香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

セラフィンの思い5

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 好みの美の極致とセラフィンの顔を両手で愛おし気に包み、とろとろになるほど耳や首筋、身体中の柔らかな部分を愛撫され、唇の力が抜け女のように柔らかくなってしまほど時間をかけて口づけを繰り返された。たまには寝台の上で脚を絡めあい、互いのものを可愛がって吐精をし、満ち足りた気分で眠りについたこともある。
 心地よくて、一途に愛されていると感じて。それでもセラフィンはジルを欲しいとは言わなかった。やはりバース性がアルファである自分は『抱く性』であるという意識が強かったし、友人としての範疇を大分超えた触れ合いをしている自覚はあったが、だからといってそれを人から咎められる必要もない。それが自分たちの形だと思っていたし、それ以上互いに踏み込まなければそれで構わないと思っていた。

(少なくとも、俺はそう思っていたが。ジル、お前はそうじゃなかったんだな。いや……。わかっていてそれでも俺はお前の気持ちを……)

 こんなにジルの部屋の前の赤い鉄の扉を前に緊張したことはなかった。
 ところどころペンキが剥げ、高級とは言えないその扉だったが、寮生活に別れを告げてここに移った時は開放感から本当にうれしそうな顔をしていた。セラフィンも引っ越しを手伝って、一晩中色々なことを語り合った、思い出深い部屋。

 鈍い音を立ててノックをすると内側から扉がゆっくりと開いた。
 ジルは逞しい胸筋が見える程シャツの前を寛げ、部屋着のズボンを腰まで落として履き、退廃的で身持ちの崩れたような男のような、彼らしくないだらしない格好をしていた。たばこの香りと僅かな酒の匂いに形良い眉を潜めてセラフィンは彼を上目づかいに見上げると、明け透けな欲を帯びた表情と目が合い凍り付く。

 扉を腕で押さえながら、口元に皮肉気な笑みを浮かべ、向日葵と称される絵画のような色合いの瞳を暗く細めてセラフィンを見下ろしてきた。

「意外と早かったな?」
「ジル、お前、酔ってるのか?」

 カシャン。足元でガラスが割れる音がして、花々を振りまいたような甘い香りが立ち昇る。

 掴みかかった手を逆に取られてセラフィンはそのまま部屋の中に引きずり込まれた。



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