香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

文字の大きさ
上 下
85 / 222
再会編

欲2

しおりを挟む
「抑制剤が切れて、近くにアルファが沢山いて、こうなってしまうのは仕方がないことだ」

アルファが沢山、とヴィオの耳元で何気なく呟いたが、どこかその言葉に険があり自分自身が他のアルファに対しどうしょうもなく嫉妬していることにセラフィンは気が付いた。

「ヴィオ? さっきベラになにかされたのか?」

ヴィオはそんな風に尋ねられたが下半身を覆うものを完全に抜き取られ床に落とされてしまったため、それどころではなかった。ぐずぐずになって力が入らない身体のままどうにか足を閉じようとする。しかし何故かセラフィンの腕が意地悪するようにその動きを阻んだ。

「せんせい、やだ、恥ずかしいよ」
「ヴィオ、応えなさい。ベラに何かされたのか?」

 いいしな、セラフィンの利き手である左手がヴィオの雄蕊を摺り上げてきた。

「ひゃああ、あっ、あん」

 腰を浮かし刺激を逃そうとするも、セラフィンは巧みに右足の膝に腕を入れて固定し、左足を左の膝下に入れて割り開く。
 完全に身動きを封じられたヴィオは辛くて切なくて、ぽろぽろと生理的な涙を零した。

「ベラはああ見えてお前みたいな可愛い男に目がない生粋のアルファだ。お前なんて一飲みで腹の中に収められてしまう。だから部屋からでるなといったのに」

 先走りを利用してぬるりと摺り上げられるからたまらない。ヴィオは早くも高まってくる射精感に喘ぎながらも反骨の気持ちがむくむくと沸き起こった。

(そんなのひどいよ。先生になにかあったのかと思ったんだよ)

 言葉にならなかったがヴィオは心の中で反論していた。しかし口から出た言葉は意外にもセラフィンを詰る言葉だった。

「せんせいが、あのひとと、く、くちづけしてて、なのにせんせいは、ぼ、ぼくのことだけ、おこる」

「俺が、ベラと?」

 まさかヴィオが反論してくると思っていなかったセラフィンは大人の余裕など完全に抜け落ちて、素のままで訊き返してしまった。

 同じ方向を向いているヴィオの表情はセラフィンにはわかりかねたが、声はやや怒気をはらみ、でも喚き声まで可愛らしく拗ねているような口調だった。

「鍵穴から、せんせいたちをみてたんだ。せんせい、ぼくがいるのにあのひとと……。あのひとが暗示をかけたっていってたけど、それでも、いやだった。かなしかったんだ」

 完全に泣き声に変わった告白は、しかしセラフィンの心にまっすぐに飛んできて矢で心臓を打たれたように、すとんと突き刺さってしまった。

「ヴィオ、それは、つまり……」

(ヴィオは俺とベラとのことを、嫉妬している? ヴィオも、俺のことを……)

 セラフィンも頭にかあっと血が上ってきてしまい、思わずヴィオのそれを手の内で強めに握りこんでしまった。

「あうう、せんせい、つらい、も……。おねがいいぃ」

 もはや一刻も早く、この高まりを開放して欲しいのだろう。そこだけ雄らしく形を変えたそれはなぞるとオメガであるのに怒張といえるほどの硬さと角度を保ち、引き締まって腹筋が綺麗に割れた腹にもつくほどだ。その腰を使ってセラフィンの手の内に擦り付けるようにして淫らに腰を動かし始めた。
 その姿はひどく原始的で、ヴィオは野性的で強い若い獣の雄であると同時に、もはや耐えられぬほどの色香と魅惑的な甘い香りを立ち昇らせる雌でもあるとまざまざと見せつけられた。

 セラフィンの全身がざわざわと総毛たち、危険を知らせるように頭の中に警報が鳴り響く。

(とにかく抑制剤を……)

 一度ヴィオの右足を放し、手で探るようにして抑制剤を掴み上げると、ぷっくりと赤く色づく唇を指先で割り開くようにして薬をいれた。
 しかしいきなり指と苦い薬を突っ込まれたヴィオは目を白黒させて思わずぺっと薬を吐き出す。

「こら、ヴィオ!」
「……!」

 セラフィンはもう一錠、薬を入れていた巾着から気ぜわしく取り出すと、それを自分の口に含み、ヴィオの顎を掴むと柔らかな唇を荒々しく指で開かせ、舌の上に錠剤を載せたまま熱い腔内へ挿し入れた。
 その舌を柔やわとヴィオがふっくらした唇で食んでくる。口の中に薬を受け取ると、薬まじりの苦い唾液ごと喉の奥に落ち、こくんと飲み込む。セラフィンはヴィオが素直に薬を受け取ったことに満足げに唇を離すと今度はコップの水を含み、再び唇を近づける。ヴィオは蕩けた表情で半ば唇を開くと、セラフィンの口づけごと水を受け取り、またこくんと喉を動かす。
 再び放そうとした唇を惜しむようにヴィオが柔らかな舌先でセラフィンの薄い唇をちろりと舐めた。

「せんせい、もっと」

 セラフィンの腕の中腰を淫らに蠢かせ、瞳孔が広がり、それと共に金色の環が紫の瞳の中で大きく広がっていく。それはセラフィンのまだ知らない。ヴィオの中にあるもう一つの貌。危険なほど美しい、フェル族の頂点に立つ、雌の肉食獣の貌だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。 残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。 そうした事故で、二人は番になり、結婚した。 しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。 須田は、自分のことが好きじゃない。 それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。 須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。 そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。 ついに、一線を超えてしまった。 帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。 ※本編完結 ※特殊設定あります ※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)

番の拷

安馬川 隠
BL
オメガバースの世界線の物語 ・α性の幼馴染み二人に番だと言われ続けるβ性の話『番の拷』 ・α性の同級生が知った世界

処理中です...