111 / 222
略奪編
セラフィンの思い4
しおりを挟む
気持ちを固めてからほうっと艶めかしく吐息をつき、セラフィンは車内で揺られながら瞑目し考える。これから乗り込む家で自分を待ち構えているであろう男のことを想った。
(ジルがもしもヴィオの居場所を何らかの形でカイに話したのならばその理由で考えつけることがあるとすれば……。俺がヴィオを愛しているとあいつは知っているからだ)
ジルのアパートはセラフィンの住む区画まで走って15分。とジルはよく言っていた。ランニングのコースにセラフィンの家が入っているのだといって、たまにふらっと家に立ち寄ってくる。
大体今日はくるかもな、というような時に窓から顔を出すと、黄色い頭が元気に揺れながら駆け寄ってきて、窓を見上げて大きく手を振る。そんなところを見かけたこともあった。
母国にいても留学していても知己と呼べるものを作ってこなかったセラフィンにとって、ジルは初めてできた真の友と言って過言ではないだろう。
ジルは年齢こそはセラフィンより下だが万事如才なく社交性にすぐれ、勉強は苦手と言いながらも頭は切れ賢く、大抵のことを器用にこなせる。絶世の美人もかくやといわれるセラフィンの隣りに立っても見劣りしない、バランスが良く美的だが鍛え抜かれた体躯と優しげに見える垂れ目の人懐っこい笑顔で人を惹きつける。セラフィンもそんな笑顔に騙され絆された口だが、彼の内面は非常に情熱的でかつ強か。そして我儘なほど欲しいものを取りに行く生々しい部分もある。
(でも俺はジルの欲しいものをどうあっても取りに行く姿勢には触発されるものもがあるし、むしろ他の人間には狡猾に隠すそういう部分を俺には見せつけてくるところに一番惹かれたのかもしれない)
学生時代明星と呼ばれる優等生をも飛び越えた学年の主席としてセラフィンとソフィアリは皆から一目置かれ、ともすれば容姿端麗な年下の秀才として隣に並び立つことを恐れ、倦厭される部分すらあった。
信奉者を自認する下級生からは崇めたてられ、同級生や年上からは疎まれる。
嫌気がさしてありのままの自分を見てくれる双子の兄への執着を余計に深めていったのだ。
セラフィンが周りに張り巡らした壁をぶち壊してまで踏み入ってきた人間は最初から無様なさまをみせてしまった10も年上の女と、彼を妄信的に愛しているのかと思えば揺さぶりをかけてくる強引でかわいげのある3つ年下の男。
居心地の良い関係はつかず離れず6年も続き、身体の関係に陥りかけた時もセラフィンが欲しいというまではけして先に進まぬように、ジルは巧みにその距離感を操っていたようだ。
(ジルがもしもヴィオの居場所を何らかの形でカイに話したのならばその理由で考えつけることがあるとすれば……。俺がヴィオを愛しているとあいつは知っているからだ)
ジルのアパートはセラフィンの住む区画まで走って15分。とジルはよく言っていた。ランニングのコースにセラフィンの家が入っているのだといって、たまにふらっと家に立ち寄ってくる。
大体今日はくるかもな、というような時に窓から顔を出すと、黄色い頭が元気に揺れながら駆け寄ってきて、窓を見上げて大きく手を振る。そんなところを見かけたこともあった。
母国にいても留学していても知己と呼べるものを作ってこなかったセラフィンにとって、ジルは初めてできた真の友と言って過言ではないだろう。
ジルは年齢こそはセラフィンより下だが万事如才なく社交性にすぐれ、勉強は苦手と言いながらも頭は切れ賢く、大抵のことを器用にこなせる。絶世の美人もかくやといわれるセラフィンの隣りに立っても見劣りしない、バランスが良く美的だが鍛え抜かれた体躯と優しげに見える垂れ目の人懐っこい笑顔で人を惹きつける。セラフィンもそんな笑顔に騙され絆された口だが、彼の内面は非常に情熱的でかつ強か。そして我儘なほど欲しいものを取りに行く生々しい部分もある。
(でも俺はジルの欲しいものをどうあっても取りに行く姿勢には触発されるものもがあるし、むしろ他の人間には狡猾に隠すそういう部分を俺には見せつけてくるところに一番惹かれたのかもしれない)
学生時代明星と呼ばれる優等生をも飛び越えた学年の主席としてセラフィンとソフィアリは皆から一目置かれ、ともすれば容姿端麗な年下の秀才として隣に並び立つことを恐れ、倦厭される部分すらあった。
信奉者を自認する下級生からは崇めたてられ、同級生や年上からは疎まれる。
嫌気がさしてありのままの自分を見てくれる双子の兄への執着を余計に深めていったのだ。
セラフィンが周りに張り巡らした壁をぶち壊してまで踏み入ってきた人間は最初から無様なさまをみせてしまった10も年上の女と、彼を妄信的に愛しているのかと思えば揺さぶりをかけてくる強引でかわいげのある3つ年下の男。
居心地の良い関係はつかず離れず6年も続き、身体の関係に陥りかけた時もセラフィンが欲しいというまではけして先に進まぬように、ジルは巧みにその距離感を操っていたようだ。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる