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略奪編
面映ゆい朝1
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朝、ヴィオはこめかみのずきずきとした痛みで目を醒ました。瞼が重くてなぜか目元少しひりついている。
(ああ、僕、昨日の夜泣いたんだ)
ぼんやりとした頭でそう考えた。しかしすぐに自分がローブ姿のセラフィンに抱きかかえられ、なぜか衣裳部屋のマットレスの上で二人揃って眠っていたと知ると、腕の中で起き上がろうとじたばたともがいた。だが見た目よりずっと硬く逞しいセラフィンの腕はびくともせずに阻んでくる。
彼は無意識に他の誰からもヴィオを奪われぬように、一晩中愛する少年を抱きしめて眠っていたのだ。
(僕、ちゃんと先生の寝巻き、きせてもらってる。先生はバスローブ。お風呂にも入れてもらったみたい)
生乾きで寝たの髪の毛で視界が悪くて顔の前の毛をどけようとするとごわごわとした感触が伝わってくる。
「せ、先生。おきて。起きてください」
セラフィンの熱い胸板につけていた顔をもぞもぞと動かしながらそう呟くと、セラフィンが僅かに身じろぎしてゆっくりと目を醒ました。
そしてヴィオの頭の下に回した腕を動かし、ヴィオの顔が良く見えるように少しだけ身体を離すと、青い瞳に愛情にあふれた蕩けるような甘い微笑みを浮かべた。
「ヴィオ、おはよう」
その少し掠れた声があまりにセクシーで、ヴィオは腰のあたりがへにゃりとなるような心地になった。
衣装部屋の小窓からは早朝の白々とした朝日が差し込んでいたが、二人のいる床までは届かず、なんとなく健全な朝の風景というよりは静かで艶めかしい夜の続きのような雰囲気を醸し出していた。
こちらを見つめるあまりの美貌にヴィオが見惚れてうっとりと彼を見つめていると、ふいにセラフィンの美しい手元がヴィオの顎を捉えて、自然な仕草でそのまま唇を寄せてきた。ヴィオはびっくりしてセラフィンの唇を掌で押し返すようにとんっと触れてしまった。
「え、あ、先生?」
セラフィンは長い黒髪を無造作にかきあげると美しい杏仁型の瞳を見開いて目をぱちくりした。その飾らない仕草と碧い瞳の美しさにヴィオはもっとよく見たくなってまた顔を近づけて覗き込んでしまった。
セラフィンはヴィオの手首を取って意図的に唇を愛を恋うように掌にすりつけると、そのままあたたかなそれを自分の頬につけ悩まし気な表情でヴィオに向かって掠れ声を出した。
「ヴィオ、そうして無防備に顔を寄せてくるのに、今朝はおはようのキスもさせてくれないのだな。昨夜のお前は夏の宵に俺を惑わしに現れた美しい夢魔のようだったのに、今朝はまた頑なに蕾が閉じた花に戻って、つれなくて俺は哀しい」
「えっ」
また無防備に吐息をついたふっくらした唇に、今度こそセラフィンは啄むように口づける。緊張から身を一瞬こわばらせたヴィオだが、その硬くなった唇を解くように柔らかく優しく繰り返される接吻は心地よく、ヴィオは夢見心地で眠りに落ちる前の熱く激しく妖艶な記憶の端々を思い出していた。
間近に見えた日頃の平静さをかなぐり捨てたセラフィンの美しい顔が苦し気にゆがめられた様がすごく色っぽくて、ヴィオはそんなことを彼の腕の中で思い出しては顔を真っ赤にした。
(僕、僕、なんてはしたないことをしてしまったんだろう。先生に嫌われちゃう)
しかし当のセラフィンがそんなことを考えるはずもなく、むしろとにかく甘い仕草を繰り返してヴィオの顔中にいつまでもキスを送ってきたのだ。
「せんせぇ、くすぐったいよ」
くすくす笑いながら、ヴィオは至極真面目に考えた。
(ん? 先生からは嫌われてない? 抑制剤がきれたことで起こったことなんだし、正常だって先生も言ってたからあれは先生にとってはなんでもないことなのかな? へへ。でもなんだか、昨日のデパートといい、恋人同士みたいで嬉しいなあ)
もちろんセラフィンは思いが通じ合った(と思った)昨晩の余韻を楽しみながらそのつもりでヴィオに接しているのだが、恋愛経験ゼロのヴィオにはいまいち伝わっていない。
(大分先生と打ち解けられた。嬉しい)
それが今朝の二人。その後大人のセラフィンは特に昨晩のことには触れずに起き出すと、互いに乾かさずに眠ってぼさぼさになった髪の毛に言及した。
「実は今日はこれから俺の実家に挨拶に行く。だから身だしなみを整えていこう。俺の母は……」
「ジブリール様ですよね? 昨日マダムに聞きました。お会いしたかったから嬉しいです」
マットレスの上で両手を互いに繋ぎあった二人はニコニコと顔を見合わせるとそれからまたマットレスの上に寝転がったりと休日の朝の甘いひと時をゆったりと過ごしていた。それが今朝の話。
(ああ、僕、昨日の夜泣いたんだ)
ぼんやりとした頭でそう考えた。しかしすぐに自分がローブ姿のセラフィンに抱きかかえられ、なぜか衣裳部屋のマットレスの上で二人揃って眠っていたと知ると、腕の中で起き上がろうとじたばたともがいた。だが見た目よりずっと硬く逞しいセラフィンの腕はびくともせずに阻んでくる。
彼は無意識に他の誰からもヴィオを奪われぬように、一晩中愛する少年を抱きしめて眠っていたのだ。
(僕、ちゃんと先生の寝巻き、きせてもらってる。先生はバスローブ。お風呂にも入れてもらったみたい)
生乾きで寝たの髪の毛で視界が悪くて顔の前の毛をどけようとするとごわごわとした感触が伝わってくる。
「せ、先生。おきて。起きてください」
セラフィンの熱い胸板につけていた顔をもぞもぞと動かしながらそう呟くと、セラフィンが僅かに身じろぎしてゆっくりと目を醒ました。
そしてヴィオの頭の下に回した腕を動かし、ヴィオの顔が良く見えるように少しだけ身体を離すと、青い瞳に愛情にあふれた蕩けるような甘い微笑みを浮かべた。
「ヴィオ、おはよう」
その少し掠れた声があまりにセクシーで、ヴィオは腰のあたりがへにゃりとなるような心地になった。
衣装部屋の小窓からは早朝の白々とした朝日が差し込んでいたが、二人のいる床までは届かず、なんとなく健全な朝の風景というよりは静かで艶めかしい夜の続きのような雰囲気を醸し出していた。
こちらを見つめるあまりの美貌にヴィオが見惚れてうっとりと彼を見つめていると、ふいにセラフィンの美しい手元がヴィオの顎を捉えて、自然な仕草でそのまま唇を寄せてきた。ヴィオはびっくりしてセラフィンの唇を掌で押し返すようにとんっと触れてしまった。
「え、あ、先生?」
セラフィンは長い黒髪を無造作にかきあげると美しい杏仁型の瞳を見開いて目をぱちくりした。その飾らない仕草と碧い瞳の美しさにヴィオはもっとよく見たくなってまた顔を近づけて覗き込んでしまった。
セラフィンはヴィオの手首を取って意図的に唇を愛を恋うように掌にすりつけると、そのままあたたかなそれを自分の頬につけ悩まし気な表情でヴィオに向かって掠れ声を出した。
「ヴィオ、そうして無防備に顔を寄せてくるのに、今朝はおはようのキスもさせてくれないのだな。昨夜のお前は夏の宵に俺を惑わしに現れた美しい夢魔のようだったのに、今朝はまた頑なに蕾が閉じた花に戻って、つれなくて俺は哀しい」
「えっ」
また無防備に吐息をついたふっくらした唇に、今度こそセラフィンは啄むように口づける。緊張から身を一瞬こわばらせたヴィオだが、その硬くなった唇を解くように柔らかく優しく繰り返される接吻は心地よく、ヴィオは夢見心地で眠りに落ちる前の熱く激しく妖艶な記憶の端々を思い出していた。
間近に見えた日頃の平静さをかなぐり捨てたセラフィンの美しい顔が苦し気にゆがめられた様がすごく色っぽくて、ヴィオはそんなことを彼の腕の中で思い出しては顔を真っ赤にした。
(僕、僕、なんてはしたないことをしてしまったんだろう。先生に嫌われちゃう)
しかし当のセラフィンがそんなことを考えるはずもなく、むしろとにかく甘い仕草を繰り返してヴィオの顔中にいつまでもキスを送ってきたのだ。
「せんせぇ、くすぐったいよ」
くすくす笑いながら、ヴィオは至極真面目に考えた。
(ん? 先生からは嫌われてない? 抑制剤がきれたことで起こったことなんだし、正常だって先生も言ってたからあれは先生にとってはなんでもないことなのかな? へへ。でもなんだか、昨日のデパートといい、恋人同士みたいで嬉しいなあ)
もちろんセラフィンは思いが通じ合った(と思った)昨晩の余韻を楽しみながらそのつもりでヴィオに接しているのだが、恋愛経験ゼロのヴィオにはいまいち伝わっていない。
(大分先生と打ち解けられた。嬉しい)
それが今朝の二人。その後大人のセラフィンは特に昨晩のことには触れずに起き出すと、互いに乾かさずに眠ってぼさぼさになった髪の毛に言及した。
「実は今日はこれから俺の実家に挨拶に行く。だから身だしなみを整えていこう。俺の母は……」
「ジブリール様ですよね? 昨日マダムに聞きました。お会いしたかったから嬉しいです」
マットレスの上で両手を互いに繋ぎあった二人はニコニコと顔を見合わせるとそれからまたマットレスの上に寝転がったりと休日の朝の甘いひと時をゆったりと過ごしていた。それが今朝の話。
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