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略奪編
ジブリール・モルス2
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「ねえ、やっぱりこのドレス、少し若作り過ぎるわよね。セラフィンにあきれられてしまうわよね。着替えてこようかしら」
少女趣味と言えなくもない淡い水色のドレスだが、未だ肌に染み一つなく実年齢よりは10歳は若く見えるジブリールが身にまとっている分には全く違和感はない。
「お似合いですからもうお座りください。ジブリール様」
しかしこれほどジブリールがうろたえるのも無理もない。昨日の夕方、まずはセラフィンが勤め先からちょうど彼の自宅を整えているであろうマリア宛に連絡を入れてきて、マリア伝いでジブリールに自分が昔使っていた部屋か、さもなければ客間を一部屋使わせてほしいという申し入れをしてきたのだ。
そして今度は夕方にアズラエル百貨店のマダム・リュバンの店から連絡が入り、明日午前中に洋服をお届けに上がるという趣旨の報告がなされた。
マリアは今でもセラフィンの家に弟子である現役の侍女を毎度一人は連れて週に一回程度セラフィンの元を訪れている。マリアは長らくモルス家のつかえてきた女性で、モルス家の使用人が使う棟の中に自分の部屋を持っている。若くして夫に先立たれて天涯孤独となった彼女は、人づてに先代夫人に紹介されてモルス家に入った。それからは一身に仕事に打ち込み、現在でも使用人たちのご意見番でありつづけている。もちろんジブリールにとっては母親よりも身近な女性だ。
そのマリアからセラフィンが最近家にまだ少年の域をでていないような若い男を留め置いて面倒を見ていると耳を疑うような報告があった。まさかこんなに早く実家につれてくるとは。
その上、午前中のごく早い時間に旧知の友であるマダムリュバンが自らセラフィンのものではなくその少年のものという洋服と、ものすごい量のスケッチ画を持ち込んできたので日頃おっとりとしたジブリールも流石に驚いて手にした優美なカップを取り落しかけたほどだ。
今朝はコバルトブルーの海のように真っ青なドレススーツ姿に首に大粒のダイヤとパールをあしらったネックレスをつけて、マダムは興奮気味にまくしたててくるからジブリールの眼はチカチカしてしまった。
『ジブリール様! おめでとうございます! 本当に愛らしいオメガの男の子でしたのよ。写真館の店主も本当に麗しい二人だったって、二人で昨日の晩は盛り上がってお酒が進みましたわよ。お写真も後程写真館から届くと思いますわよ。私、勝手が過ぎるとは思いましたけれど、どうしても湧き上がるインスピレーションを抑えることが叶わなくて、婚礼衣装のスケッチをお持ちしましたわ』
『婚礼衣装!』
セラフィンとおよそ結びつかない煌いた単語にジブリールは嬉しいやら動悸が止まらないやらで眩暈がしそうになってソファーに深く腰掛けなおしたものだった。
その、マダムの置き土産である婚礼衣装とやらのスケッチはマリアが両手にもって、めくっては目を見開いて『奇抜なものが多すぎますわ』と苦言を呈している。
「ねえ、マリア。セラフィンが連れてくるのはきっと番にしたい子なのよ! ああ、あの子にそんな日が訪れるなんて、聖堂にいって愛の女神様に感謝の花束を今すぐに届けに行きたいぐらいだわ。なのに番の相手の母親がこんな感じで頼りなく見えたらいやじゃない?」
「とにかくもう見えると思いますから落ち着いて下さいませ」
そうしている間に若い侍女が先触れにやってきたのだ。
「セラフィン様がみえました。こちらに向かっておいでです」
ジブリールとマリアは互いに笑顔で顔を見合わせ、テーブルの上も季節の花々で彩られた席について二人の到着を待った。
少女趣味と言えなくもない淡い水色のドレスだが、未だ肌に染み一つなく実年齢よりは10歳は若く見えるジブリールが身にまとっている分には全く違和感はない。
「お似合いですからもうお座りください。ジブリール様」
しかしこれほどジブリールがうろたえるのも無理もない。昨日の夕方、まずはセラフィンが勤め先からちょうど彼の自宅を整えているであろうマリア宛に連絡を入れてきて、マリア伝いでジブリールに自分が昔使っていた部屋か、さもなければ客間を一部屋使わせてほしいという申し入れをしてきたのだ。
そして今度は夕方にアズラエル百貨店のマダム・リュバンの店から連絡が入り、明日午前中に洋服をお届けに上がるという趣旨の報告がなされた。
マリアは今でもセラフィンの家に弟子である現役の侍女を毎度一人は連れて週に一回程度セラフィンの元を訪れている。マリアは長らくモルス家のつかえてきた女性で、モルス家の使用人が使う棟の中に自分の部屋を持っている。若くして夫に先立たれて天涯孤独となった彼女は、人づてに先代夫人に紹介されてモルス家に入った。それからは一身に仕事に打ち込み、現在でも使用人たちのご意見番でありつづけている。もちろんジブリールにとっては母親よりも身近な女性だ。
そのマリアからセラフィンが最近家にまだ少年の域をでていないような若い男を留め置いて面倒を見ていると耳を疑うような報告があった。まさかこんなに早く実家につれてくるとは。
その上、午前中のごく早い時間に旧知の友であるマダムリュバンが自らセラフィンのものではなくその少年のものという洋服と、ものすごい量のスケッチ画を持ち込んできたので日頃おっとりとしたジブリールも流石に驚いて手にした優美なカップを取り落しかけたほどだ。
今朝はコバルトブルーの海のように真っ青なドレススーツ姿に首に大粒のダイヤとパールをあしらったネックレスをつけて、マダムは興奮気味にまくしたててくるからジブリールの眼はチカチカしてしまった。
『ジブリール様! おめでとうございます! 本当に愛らしいオメガの男の子でしたのよ。写真館の店主も本当に麗しい二人だったって、二人で昨日の晩は盛り上がってお酒が進みましたわよ。お写真も後程写真館から届くと思いますわよ。私、勝手が過ぎるとは思いましたけれど、どうしても湧き上がるインスピレーションを抑えることが叶わなくて、婚礼衣装のスケッチをお持ちしましたわ』
『婚礼衣装!』
セラフィンとおよそ結びつかない煌いた単語にジブリールは嬉しいやら動悸が止まらないやらで眩暈がしそうになってソファーに深く腰掛けなおしたものだった。
その、マダムの置き土産である婚礼衣装とやらのスケッチはマリアが両手にもって、めくっては目を見開いて『奇抜なものが多すぎますわ』と苦言を呈している。
「ねえ、マリア。セラフィンが連れてくるのはきっと番にしたい子なのよ! ああ、あの子にそんな日が訪れるなんて、聖堂にいって愛の女神様に感謝の花束を今すぐに届けに行きたいぐらいだわ。なのに番の相手の母親がこんな感じで頼りなく見えたらいやじゃない?」
「とにかくもう見えると思いますから落ち着いて下さいませ」
そうしている間に若い侍女が先触れにやってきたのだ。
「セラフィン様がみえました。こちらに向かっておいでです」
ジブリールとマリアは互いに笑顔で顔を見合わせ、テーブルの上も季節の花々で彩られた席について二人の到着を待った。
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