付けられて、僕の心にはもう何の自由もなくなるんだ)
「勝手に決めないで! 番になんてならない!」
顔が胸の中に押し付けられるように抱えられた状態で、ヴィオはもがいてカイの胸板を左拳でどんどんと叩くが、悔しいことに相性抜群のカイの甘美なフェロモンの香りを嗅ぐと、まるで魔物にでも魅入られたかのように四肢に力が入らないのだ。
上目遣いにカイを見上げるヴィオは、睨みつけたいほどの怒りを抱えた心とは乖離した蕩けた年若いオメガらしい優艶な表情をみせている。その潤んだ菫色の瞳の艶めかしさに見惚れ、カイもここに来てから初めて男らしい口元に笑みを這わした。
「綺麗だな、ヴィオ。お前は嫌がるけど、俺はいつだってお前のことを、可愛い、綺麗だって褒めたくてたまらなかった。なあ……。お前にも、俺のフェロモンが分かるだろ? 俺は感じるよ。お前のフェロモン。甘くて、清純なのに、官能的で。お前を頭から全て食べつくしてやりたくなるほど、俺を煽ってくる」
ヴィオは再び口を開いてなんとかカイに反論しようとするが、ヴィオの抵抗を嘲るようにやわやわと悪戯するかのように口を塞がれたのち、再び濃厚に合わせ唇を奪われる。くちゅりと水音が立つほどに口内を貪られ、嫌がって押しのける手首は児戯のように軽々とカイの片手で抑え込まれて抵抗を軽々と封じ込まれた。息をつく間もなく、頭がぼうっとしてくるほどに、激しい接吻からはカイの思いが込められているかのようだが、セラフィンとの口づけに感じた胸躍る悦びに及ぶはずもない。
(どうやったら、わかってくれるの? セラフィンせんせい、助けて)
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀

【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる