香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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再会編

異国2

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「あら、驚いた。もう目が醒めたの? やっぱり効きにくくなってる。結構正気に戻るのが早かったわね」

 強かで華麗で、寂しい人。たまにセラフィンに揺さぶりをかけるように、自分と他の青年たちとの情事を見せつけてはセラフィンの心を試してきた。
今回もそのたぐいのことなのだろう。しかしセラフィンにとってはまるで違う意味を持つことだ。

 セラフィンにとっての聖域。それに彼女が土足で踏み込んだに等しい行為。
動かぬ身体にも届いていたのはヴィオの香り、ヴィオの呼ぶ声。
今のセラフィンにとって至宝とも呼べる彼が、セラフィンを求めてくれた。

 まだふらつく足を自分で叱咤しながら立ち上がると、寝台に乗り上げ彼女の胸倉を掴んでヴィオの上から引きずり下ろした。自身でも思いがけぬほど苛烈な感情に支配され、青い目をギラつかせながら、日頃絶対に出さぬほどの怒気をはらんだ声をかつての師に向けて張り上げたあげた。

「ヴィオには手を出すな、俺には何をしてもいいが。ヴィオは駄目だ。今後もしヴィオに何かをしたら俺は貴女を絶対に許さない。俺と出会ったことすら後悔させてやる」

 彼女の首元を渾身の力で掴み上げ、鼻が触れ合うほどの間近な距離まで顔を寄せるとそのまま締め上げる。苦し気に眉を寄せるが彼女は怯まず、長い赤い爪が食い込み、血が流れる程セラフィンの肩を掴み上げた。

「ちゃんと私の望みを聞いて頂戴」

「それが人にものを頼む態度ですか?」

「じゃあ、屈服させてあげる。軍人上がりと軍医。どちらが勝つかしら? 私が勝ったら、今度こそその子をもらうわよ」

 瞬時にベラが強いアルファの威圧フェロモンを出し、寝台の上のヴィオがあえかな悲鳴を上げる。抑制剤の切れているヴィオにとってはアルファが間近で争う状況など恐怖以外の何物でもないだろう。
 それに気を取られた瞬間、ベラが腕に着けていた太い腕輪を暗器代わりに拳に移動させ、セラフィンの胸をついてきた。重たいその一撃を咄嗟にガードするがさらに繰り出される攻撃から僅かに距離をとるため仕方なく首にかけた手を外す。すかさず柔術の経験を活かして袖ごと手首を取ると彼女の肩と腕に脚を巻き付け、肘の関節を逆向きに極め、ぐいぐいと締め上げる。このままいくと靭帯を断裂させることはたやすいが、流石にベラはうめき声一つ上げずにそれに耐え、セラフィンは手加減のタイミングを図れずにいた。

「そこまでだ。ベラドンナ・エドモンド、というより先生か?」

 制圧用の警棒を身に構えたまま、ゆっくりと部屋に踏み込んできたのは警察官でもあるジルだった。

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