香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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略奪編

カイ5

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若き日のヴィオによく似た少女だった妻も、アガに熱心に恋われて山奥の里で暮らすことを了承してくれたが、時折周囲の山が見渡せるような山頂にたち、遠くを見つめて寂しそうに赤い唇をきゅっと噛みしめていた。

 ああこの子は、こんな場所に留めていい子ではなかったのだとアガはそう思ったが、どうしても彼女を愛することを諦められなかった。

「風の神に愛されたソート族のオメガを山に留めたことで罰が当たったのか……。俺は番をはぎとられてこのざまだ。カイ、お前は自分の本能に従って、愛するものを選び出したら絶対にその手を死ぬまで離すな。それがリアであってもヴィオであっても、ほかの子であっても俺は構わん。カイ、お前は俺の息子も同然だ。俺のように後悔ばかりが多い人生を送って欲しくない」

 アガの包み隠さぬ気持ちを受け取って、カイは決意を新たに拳を握りしめる。

「わかりました。後悔しないように、俺はヴィオを探したい。あって自分の気持ちを一度しっかり確かめたいんです」

 アガの言葉に後押しをされる形になり、カイは中央にとんぼ返りした。とりあえずは消えてしまったヴィオを探すためだ。ベータであっても、成人したての世間知らずの彼をそのまま中央に放置しておくのは不安があった。

 寮に戻ると一度職場に顔を出した。その思ったよりも早い帰還にみな驚いていたし、寮に住む物には何故噂の美人従姉弟をつれてこなかったのだとかいろいろ文句を言われたが、カイは力なく微笑むばかりだった。
 同僚が病院から請求の件で連絡が入っていると職場から連絡が入っていたと教えてくれた。

 それは先日リアとヴィオを検査してもらった時にかかった請求について、特に別の業者に直接支払う必要のある装具の精算についての確認だったのだ。診療はなく会計の話だけなら受付が開いているだろうとカイは終了時間ぎりぎりで病院に立ち寄ると、そこで驚くべきことに気づかされたのだった。
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