香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

欲1

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 何ということなんだ……。
 ヴィオは戸惑いの中で顔を真っ赤にし、項垂れていた。

(せんせいの匂い、いい匂いで……)

 セラフィンの香りを夢中で嗅いだら、あろうことか足の間のものがゆるゆるどころではなく急激に熱を帯びて立ちあがってしまったのだ。

 人前でこんな状態になったことは勿論なく、自分は寧ろそういう欲は薄い方でかつ姉や叔母など女性に囲まれて育ったヴィオには、年頃の男の子らしい猥談など気軽に話せる相手などあるはずもなく……。

 話には聞いていたし、朝にはなんとなく立ちあがってはいるがだからと言ってわざわざ自分からそこに手を伸ばしてしまうこともなかった。

 なのに今、セラフィンがすぐそばにいるこの位置でこんなことになってしまい、ヴィオはセラフィンが鞄を取りに背を向けている隙に急いで自分の下半身を覆えるものを探し出そうとしたが見当たらない。

(どうしよう、先生戻ってきちゃうよ)

 羞恥のあまり頭が冴えてきたが焦れば焦るほど顔から湯気が出そうなほどで、身体中が炎に炙られ熱が逆巻くようだ。

 不幸なことにマダムに着せ替えられた白いボトムは身体の線を活かすためにぴったりとしたデザインで、その部分を締め付けられて痛くもなるは、恥ずかしいやら、でもいきなりすぽんと脱ぐわけにもいかず焦りでパニックになった。とりあえずヴィオはソファーから転げ落ちるように降りると、身体の力がぐずぐずに入らないまま這うようにして寝室に戻ろうとした。

「何をやってるんだ。ヴィオ」

 低く怜悧なそれがいつもよりどこか熱を帯びているように感じるセラフィンの声が頭上から降り注ぐ。

「はうっ」

 戻ってきたセラフィンに声をかけられ、思わず雄たけびを上げてしまい、動物のように四つ足でいたところから横向きにごろんと床に転がると、顔を見られたくなくて思わず両手で覆って隠した。そんなヴィオの奇行に臆することなくセラフィンが低い音程で息をつき笑う気配がした。

「ヴィオ、恥ずかしがることはない。正常な反応だ」

 戻ってきたらヴィオがソファーから転げ落ちているので驚いたが、セラフィンは彼のもじもじとした動きに大体を察していていた。

ローテーブルに水の入ったコップと錠剤タイプの抑制剤を置くとヴィオの背中と細腰の下に腕を入れてひょいっと抱き上げる。そして再びソファーの上にヴィオを膝に乗せたままどかっと座った。
二人分の重さで革のソファーが軋みながら凹み、揺れた拍子に腰に当てていたセラフィンの手がヴィオの股間に当たってしまってヴィオは小さく『あぁ』と泣声を上げた。

「すまない、こんな状態ではつらいよな」

いいしなヴィオの背中をわが胸に預けさせたまま、セラフィンはこともなげに呟いたのちヴィオのボトムの金具を片手で器用に緩めていった。

「だめ、だめだめ!!!」

声は意外と元気だが、ズボンをと下着を引き抜こうとしているセラフィンの指の長い大きな手に、ヴィオは骨格がしっかりした青年らしい手を載せて力なく抵抗を試みる。

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