香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

首輪2

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数日前病院の会計係にカイが呼び出されたのは、オメガ用の首輪の精算は、技師に直接支払うことになるので早めにお願いしますとの連絡だった。
受け取った首輪は初めてオメガの診断を受けたものに処方されるもので、内側は白い山羊の革で柔らかく、外側は艶やかなコートバーンを張り合わせ、後ろについた鍵で止められる仕組みだ。かなり堅牢な造りになっていると説明を受けた。鍵はスペアも含めて二つあった。しかしどう考えてもリアの首の大きさより太く感じたのだ。

「これ、サイズが間違っていませんか?」
「きちんと図って作っていますよ。ほら、ちゃんとサイズが書き込まれていますでしょ?」

首輪が入っていた箱の外側には測定した日付、数値、そして『ヴィオ・ドリ』の名前が入っていた。

「この首輪、もう一つ注文を受けていませんでしたか?」
「いえ、一つだけです」

(やっぱりな。オメガだったのはヴィオだけで、リアはベータだったということだ。二人で結果をすり替えて、俺に嘘をついた)

何故嘘をつく必要があったのか。それはきっとアガとのカイとの間の約束をヴィオが知りえていたに違いない。伝統の家で話をした後、僅かにヴィオの残り香りがしていた気がしたが、あの時話を聞いていたのかもしれない。

(俺と番うことが嫌だから、俺から逃げるために嘘を……)

怒りが沸き起こり、同時に今まで感じた事のないほど自分では止められないほどの昏い感情が胸の内に溢れ、どろりと流れるのを感じた。
愛し慈しんで宝物のように郷の中に隠していたのに、いつしかヴィオはカイの知らぬまに嘘をついてまで広い世界に飛び出していってしまった。でも今ならまだ間に合う。

番になりさえすれば、ヴィオはもう離れていくことはないだろう。

何故なら、自分たちは……。

森の学校で感じたヴィオのフェロモンを記憶の中で反芻すると、身体の中で本能の核のようなものが熱く大きく広がって力が湧き上がる心地になるのだ。あの時一瞬恍惚とした表情を見せたヴィオの蕩けた顔を思い出して自分を奮い立たせる。

(俺の直感はきっと間違いない。ヴィオ、俺たちは同族のアルファとオメガ。傍にいさえすれば誂えたように互いのフェロモンに必ず引き合う運命だ。逃がさない。絶対にこの腕に取り戻してやる)

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