香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

セラフィンの思い4

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 気持ちを固めてからほうっと艶めかしく吐息をつき、セラフィンは車内で揺られながら瞑目し考える。これから乗り込む家で自分を待ち構えているであろう男のことを想った。

(ジルがもしもヴィオの居場所を何らかの形でカイに話したのならばその理由で考えつけることがあるとすれば……。俺がヴィオを愛しているとあいつは知っているからだ)

 ジルのアパートはセラフィンの住む区画まで走って15分。とジルはよく言っていた。ランニングのコースにセラフィンの家が入っているのだといって、たまにふらっと家に立ち寄ってくる。

 大体今日はくるかもな、というような時に窓から顔を出すと、黄色い頭が元気に揺れながら駆け寄ってきて、窓を見上げて大きく手を振る。そんなところを見かけたこともあった。

 母国にいても留学していても知己と呼べるものを作ってこなかったセラフィンにとって、ジルは初めてできた真の友と言って過言ではないだろう。

 ジルは年齢こそはセラフィンより下だが万事如才なく社交性にすぐれ、勉強は苦手と言いながらも頭は切れ賢く、大抵のことを器用にこなせる。絶世の美人もかくやといわれるセラフィンの隣りに立っても見劣りしない、バランスが良く美的だが鍛え抜かれた体躯と優しげに見える垂れ目の人懐っこい笑顔で人を惹きつける。セラフィンもそんな笑顔に騙され絆された口だが、彼の内面は非常に情熱的でかつ強か。そして我儘なほど欲しいものを取りに行く生々しい部分もある。

(でも俺はジルの欲しいものをどうあっても取りに行く姿勢には触発されるものもがあるし、むしろ他の人間には狡猾に隠すそういう部分を俺には見せつけてくるところに一番惹かれたのかもしれない)

 学生時代明星と呼ばれる優等生をも飛び越えた学年の主席としてセラフィンとソフィアリは皆から一目置かれ、ともすれば容姿端麗な年下の秀才として隣に並び立つことを恐れ、倦厭される部分すらあった。
 信奉者を自認する下級生からは崇めたてられ、同級生や年上からは疎まれる。
 嫌気がさしてありのままの自分を見てくれる双子の兄への執着を余計に深めていったのだ。

 セラフィンが周りに張り巡らした壁をぶち壊してまで踏み入ってきた人間は最初から無様なさまをみせてしまった10も年上の女と、彼を妄信的に愛しているのかと思えば揺さぶりをかけてくる強引でかわいげのある3つ年下の男。

 居心地の良い関係はつかず離れず6年も続き、身体の関係に陥りかけた時もセラフィンが欲しいというまではけして先に進まぬように、ジルは巧みにその距離感を操っていたようだ。

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